61話 鏡の向こう側
俺たちは、路地裏を急いで走っていた。いろいろな方向から、兵たちの声とガチャガチャと擦れる金属音がかすかに聞こえてくる。密入者とはいえ、たかがたったの3人にここまでやるか…?
「そっちには多分兵たちがいる!左だ、急げ!」
「くそ、なんでこんなに大量にくるんだよ…いくらなんでも本気を出しすぎだろ‥!」
聞こえる声の感じだと、20人以上はいるみたいだ。多…くないな。ドラゴンとドラゴン並の奴が相手なんだから、よく考えたらこれくらいいて当たり前だ。むしろ少ないくらい。
「すみません、毎回抱えていただいて…私も走りたいのですが、どうもお二人に追いつけなくて」
「大丈夫だ、これは元はといえば俺の大声が原因だからな…それにしても!ここはどこなんだ?!全知王!きちんと案内を頼む!!」
〈進行方向右側に、目的地の城があります。早急に、右折することをお勧めします。〉
さっきのところ、まっすぐで良かったのかよ…!そんじゃあ、そこで右に曲がって…
「む?!見つけたぞ、密入者!」
「皆、こっちだ!こっちに密入者がいるぞ!」
「まずい、見つかったぞ…バーザール、どうする?」
ここら辺は狭すぎて、俺の自慢の翼もキュラゴクスの俊足も活かせない…しかもあくまでもここは市街地で、戦闘は起こせない。どう考えても捕まる未来しか見えない…!
「右だ右!(多分)(きっと)(もしかしたら)そっちのはずだ!」
俺たちはギリギリのところを右折する。すると、非常に残念なことに…
「「行き止まり?!」」
「誰だよ…!こっちって言ったやつは!」
「バーザールだろ!」
そんなことを言っている間に、後ろには兵士たちが追いついて来た。相変わらずの銃を構えて、ジリジリとこちらへ歩み寄ってくる。近くには身を隠せるようなものも、何か立ち向かえるようなものも持っていない。
くそ…!せめてキュラゴクスの剣を部屋に置かずにもっていたら!もう逃げ場はない…ここまでか。
というか、なぜこの国はそんなに外部から人を入れたくないんだ?やっぱり、何か隠していたりするのかな…?
「抵抗はやめろ!大人しく着いて来い」
「どうしましょう、バーザール様。もうどうしようもありません」
「もういっそのことさっきみたいに、火弾を撃ってにげるか?」
「やめとけ、バーザール。いくらなんでも、関係ない市民まで巻き込まれるぞ?」
俺たちはなすすべもなく、奴らに合わせて少しずつ後ろに下がるしかなかった。どうしようか…
パキッ。
後ろに下がっていくと、何かを踏んだ。下を見てみると、逆さの俺がいる。こんなところに、なんで鏡が…?なんでさっき見た時に気が付かなかった?
いや、今はそんなこと関係ないな…俺は踏んだその足を後ろへ向けようとする。
「待て、真ん中のやつ!動くんじゃな…」
え?だが俺がそれを聞いたのは、その鏡から足を離した後だった。次の瞬間、地面から無数の鏡が一気に浮かび上がった。キラキラと光を反射しながら、俺たちと兵士たちの間を分断するように壁を作っていく。
鏡の数はどんどん増えて、俺を囲み、覆い始めた。直後、周囲が一瞬にして鏡張りの空間になる。………閉じ込められた…?
周りの鏡には、知らない人々がたくさん描かれていた。上半裸のかっこいい奴、神秘的な銃を持っている奴、歌手のような女の人…
それらの真ん中。そこには、知らないが見覚えのある男と見覚えのある女がいる。デジャヴか…
「汝は先代と相対し」「汝は二つの対を繋ぎ」「汝は功績により讃えられ」「汝はそれへ突き進む。」
「汝は敵とし仲間とし」「汝は部下を皆殺し」「汝はその後全てを失い」「汝は神々を相手とす。」
「そして汝は神と……」
はっ!!気がついたとき、俺はさっき居たはずの狭い道に立っていた。だが、辺りを見まわしてもキュラゴクスとラナリリスは見つからない。……ここ、どこだ?
