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45話 Elf Schreckenの襲撃

 四日間に及ぶ不眠不休の移動と精神を削る緊張感で、バーザールの肉体と精神は両方とも限界という限界を超えていた。少しでいいから、休め…体が、そう叫んでいる。

 言われるがままに寝ていると、脳に声が響く。寝ている間も、全知王(ヘルメス)は動いていた。


〈解析完了。奪取したエネルギー波形の核理論の再構築、および魔気演算によるシミュレーションに成功しました……この理論は、核エネルギーを魔気へと変換する道筋があることを示しています。そして、現段階では不明ですが、この理論にはまだ解明の余地があります。〉


 夢の中にまで、ヘルメスが出てきた。睡眠まで妨げるのは流石に、よくないよ…

 でも、核エネルギーを魔気に変えられるようになったということは実質核は効かない体になったということか?


〈核エネルギーと熱エネルギーは別物です。ですが、4日前に経験したような傷口が汚染されるなどということは起こらなくなると思われます。〉


 ホガ=ドルナがこのデータを、他国に知られることを恐れていた理由。それは、自分たちが手にした最強の武器が、魔族にとっては無限の供給源になり得るという皮肉な真実を隠すためだったのだ。

 戦争前から、魔族の活動が再び増えてきているということはホガ=ドルナも気がついていたはずだ。だから、あれほど厳重に…




 昼過ぎ。バーザールは、ぱっと目を開けた。なんだか、夢にヘルメスが出てきた気がする…

 視界に入ったのは、キュラゴクスの家の見慣れない天井だ。階下からは、誰かが置きっぱなしにしたラジオが、雑じり気のある音を立てて音声を垂れ流していた。


「ゲリシュト領のアルトリアに新兵器が投下されてから四日が経ちました。死者、行方不明者は合わせて数十万人いるとみられています。現地では、今も遺族の遺品を探す人々で溢れかえっています。そして、全てが燃え溶け、何も残っていないここアルトリアに入った人々には、謎の症状が相次いで確認されました。ゲリシュトはその原因解明を急ぐとともに、一般人を攻撃したことに対し強い非難をしています」


 バーザールは起き上がり、窓の外を見た。

 謎の症状……この世界の人々は、放射能を知らない。故に今もあの土地に立ち入り、たくさんの人が被害を受けている。

 それは目に見えない悪魔の呪いとして認識されているのだろうか?俺が持ち帰ったこのデータには、少なくともガルヴァは救えるであろうことが書かれている。これが人間にも適応できたらどれだけいいことか…

 街の方に目を向ければ、そこには異様な熱気が渦巻いていた。ホガ=ドルナの暴挙に対し、恐怖ではなく怒りで塗りつぶされた男たちが、自ら兵となって前線へ向かおうと気勢を上げている。


「報復を!」「ホガ=ドルナに死を!」


 これほどの量の人間が、これから死ににゆくのか…そう思うと、今すぐにでも何かをしたくなる。だが、俺だけでできることなど何もない。


「……」


 やはり、ここに戻ったからといって静かにいられるわけではない。南東から、大きな魔気を持つやつが来ているのが分かった。

 スフィウスはまだ眠っている。やはり、強制睡眠の影響だろうか?外で静かに佇むガルヴァにむけて、俺は脳対話を送る。


(ガルヴァ、俺はちょっと出かけてこなきゃいけないみたいだ。その間、スフィウスを頼めるか?)


(承知しました。くれぐれも、お気をつけください)


 俺はそう言って、再び家を出ていく。



 その少し前。森の最深部では、2体のElf Schreckenが飛んでいた。


「要するに、データの回収をすればいいんだよね?」


「しらん。俺は、暴れられればそれでいい」



 家を出ると、未だに外では男たちが声を上げている。俺はその横を通り過ぎて、魔気を感じるほうへ急いだ。

 だが…一瞬にして不快な空間の歪みから直後、街の喧騒を切り裂くように街の上空で二つの影が出現した。


「見つけた!」


 上から、声が聞こえる。見上げれば、翼を持たずに二体のElf Schreckenが滞空していた。彼らは転移魔法によって、一瞬で街の中央…俺の真上へと辿り着いたのだ。


「はっ………!」


 声を出す暇もなく、攻撃を受ける。俺は咄嗟にシールドを作り、攻撃に耐える。放たれた光線は、周りの人々をも巻き込んでいき、爆発が起きた。

 攻撃が止んだ瞬間、俺は右手に槍を作り悪魔の一人に向かって投げた。だがそれは転移魔法によって避けられる。


「すごい反応速度!流石、僕らに依頼するだけあるね!」


「貴様!いちいちうるさい!」


 賑やかな方の放つ攻撃を避けながら察する。これは、当たってはダメなやつだ。直感が、そう告げている。

 しかし、もう片方の方も厄介だ。さっきから攻撃が当たらないのは奴のせいだろう。槍を投げても槍自体が転移、数を多くしても本体が消える。

 どうにかできないのか?!このままじゃいくら戦っていてもジリ貧だ。

 俺は左腕を盾に魔気のシールドを張り、その衝撃を正面から受け止める。このままじゃ、何にもできない。だったら、不意打ちしかない!!


「くっ……!」


 俺は耐えながら、目の前に槍を貯めていく。幸い、奴の光線によって俺が何をしているのかあっちには見えていない。


「おらあぁぁ!」


 俺は、シールドの裏から一気に槍を投げる。もちろん、槍に強制発火(リンヴァー)も付属でお届けだ。

 …しかし、あれだけ貯めた槍は半分が掠めるだけで肝心の核に刺さらなかった。ふざけるなよ…!それじゃあ、こちらからはどうしようもないじゃねえか!

 槍で掠めた程度の傷など、悪魔にとっては修復可能な微傷に過ぎなかったらしい。リンヴァーが発動する前に再生している。


「あはは! 惜しいなあ、今の! でも無駄だよ。僕らの連携は完璧なんだから」


 片方は前から、もう片方は後ろから襲ってくる。咄嗟にシールドを貼るが、後ろまで貼る余裕はなかった。後ろから、剣が迫ってくるのを感じる。

 刺さった…と思っていたが、いつまで経っても感触が伝わらない。


「バーザール!後ろ!」


 呼びかけられ咄嗟に後ろを向くと悪魔は消えており、剣がこちらへ向かって投げられている。俺は咄嗟にそれを取り、前の悪魔に斬りかかる。


「…剣か。いいだろう、最後に相手をしよう。転移はなしだ」


 俺と悪魔は剣を構え、地面に降り立ち向き合う。どうしよう。咄嗟に振るったが、剣なんて使ったことがない。

 そんなことを考える暇もなく、悪魔は斬りかかってきた。俺は咄嗟に剣を構えてそれを受け流していく。

 いくら隙を作って斬りかかっても、相手はダメージを受けた素振りを見せない。むしろ、こっちがそれで隙ができ、危なくなる。


「未熟だな…その程度で、俺に勝てるとでも?」




「……そういうことなら、俺と対戦しようじゃないか」


 鞘から剣を抜く音。頼もしい声がする。俺の前に出たのは、見覚えのある服、身長の男だった。


「このキュラゴクス、この街を破壊した貴様に万死を与えよう!!」

 

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