62話 先代のドラゴン
Q.ヴァルダとは…?
A.この世界でいう神のようなものと思ってもらえれば!
影が、俺にふりかかった。と思えば、それは俺を素通りし、すぐ後ろへと移る。
キュラゴクスとラナリリスには、こっちの世界で色々探してみると言ったものの…
全知王の反応もなければ人もいない状況下なんて、正直何からすればいいのかわからない。
あれから一通り街を回ったが、やはり何にも手掛かりは見つからなかった。ただただ、人のいない世界で影と共に時間を過ごすだけ…
一生ここに閉じ込められるのかもしれないという恐怖が、俺を渦巻いていく。
なんだか中学生の時にやったな、こんな物語。怠惰してたら閉じ込められて、「馬鹿だ」って罵り合ってたやつ。
「……お前は馬鹿だ」
ドオオオオオン!!!
静寂を、大音量と衝撃波が破壊した。え?もしかして、誰かいるのか?!そう思って後ろを振り向くと…
路地から、紫色の物体が出て来たのが見えた。それはあり得ない速度でこちらへ進んでくる。
気がついた頃には、刀が目の前に来ていた。俺は咄嗟に左に上半身ををのけぞらせて避け、火弾で壁を作る。
奴は、そんなことは気にせずに再び斬り掛かって来た。俺は急いで槍を生成して、対応する。辺りに火花が飛び散り、鋭い金属音が鳴り響いた。なんだよ…!俺、何にもしていないぞ⁈
その剣士は、女だった。見覚えしかない紫色の髪をしている…ラナリリスの兄弟か何かか?俺たちは数分間やり合った後、彼女は急に剣を止めた。
「久しぶりだな…ドラゴン」
「……久しぶり?俺とお前は、一度も会ったことはないと思うが」
「………?あなたは…ガレゴスという名に、聞き覚えはあるか?」
ガレゴス…?誰だよ、それ!そんな名前知らない!
「ない。それが…どうした?」
「………そうか。では、この世界に来たことはあるか?」
「それもないな。あんたこそなんなんだ、急に斬り掛かって来て」
「最後だ。あなたは死を司る神に、会ったことはあるか」
「……ない。」
「………わかった、ありがとう。早速だが、謝らなければならないことがある。すまないが、私はあなたを他の人間と間違えたようだ。急な奇襲をお詫びする」
よかった…人違いか。こんな強いやつと敵対したら、負けはしないにしてもどれだけ面倒なことになるか………
「………本当に驚いた。刀を向けられた時は」
「それで、君はなぜここにいるんだ?また、殺されでもしたのか?」
「いや、俺はただ鏡を踏んでしまって…気がついたらここに居た。どうやって戻ればいいのかわからなくて今は立ち往生しているところだ」
「鏡…か……再度聞くことになるが、本当にガレゴスとの面識はないんだな?」
「?ああ。ガレゴスっていうのは誰のことだ?」
「いや…知らないならそれに越したことはない。私は、あなたのようにこの世界へ入って来た人間を幾度も見ている。送り返す方法も知っている…ついてこい。邪魔が入らなければ、すぐに元の世界へ送り返せる」
彼女は圧倒的フラグを立てながら、俺の案内を始めようとした。
「ちょっと待ってくれ」
「まだ、何か聞きたいことが?」
「ああ。俺はあんたについていく以外今はできることがないからそうするが…あんたは何者だ?それだけは一応聞いておきたい」
「私は…いや、私はあなたと同じく、鏡の向こうから来た人間だ。名は泡沫という」
「泡沫…そうか…ここにずっといるのか?」
そういうと、彼女は首を縦に振った。出る方法を知っているのに、何故ここから出ないのか…?
「わかった。急におかしなことを聞いてすまない、泡沫。案内をよろしく頼む」
彼女は無言で頷き、俺を連れて街の外れの方へ歩き始めた。古びた石造りの小さな建物に入り、奥の部屋へと案内される。
部屋の中央には、またも大きな鏡が立っていた。さっき路地で踏んだものより一回り大きく、枠に古い文字のようなものが刻まれている…
周りには体の部位が描かれた意味深すぎる絵がかけてあった。なんとも不気味な部屋だ…
「これを使えば、元の世界に戻れるはずだ」
「……本当か?」
「ああ。入ってみるといい。私も入って、見送ろう」
どう見ても、怪しいにおいしかしないけどな…俺は深呼吸をして鏡に近づき、手を入れてみる。
だが…キィン!という音を立てて、鏡は俺を拒絶した。は…?
「どうした…?行かないなら、先に行かせてもらうぞ」
「いや、この鏡…俺を通させてくれない。どういうことだ?」
泡沫は俺と同じように、鏡に手を伸ばして見る。すると、彼女の手はすんなりと鏡に吸い込まれた。あれ、俺がおかしいのか?
俺はもう一度鏡に向かって手を差し伸べて見る。案の定、鏡は俺を通してくれない。
「本当だ……何故だ?私にはわからないな」
「泡沫にわからないようじゃあ、俺にもわからない。他に出れそうなところはないのか?」
「ああ。この街の全ての部屋という部屋は探したが、鏡はここにしかなかった。今まで経験した中で、こんなことは……いや、1回だけあった。その時は、出て行こうとした者が特殊だったこともあるだろうが…」
「その時は、どうしたんだ?」
「諦めたよ、その生き物は。魔族の王たるものが、ドラゴンたる者が鏡に屈する姿は見たくなかった」
「つまり、そのドラゴンはこの世界から逃れられなかったということか?」
だとしたら…ほぼ確実に俺はここから出ることができない、ということになる。一生この寂しい世界で過ごすのか…辛いどころの騒ぎじゃない。
「おそらく。少なくとも、最近は全く彼を見なくなった。おそらくはこの世界で死んだのか、あるいは……ごく小さな可能性だが、彼自身で元の世界へと戻る方法を見つけたのか」
「見つけてくれていなきゃ困るな…希望がなさすぎる」
「やはり、あなたもドラゴンなのか」
「…ああ。その、前来たドラゴンが鏡を通れないとわかった後に行ったところはわかるか?ついていけば、何かわかるかもしれない」
「……城へ行っていた。城のどこへ行ったのかはわからないが」
城か。城にドラゴンが飛んでいく…多分そいつは生粋のドラゴンだろうから、変身して人間だ〜みたいなことはできないだろう。さすがにあんな巨大なんだから、ドラゴンのいた跡くらいはわかるはずだ。
「とりあえず何もすることがないし、行ってみるか。泡沫、お前もついてきてもらっていいか?」
「そのつもりだ。城はこの先の道を曲がって右にある」
「この街は、元の世界でも少し歩いたことがある。問題は城のどこへ向かったかだが…」
とりあえず、研究者の部屋…兄さんの自室にでも行ってみるか。なんだか俺の勘が、研究室に行けと叫んでいるぞ…!