「ラナリリス!キュラゴクス!!」
細い、狭い道を抜けて大通りへ出ると、そこには恐ろしい景色が広がっていた。
人が1人もいない。その代わりに、影だけが人がそこにいるように動き、枯れ葉もそこに人がいるように飛んでいく。
「キュラゴクス!!ラナリリス!!」
もう一度大声で呼んでみたけど、返事はない。俺は翼を広げ、街の上空へと飛んでいく。1人くらいは居てくれよ…!
街は完全に静かだった。少し前に見た街とは全然違う……鳥の声や風の音が大きく聞こえる。少なくともこの近くには、俺以外誰もいないみたいだ。あの鏡が、どこかに俺を転移させたのか?
「マジかよ……俺一人だけなのか?」
俺は街のでっかい機械の頂上に腰を下ろして、頭を抱えた。さっきからヘルメスに呼びかけているが、全く反応がない。それどころか、前世のようにヘルメスが初めからいなかったような感じだ。
二人の姿も見えない。さっきまで三人で一緒にいたのに、急にこんなことになるなんて…なすすべがないとは、このことか。
(どうしようか…この世界から出る方法…)
(……バーザール様?)
え?突然、ラナリリスの声が頭の中に小さく響いた。俺は驚いて、炉心タワーから落ちそうになる。
(ラナリリス!聞こえるのか⁈)
(はい。バーザール様こそ、どこへ行ったのですか⁈私が目を離した瞬間に消えていましたので、とても心配で…)
(ああ、俺自身には怪我はない。だけど、なんだかおかしなところについてしまって…)
(俺のことは無視か…?)
キュラゴクスの声も聞こえて来た。よかった…!これで助かったかもしれない!
(キュラゴクス!よかった…2人とも、あれから大丈夫だったか?)
(こちらは無事…だ。バーザールが急に消えてから、兵達はそれを上に伝えに行…くはずだったが、俺たちに興味がないようで…癪だったから少し気絶させといたが)
(バーザール様は今、どこにいるのですか?私達は城に向かって歩いていますが…もしかして、また異世界というわけではない…ですよね)
(俺?俺は炉心タワーの頂上にいる。博物館に行く時に通ったやつだ。でも……ここ?この世界?には、人が一人もいないんだ。今さっき、上空から一通り見たけど完全に俺だけだ)
(………ちょっと待て、状況が一致していないぞ?俺たちから炉心タワーを見ても、バーザールの姿は見えない)
(バーザール様は……本当に誰もいない世界にいるのですか?)
(ああ。建物は全部同じだし、城も…いや、そういえばだけど。人はいないにはいないんだが、不気味に影だけがあるんだ。なんだか、まるでそこに人がいるみたいで地味に気持ち悪い)
俺は立ち上がって周りをもう一度見た。多分、あそこら辺にキュラゴクス達がいるはず…だが、やはり人っ子1人見えない。
………いや、影が二つ見える。見覚えのある形だ。もしかして…!
(2人とも、バンザイ出来るか?)
(バンザイか…?はい、したぞ)
キュラゴクスの声と共に、その二つの影は手を上に上げた。やっぱり…!
(こっちの影も、手を上げたぞ!多分、俺のいる世界とそっちの世界は同期してるんじゃないかと思う)
(つまり…バーザール様は鏡によってまた違う世界へ飛ばされ、そちら側の世界へと行きましたが私達はこの世界に残っている……そして脳対話で声が聞こえるということは、完全に別の世界ってわけでもないのかもしれません)
俺は炉心タワーの周りを飛びながら言った。
(とりあえず、俺はここを少し探索してみる。ラナリリスとキュラゴクスは元の世界の城で兄さんに荷物を渡したら、俺がこの世界を出る手伝いをしてほしい。くれぐれも、兵士に捕まらないように頼む)
(わかりました……でも、危ないことはしないでくださいよ?何かあったらただじゃすみませんから)
(何か見つけたらすぐに連絡してくれ。こちらは服を着替えた後まず、鏡を探してみる。何か手がかりが得られるといいんだが…)
(了解。じゃあ一旦切るぞ。また連絡する)
俺しかいない世界か…静かすぎて逆に気持ち悪い。でも本当に不思議なことに、街並みは全く同じだ。俺は道を滑るように飛びながら、パン屋の前を通った。パンが並んだまま、誰もいない…




