43話 暴動と敵国
俺は全知王に、腕にある核物質の解析を頼んだ。
どうやら前世の世界での核とは少し異なり、この世界の核は汚染が伝染するらしい………これは相当、まずいことだ。
だが…どうやら、伝染スピードは少し遅いようだ。最悪後回しでもなんとかなる。実際、あれから何十分と経っているだろうがいまだに感染部分は腕だけだ。
ヘルメスの核解析が終わると腕から黒が消えていった。同時にそれまで滞っていた正のエネルギーが流れ始め、すごいスピードで腕が再生されていく。
瞬く間に、俺の左腕は元通りになった。俺は試しに左手から火弾を出してみる。うん、正常だ。
「……ヘルメス、状況を簡潔に。何が起きている?」
俺は新しく生え変わった左の指先を動かし、その感触を確かめながら問う。核爆弾で奇襲する国が、これしかしていないとは思えなかった。
〈宣戦布告と同時に、ゲリシュト王国首都オーディスにて大規模な暴動が発生。群衆が暴徒と化しているようです。さらに、ファラウル帝国はつい先ほど、ホガ=ドルナ公国への正式な宣戦を布告。全軍に動員令が下されました。〉
暴動まで起きているだと?この短時間に?
しかも、ファラウルまで…そりゃそうだ。ファラウルと、ゲリシュトは同盟関係にあった。しかも、ファラウルはホガ=ドルナと外交決裂を起こしている。参戦しない方がおかしい。
だが、やはりいくらなんでも話がよく出来すぎている。前世の北アメリカにあったあの「世界の警察」ですらやっていたんだ……この暴動は、十中八九ホガ=ドルナが起こしたのだろう。
どうやら、外からも内からも同時に攻撃を仕掛けてできるだけ早くゲリシュトを倒し、ファラウルと1体1に持ち込むのが狙いらしい。少なくとも、俺ならそうする。
そのための工作員、そのための新兵器開発。かつて俺がいた世界でも繰り返されてきた、戦争の最も汚い部分だ。
「ファラウルまで参戦したのか……」
俺は思考を振り切り、力を入れて立ち上がった。今は、嘆いてる場合じゃない。
「ガルヴァ、そっちはどうだ。スフィウスは無事か」
(バーザール様! スフィウスを回収しました。しかし、彼女…先ほどから一言も喋りません)
通信越しに聞こえるガルヴァの声も、かつてないほど緊張に震えていた。俺は森を駆け抜け、ガルヴァのもとへとむかう。
地面に座り込み、虚空を見つめるスフィウス。俺が近づいても、彼女は気づくことさえなかった。
「スフィウス、俺だ。戻ってきたぞ。……すまない、間に合わなかった」
彼女の肩にそっと手を置く。その瞬間、彼女は弾かれたように俺を見上げ、俺の胸に縋り付いた。
言葉にならない叫びが掠れた嗚咽へと変わり、服を濡らしていく。生き残った喜びよりも、目の前で家族が、友が、街が消え去ったことが頭を支配しているみたいだ。
「バーザール!街が……!お母さん!みんな……」
俺はスフィウスを慰める言葉を持っていない。むしろ、これは俺が引き起こしたと言っても過言ではないのだ。
爆心地の近くからは、雨音が聞こえ始めてきた。
「ガルヴァ、スフィウス。ここもすぐに危なくなる。あの雨は絶対に浴びちゃダメだ。この山を越えて、一刻も早くファラウルへ戻るぞ」
〈承知いたしました……ですがバーザール様、ファラウルも戦時体制に入ったのなら、どこへ逃げても同じではありませんか……? むしろ、戦端が開かれた国へ戻るのは……〉
ガルヴァの至極真っ当な問いに、俺は不気味な姿になった空を見上げて答えた。
「逃げるんじゃない。あそこには、キュラゴクスの家がある。キュラゴクスたちは、これを聞いてホガ=ドルナから帰ってくるはずだ………合流しなきゃ、始まらない」
俺は疲れて寝たスフィウスを抱えて、力強く地面を蹴った。背後にそびえ立つキノコ雲が、今はまるで大きな墓標にすら見えた。
神さまの言葉通り、戦争は起きた。そして、起きてしまった悲劇は変えられない。だが俺には、この先に続く時間を無抵抗に受け入れるつもりはさらさらなかった。
俺の拠点だったファラウルが味方として参戦した。それは一見、心強いことのように思えるが、現実は逆だ。
ホガ=ドルナは間違いなく、ファラウルも標的にすることになる。そして、この光景を再び起こさないとも限らないのだ。




