56話 やっぱりこうなる…
「やっと、元の世界に帰れるのか……」
思わず独り言が漏れる。日本に戻ってこれたことを知った時、嬉しくなかったといえば嘘になる。だけど周りが穏やかだと騒がしいところを、日本が平和だと戦争が起こっている異世界をやはり、考えざるを得なくなるものだ。
俺はこんなに呑気にいてよかったのか…?やっぱり、何かするべきじゃなかったのか。
「ええ。戻ったらまずはすぐにアースへ行きましょう。あれからどれだけの時間が経ったのか…もしかしたら、もう一度あの核爆弾が投下されているかもしれないということだけが怖いです」
俺たちは、海の上を南へ向かっていた。流石に横須賀でミサイルを使うわけにもいかないからか、黒い亀裂を作り出す場所は南の海域だ。
「バーザール、あれか?日本が用意した護衛艦っていうのは」
前方に、自衛隊の護衛艦が見えてくる…はずだった。あれ…?海自って、空母持っていたっけ?まあいいか。
俺は日本側が用意した護衛艦の甲板に降り立つと、2人を下ろして俺もドラゴンから人間へと変身する。俺たちが現着したのを見て、関係者たちが駆け寄ってきて今回の計画の説明をしてくれた。本来ならもっと丁寧な別れの挨拶があるべきなんだろうが、俺も向こうもそれどころじゃないらしい。
「全装置、正常に作動しています!作戦準備、完了しました!」
「よし、わかった。冨永さん、キュラゴクスさん、ラナリリスさん…準備はいいですか?」
「はい、私は出来ています」
「俺も出来たぞ。あとは、バーザールが…」
俺は再びドラゴンへと戻り、2人を乗せて飛び上がった。俺は説明を受けた地点へと飛んでいく。着くと、俺は大きな方向を挙げて海自の人たちに知らせた。
「よし、彼らは無事着いたようだ…これより、ドラゴン帰還作戦を始める!目標、冨永座標前方750!トマホーク、発射用意!」
「トマホーク、発射用意!」
「撃てーーーっ!」
「撃てーーっ!」
指定した地点にトマホークミサイル同士が着弾し、海面が爆発と共に揺れ動いた。俺はその瞬間に、大きく吠えながら魔気を全開にする。
すると、ミサイルが衝突したところに見覚えのある景色が現れた。それは黒く、その空間に亀裂が走っている。作戦、成功だ!
「よし、帰れる……!」「よっしゃあ!」「よかった…!」
俺たちは勢いよく飛び上がり、その切れ目へと向かっていった。しかしそのすぐ後に見たのは、世界最強の海軍…その壮観なる勇姿だった。
「なっ……!?」
亀裂ができたからか、そこから第五空母打撃群の象徴の原子力空母が出てきたのだ。あとから、イージス艦やら何やらも出てくる。潜水艦が一瞬海上に出て海へ落ちていくという珍光景を見れたのは、まあ良かったが…なんで今更あいつらがここに来るんだよ!
幸いにも亀裂を水面のすぐ上に作っていたから、艦隊が座礁したりぶつかり合って沈むような大きな事故にはなっていないみたいだ。だが、問題はそこじゃなかった。
現れた第5空母打撃群は、俺の姿を見るなり一切の警告も対話もなしに、迷うことなく戦闘を開始してきたのだ。
空を埋め尽くすほどの弾幕が、俺を目掛けて飛んでくる。
あまりの反応の速さに、俺は自分の読みの甘さを呪った。日本政府と裏で繋がっていたのか…?それともこれを予測してやってきたのか?それはわからない。でも、目の前の艦隊からの殺意は本物だった。奴らは俺を倒しにきているんじゃない。殺しに来ている…!
