57話 腹黒長官
亀裂は、もうドラゴンが通れないほどに縮んでしまっていた。
「さて、ここからどうするか…もしさっきのアメリカの流れ弾とかでトマホークを使い切っていたら、それこそ今日は帰れないぞ。最悪、追加で1週間以上もこの世界に留まらないといけなくなるかもしれない」
「バーザール、そのことなんだがな…多分、使い切っているかもしれない。バーザールが来る少し前に、そこの隊員が焦っているのが見えた」
俺たちが不安に駆られていると、ラナリリスが帰ってきた。彼女も、顔は明るいわけではない。
「バーザール様、キュラゴクス様…トマホークは予備も使用し切っているとのことです。これでは…帰れないかもしれないと」
…まじか。ここまで交渉してきて、第5空母打撃群に邪魔されるとは。ここから、またトマホークを補給してここまで戻ってくるのにどれくらいかかるんだ…?というかまた、飛ばなきゃいけないのか。
そんなことを考えている間に、ひとつの妙案が思いついた。別に飛ばなくてもいいのでは…?海なんだから、亀裂で転移して落ちた後に俺が変身して2人を引き上げればいいじゃないか!
なぜ、これが今まで思いつかなかったんだ?俺は2人に、このことを伝える。
「2人とも、今思いついたんだが…よく考えたら、わざわざ俺がドラゴンに変身する必要なんてないと思ったんだ。別に下が海なんだから、落ちてもその後に俺が変身して2人とも引き上げればいいんじゃないか?」
「……もし、下が陸だったらどうするんだ?そのまんま落下死なんていやだぞ?」
「そういうことですね…!もし陸でも落下中にバーザール様が変身して私たちの下に回り込めば…」
「そうだ。しかも、もし俺の回り込みが間に合わなかったとしてもそれはつまり落下距離が短いっていうことだから大した怪我も負わない。人間の姿そのまんまでいけるならまだ今から向かっても間に合うしな」
「……それを思いつく頭があるなら、もう少し早く思いついてくれ?」
「まあ、思いついただけいいでしょう。ここから亀裂まで飛ぶのは流石に無理がありますし、この船に送ってもらうということになりますね」
「ああ。あとは、これを日本が了承してくれるかだが…」
「わかった。大臣と連絡を取るから少し待っていてくれないか、冨永さん」
「うん。あとは、許可を下ろしてくれることを願うばかりだな」
「私たちが通れなくなるのも時間の問題ですね…今から行ったとして間に合うのでしょうか?」
「流石に間に合うだろ…間に合ってくれないと困る。そうなれば、また1ヶ月無駄になるからな」
俺たちが雑談をしていると、通信をしていた艦長がこちらを見た。どうやら、指示をもらったらしい。さて、拒否か手助けか…
「大臣の許可を得た。これより、冨永さん及び一行を亀裂へと届けにいく!取り舵いっぱーーい!!」
「取り舵いっぱーーい!」
「速度を上げろ!最大戦速!」
「最大戦速!!」
後少しで、亀裂は完全に塞がる。俺たちは、この艦が亀裂を掠めた時にジャンプして飛び込まなきゃいけなかった。チャンスは一度きり…これを逃すと、もう当分は異世界に帰れない。
「……行くぞ。タイミングは一瞬だ」
「承知しました………バーザール様、転移した後はお願いします」
「落ちる時もバーザールが下になるからな、安心しろ」
「俺の扱いひどくないか…?」
艦橋の指示灯が点滅し、艦が亀裂の少し前へと着く。そのままの勢いで船体は亀裂を掠めそうになったその時…俺たちは寸分違わずそこへと飛び込んだ。一瞬、艦上で敬礼する隊員たちの姿が視界を掠める。
次の瞬間には、俺たちはその黒い空間へと吸い込まれていた。
急に重力が戻り、身体が宙に放り出された。
「……っ、下は!」
叫びながら眼下を確認するとそこは海ではなく、青々とした草原だった。俺は即座に抱えていたラナリリスを上空へ放し、自由落下の中でドラゴンへと変身した。地面に叩きつけられる寸前に俺は器用に身を翻し、背中と翼で二人を受け止める。
大きな地響きと共に、周りの動物たちが逃げていく。
「……生きてるか?」
「なんとかな……土が口に入ったこと以外は大丈夫だ」
「というかここは…もしかして、オヌガロスですよね…?」
ラナリリスが俺の背中の上で身を起こし、周囲を見渡した。
俺も人の姿に戻り顔を上げると、そこには赤黒く広がる草原の奥に見える海と、最初の目的地であるオヌガロスの街並みが遠くに見えた。
日本にいた時はどこに転移するかと少し心配していたが、こんなピンポイントで着くこともあるもんなのか?そう思いながら3人で遠くに見える街へと歩き出した直後、後ろから声が聞こえ始めた。
「……こ……へん…!そ………んから……!」
だんだん大きくなっていく声に、俺たちは身構える。こんな見開きのいいところでもこの国には巡回兵がいるのか…
「そこの3人!動くな!手を上げろ!」
手を上げろ…?銃じゃあるまいし。そう思いながら後ろを振り向くと、兵たちは見覚えのある兵器を向けてきていた。え、銃…?なんでこの世界に銃があるんだよ?!
「聞こえなかったか?手を上げろ!」
「その必要はない。俺たちは、これでも陸でならアメリカに勝てるほどの力を持っているんだからな!」
「バーザール…この世界ではアメリカなんて言葉は通じないと思うぞ?それより、あの核爆弾に耐えたとかの方が………」
「そもそも、初対面の方にそこまで言う必要はないと思いますが…」
いや、俺の見立てなら…この武器は俺の元の世界の国のどこかが出しているはずだ。しかもこんな下層だと思われる兵にも行き渡っているんだから、こいつらに(彼らにとっての)異世界のことが伝わっていてもおかしくない。
「アメリカ…?今はそんな知らない人間のことを言っているのではない!」
「……お前ら、落ち着け。こいつらは怪しくない」
兵の後ろから、上官らしいやつが出てきた。服装が完全にアメリカの服に似ている。やっぱり、この国…絶対にアメリカと関係あるな。その長官は俺たちを横目に見ながら兵たちに指示したあとこちらに向き直った。
「すまないな、お三方。君たちは、この国の者だろう?」
「俺たちは…」
そう言いかけて、その男がジェスチャーをしていることに気がついた。俺の話に合わせてくれ、っていうことなのか…?
「……、そうだな。この国の人間だ。今はあいにく出掛けている最中で、家に色々忘れてしまって…君が望んでいるものが出せるのかはわからない」
「大丈夫だ、職質はしない。俺についてきて来てくれ。……おいお前ら、帰っていいぞ!あとそこのお前、さっきの銃の持ち方!腕は伸ばし切るなと言っただろう!あとで追加指導だ!」
雑兵たちは、元の持ち場へと戻っていった。その場には、俺たち3人とその男が取り残される。
結局、こいつは何者なんだ…?
「まだ名乗っていなかったな。俺はガルシアだ。気軽に呼び捨てで呼んでもらって構わない」
「それじゃあ、ガルシア。これからどこに向かうんだ?まさか…」
「安心してくれ、別に捕まえるとかいう物騒なことはしない。だが…さっきの発言で聞きたいことがあってね。少し面倒になるかもしれないが、頑張ってくれ」




