59話 昔々の物語
本日から数週間は、2日に一回になります!
「話を挟んでしまって申し訳ないが…このカズキ…?は誰なんだ?バーザールの知り合いか?」
そうだった。キュラゴクスは、兄さんと会ったことはない。キュラゴクスからしたら、急に出て来た男が仲間と仲が良いらしいなんて混乱するに決まっている。
「ごめんな、キュラゴクス。いうのを忘れていた。彼は、俺が元いた世界での兄…冨永寿希だ。兄さんも訳あってなぜかこの世界に転移している」
「バーザールの一族は、この世界と縁があるのかもな…寿希さん、これからよろしく頼む!」
「ああ。それで、条件だが…というか頼んできているのが啓一だ、条件というよりお願いか。俺は核を止めることを全力で手伝う。それと同時に、俺が元の世界へ帰る手伝いをしてくれないか?」
「兄さん…帰っちゃうのか。なぜ…?」
せっかく会えたのに、すぐに帰ってしまうなんて…いや、俺は時々あっち側の世界に帰ると日本と約束をした。会いたくなったら、ドラゴンとして元の世界へ行けばいいだけのことだ。
「もちろん、両親に会いたいからだ。あとは…純粋に、いまのあの世界がどうなっているかだな。あとは…あげ出したらキリがないぞ」
両親…母さんや父さんのことは、今言ったほうがいいだろうか?本当はもうふたりとも亡くなっている、あっち側の世界に行ったとしてももう会えないと。
いや、今言わなければならないはずだ。あっち側に行ったあとに知っても、兄さん1人ではもうこちらには戻ってこれないだろう。ここで言って、兄自身の考えを仰ぐべき…
「そのことなんだが、兄さん…母さんと父さんは……………」
声が詰まった。喉の奥が熱くなって、言葉が上手く出てこない。兄さんの表情が、少しずつ固まっていくのがわかった。
察したのかもしれない。それでも、俺は言わなければいけなかった。
「……もう、亡くなってる」
部屋が静かになった。兄さんは一瞬、目を丸くした後、ゆっくりと笑った。でも、その笑いはすぐに歪み、湿り気を帯び、最後は大きなため息に変わっていく。
「……そうか…………いや、わかっていたことだ。予想できたはずだった……」
母や父と最後に会ったのが6歳の頃という人はいるだろうか?6歳の頃に知らない、言葉の通じない世界へと飛ばされ、違う人生を強制的に歩まされる…そんな彼にとっての最後の希望が、両親の存在だったのだ。だが、それはすでにとうの昔に砕けていた。ただ、それが見えなかっただけで。
キュラゴクスも、ラナリリスも、誰もフォローする言葉を持っていなかった。兄さんは天井を見つめたまま、静かに呟く。
「……………それなら、尚更元の世界に戻らなきゃ行けなくなったな……」
兄から聞こえた第一声は、意外にも希望に満ち満ちていた。
「死んだ母と父の墓に、最高の土産を持っていくために…」
「それじゃあ、当分はここを拠点にするか…兄さん、本当にここを使ってもいいのか?」
「なぜそんなことを言っているんだ?近くにいてもらわないと、どちらの目指すことも成せないだろう?」
「いや、寿希さん。そういうことじゃなくて…まあいいか。2人とも、ここは薦められた通りにここに住むことにしないか?」
だとしても、だ。こんな広いところでは、休むもんも休めないぞ?キュラゴクスの家に初めて行った時もこんな感じだったが…あれから部屋感覚が麻痺した今でも広いと感じるレベルなんだ。日本に帰ったあとの兄さん、本当に生活できるのかな…?
断る理由もそれ以外見つからず、結局俺たちはそこへ住むことになった。部屋に着くなり、俺たちは会議を始める。
と見せかけての……ベッドイン!!!!
「起きてください、ふたりとも。ここに来たからには、きちんとこれからのことを話し合っておきましょう」
「ああ…まずは、巡雩たちに連絡をしておこう。スフィウスの容態に気になるしな。兄さんに、手紙用紙がないか少し聞いてくるよ」
俺は部屋を出て、兄さんに手紙用紙を借りるために1階へ降りる…だが、階段の場所がいまいちわからない。さっき兄さんに一通りこの城を案内してもらったが、何せ部屋が多すぎて覚えていない。
気がつくと、俺は知らないところへ迷い込んでいた。あれ、ここはどこだ…?
「啓一か?なんでこんなところにいるんだ…?」
俺が途方に暮れていると、後ろから声がした。兄さんだ…これで、もう大丈夫だ。
「兄さん…!ちょうど良かった!一旦下に降りようと思ったんだが、どこに行けばいいのかわからなくなっちゃって…手紙用紙を探しているんだけど、どこにあるか知らないか?」
「ああ、それなら俺の部屋にある。あげるから、ついて来てくれ」
俺は歩きながら、考え事をする。兄さんになら、俺の招待がドラゴンであることを言っていいか…?もしかしたら、俺がドラゴンであることを使えば研究が早くなるかもしれない。そんな甘い考えを、全知王はかき消してくる。
〈おすすめしません。親族の寿希様も、敵ではないとは限りません。もう少しほど時間が経過してからの告白を推奨します。〉
「さっきは……悪かった。急に取り乱してしまって」
「いや、俺の方こそ……急にあんな話して、ごめん。大丈夫?」
「大丈夫って…大丈夫に決まっているだろう。別に母と父が亡くなったと言う事実は変わらない。目的が、少し変わっただけだ。問題はない」
そういうと、兄さんは真剣な目でこっちを見てくる。かっこいい顔だな、おい。
「啓一…お前も、一緒に元の世界へ帰らないか?」
「ごめん、兄さん。俺はもう少し、この世界の残らなくちゃいけないんだ。一つだけ、成さなきゃいけないことが残ってる」
俺は、そう聞かれた時の答えを決めていた。『絶対に、このループを終わらせてから。』そうじゃないと、俺の決意が揺らいでしまう気がして…
部屋に着くと、研究者とは思えないほどの簡素で整理整頓がされた部屋が広がっていた。兄さんは机の引き出しから手紙用紙を取り出し、俺に渡す。
「これでいいか?」
「うん、助かった。ありがとう………ところで兄さん。元の世界の話、どれだけ覚えている?」
「元の世界…そんな、覚えているわけないだろう。覚えているのは…啓一が小さい頃に言っていた言葉だな。お前は小さい頃、『こーじの音だったね』とか、『いっかいこわちて』とか言っていたものだ…」
「そういうことじゃなくて…」
「違うか?もしや、○ィズニーランドでのあの…」
「ちがう!!!」
それから、キュラゴクスとラナリリスに呼ばれるまでの間、俺たちはひたすら元の世界の話をした。兄さんが転移した直後、俺が実は一回死んでいること、小さい頃にかめのぬいぐるみを無くして一生懸命探していたこと………
話せば話すほど、互いの置かれている状況の違いが浮き彫りになっていく。兄さんは時々遠い目をして、昔のことを話した。
同じ血を分けた兄とこうして異世界で再会して、元の世界の話をしている。この世界に来てから、こんな日が来るなんて思ってもみなかったな…
俺たちは、ドアの外からキュラゴクスたちの声がするようになるまで、ずっと話していた。