「……っ!」
俺は反射的に転移魔法を使った。一瞬でかがの艦上に戻り、2人を下ろす。
「おい、日本政府!あれはどういうことだ?!急にアメリカの軍が出てきたぞ!」
「いや、私たちもわかりません…とにかく、皆さんはこっちへ!流石にアメリカも、日本には簡単にやってこないでしょう」
「いや…ラナリリス、キュラゴクスは中にいてくれ。俺はちょっとやってくる」
「正気ですか?!そんなことをしたら…アメリカの国際位置、世界の支配関係が根本から変わりますよ!」
「いやまあ、俺からしたらアメリカに変わって世界を引っ張れるようになる絶好の機会だぞ?しかも、売られたケンカは買わなくちゃなぁ」
「翻訳すると、バーザールは怒っているな。多分亀裂が消えたことに対してだろう」
「いいえ、元はと言えば彼らのせいでこの世界へ来たのですよ。バーザール様、私たちは構いませんが」
「よし、決まりだな。日本さん、あとは頼んだぞ!来るなら、俺があの船を破壊し切る前に来るんだな!」
日本政府の人が何か言っているが、まあ無視していいだろう。俺は再びアメリカの打撃群へ向けて飛び立った。体が大きかったら銃弾を余計に浴びるしな、人間の姿のままいくことにしよう。
艦隊は近づいてくる俺目掛けて容赦なく砲火を浴びせてくる。時々俺の服に掠るけど、別に当たっても大したことないだろう。俺はそのまま頭上に手をかかげて毎度お馴染み火弾を作り出し、発射準備にかかった。
だが、俺はそこで踏みとどまる。こんなこと、前にもあったな。初めてファラウルの街へと向かった際、名前は忘れたが悪魔と戦った。その時は、人が大勢死んだことで俺の体が暴走していたのだ。
この世界で、この船を沈めることはあれ以上に死者を出すことになる。俺はあれから強くなったとはいえ、暴走しないとも限らないのだ。
万が一暴走したら、俺を止められるものはこの世界にいない…はて、どうしたものか。
〈この世界の「人間」と元の世界の人は、見た目上は酷似していますが全く異なる生物です。故に、再び暴走が起こる確率は極めて低いと言えるでしょう。〉
唐突なヘルメスだ。こういう情報を必要な時にくれるのはありがたいが、やっぱり急に声がするとビビるな。
「うおっと!!」
俺がそんな考え事をしていると、急に顔のど真ん中に銃弾が来た。流石はアメリカのciwsだ、命中精度も高い!他の艦では搭乗員たちがトマホークだかなんだかを飛ばすように指示しているのが見える。まあ俺が壊しちゃうんだけどね。俺は貯めていたファイヤーボールを一気に解き放ち、一つずつ操作して正確に全ての艦へと向かわせた。
大爆発が起こった。俺が撃った弾は全てが正確に艦の前方すぐ近くに着弾し、海水が盛り上がる。その衝撃で、巨大な空母の巨体が目に見えて大きく揺れた。巻き上げられた大量の海水が、雨のように甲板へ降り注いでいく。
俺は立ち上る水煙を突き抜けて、そのまま原子力空母の艦上へと着地した。
周囲はパニックになりかけている。足元を固めていた船員たちが、濡れた甲板に足を取られながらも銃を構え、俺に向けてくる。
「Don't move! Hands where I can see them!」
響き渡る英語の怒鳴り声。向けられる無数の銃口に俺は、ゆっくりと両手を挙げた。この状況でまともに戦えば、空母そのものを沈めてしまう。あの政府の人が言うように、流石にそれは世界の軍事均衡的にまずすぎる。
米兵は俺を捕獲したと思い込み、管制塔に連絡をしている。
俺は手を挙げたまま、艦上にいる全兵の体の周りにファイヤーボールを出現させた。周りを見回すと、赤い火の玉が大量に出現している。米兵は驚いて、お互いを見合っている。
「Make a move, and you're toast」
英語でそう告げると、引き金に指をかけていた連中が目に見えて凍りついた。自分たちの命が、今まさに目の前の人間によって握られていることに気づいたんだろう。
俺はそのままかがへと転移魔法を使う。転移すると2人のちょうど目の前へ出てきてしまい、頭をぶつけ合う。
「いった…って、バーザール?!お前、もう終わったのか?」
「ああ。一旦、あいつらが動けないような状態にしてきた。見た感じ、亀裂が塞がってきているからもう一回作り直す必要があるみたいだが…」
「私が、日本に掛け合ってみます。2人は引き続き、アメリカの警戒をお願いします。日本の方によると、アメリカは同盟国であっても攻撃する可能性があるとのことですので」
日本の自衛隊は必死に白旗を掲げてアメリカの艦へと向かっている。そろそろ、解いてもいいか…?俺はアメリカ兵につけていたファイヤーボールを解除する。その後に、アメリカからの攻撃が来ることはなかった。




