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48話 新たなルート:海上

 話し合いが終わったあとのリビングには、俺とまだ起きていないスフィウスだけが残された。

 300万回か…その膨大な数字には、一体どれだけの重みがあるのだろうか?俺にはわからない。

 ふと視線を落とすと、ソファで眠るスフィウスが激しくうなされていた。


「……嫌、だ…………お父さん、待って……」


 俺は彼女の顔を覗き込んでみる。その度、あの行動への後悔が生まれる。スフィウスを助けるという判断は正しかったのか……

 命を助けたのは俺のエゴで、彼女からすれば、何もない世界に一人だけ放り出されたようなものなのかもしれない…と。



全知王(ヘルメス)、今いいか?」


〈はい。どのような用件でしょうか、バーザール様〉


「……この核理論、まだ理解できないところがあるって言ってたよな。このデータを、今のこの世界で解明できる奴はいないのか?キュラゴクスたちの話じゃ、この世じゃ存在すらしていなかった技術らしいが…」


 ヘルメスでもわからないのなら、どうしようもない…というわけではないのだ。これさえ解明できれば、対策でもなんでもできる。最悪、前世のように核爆弾で均衡をとることになるかもしれないが…


〈……検索完了。現在の世界における核理論の普及率は0です。しかし、大陸東側諸国……つまりバーザール様がまだ訪れたことのない東側諸国にある学術都市に一名、この理論を解析できると思われる人物が存在します。名はカズキ・トミナガ。彼は既存の物理体系とは異なる独自の理論を提唱しています。彼にこのデータを渡せば、解明の道が開ける確率は飛躍的に向上すると思われます。〉


 冨永……?とみなが、だと?


「もう一度、そいつの名前を言ってくれるか?」


〈カズキ・トミナガ。現30歳、コースダジア大を首席で卒業しています。〉


 間違いない。この世界で、そんな日本人みたいな名前がつけられるわけがない。どう考えても、俺の兄だ。カズキという名前も、聞き覚えがある。


「そいつが確認された最初の出来事を教えてくれ!!」


〈今から26年前に、ホガ=ドルナで発見されたとの記載があります。のち、東側諸国に移りました。〉


 4歳の頃。親が死んだのが5歳だから、一致する。そんな、まさか兄が急に消えたのって…


「ははは、まさかな…」


 俺が小さく呟くと、装備の点検をしていたキュラゴクスと巡雩が帰ってきた。


「何かあったの?」


「うん…探してみたところさっき見せたこの核理論のデータを解析できるかもしれない奴が一人いるらしい。東側諸国にいるカズキっていう人だ。その人なら、先の核爆弾の解明ができるかもしれない」


 キュラゴクスが顔をしかめ、腕を組んだ。


「……カズキ? 300万の中でそんな名前は一度も聞いたことがない…東側には幾度も行ったが、そいつに会った記憶も、そいつが重要だという情報も、一度たりとも出てこなかったぞ」


「もしかしたら…俺が転生してくることが条件なのかもしれない」


 いや、逆か?兄が転生したから、俺も転生を…?いや、そんなことはどうでもいいか。


「転生…?って、どういうことですか?」


 ラナリリスが、さも不思議そうにこちらをみている。


「待て待て、バーザール、お前ドラゴンじゃないのか?……どういうことだ?」


「いいえ、確かにドラゴンであると言っていましたよ。………ということはどういうことでしょうか、バーザール君」


 あれ?俺は転生者ってこと、言ってなかったか?


「あれ…言わなかったっけ。俺は他の世界から来た転生者で、こっちに来た時はドラゴンになっていたって」


 3人は、今まで見たことのない驚き方をしている。


「ということは…まさか、本当は人間で、だけどドラゴンになって、今は人間に変身しているということか?」


 俺は大きく頷く。たちまち、3人の顎が落ちていき…


「だからか。ドラゴンなのに、なんでこんなに話が上手いのかと思ったんだよ」


「まあそんなことは今となっては関係ないはずなんだが…どうやら、関係があるかもしれないんだ。先言った、カズキっていう人がいるだろ?」


「はい。東側諸国にいる、核理論を解明できる可能性のある人…であっていますか?」


「ああ。その人なんだが、何か違和感はないか?」


 3人は顔を見合わせて唸っている。流石に、わかりにくいか。


「わからないが、強いていうなら…」


「とても珍しい名前、ということですかね」


「私も、そう思いました」


「そう、そこなんだよ!トミナガだったり、カズキだったりっていう名前は、俺の前世の世界でよく使われていた名前なんだよ」


「………つまり、そいつもバーザールと同じ転生者である可能性が高いっていうわけか」


「しかも、苗字が『トミナガ』なんだ。俺の兄の可能性がある」


「バーザール様に、兄が…」


「俺に兄がいたということはうっすら覚えている。だが、小さい頃に兄は行方不明になったらしくて…その時と、カズキ・トミナガが現れたという記載があるタイミングはほとんどおんなじなんだ」


 言っている俺でも驚いている。目的の人物、大学主席で学者の人が兄…?


「どうやら、今回の旅の目的がはっきりしたようだな」


「ですが…ホガ=ドルナを通ればバーザール様が死に、立入禁止区域を通れば私たち全員が全滅する。今までの300万回は、その二択に阻まれてきました」


「それなんだが…」


 俺は、手を挙げた。これなら、いけるかもしれない…


「俺がドラゴンになってみんなを乗せて、飛んでいくっていうのはどうだ?」


「………それはまた、斬新な考え方ですね」


「だが…今まで死んでいったことを考えると、それがもしかしたら一番いいのかもしれないな」


「そこで、問題があるんだ。俺がいた世界では、飛行機ってやつが存在する。まあ簡単に言えば…馬の10倍くらいの速さで飛んでいる、連射できる銃が取り付けられた飛ぶ兵器だ。その銃なんだが、この世界の銃とは少し違って…小さくて尖った鉄の塊をものすごいスピードで出すものになっている。それにあたったら、人間なら1発で死ぬと考えていい。ドラゴンでも、どれだけ耐えられるかは未知数だ」


「それを、ホガ=ドルナが持っている可能性があるのですか…」


「ああ。戦略爆撃機まであったんだ…それがあってもおかしくない、むしろない方が怖い」


「そうであるとするならば、少なくともホガ=ドルナ上空を通る線は消えますね。あとは立入禁止区域ですが…」


「そっちでも、戦ったようなElf Schreckenがいたら厳しいぞ。俺たちに対空戦をしろと言われても、無理な話だ」


「そう。陸路は全て危ないんだ。となると、ここを通るしかなくなる…」


 となると、必然的にそうなるしかない。残るのは、あとここだけだ。


「「「海上!」」」


「そう。前世にこれもまた戦艦とかいう強すぎる兵器もあったけど、それは海の上から砲撃してくる。しかも、真上には砲撃できないんだ」


「今となってはこれ以上安全な道はない、ということか…」


「となると、そうするしかありませんね。バーザール君の背中に乗り、東側諸国へと渡る」


「一度わたってしまえば、バーザールの転移魔法も使えるようになる。これで決定だ」



 後の世界でも、この判断が正しかったと思いたい。あとは、依然としてうなされ続けているスフィウスを、正常に戻す方法を考えるだけだった。

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