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30話 街の修羅


 急いで4人の部屋に行き、説明をして一人ずつ起こしていく。

 キュラゴクスたちはベッドでぐっすり寝ていたせいでまだ寝ぼけた顔をしていたが、俺が指差す窓の外を見た瞬間にその場の空気が一気に凍りついた。

 灰色の花びらが街に降り注ぎ、知っているはずの広場が墓場のようになっている。


【……街そのものが術に呑み込まれたか。これほどのことを起こせる人がいるとは、驚きだ…】


【それと、森から帰ってくるときに凶暴化した動物の群れを見たんだ。街に向かってきている。このままじゃ街が危ない】


【それは、俺とラナリリス、巡雩が対応する。バーザール、お前はスフィウスと共にその男の思惑を探って欲しい】


 キュラゴクスは冷静に窓の外を一見し、すぐに俺に向き直った。その目は、すでに戦況を知っているようだ。


【いいか、状況はよくない。戦場はこの街のすぐ近くだ。ここで派手な大規模魔法を発動することは、敵を仕留める前にガンドゲウスそのものが崩壊させることを意味する……バーザール。今回は派手な行動は控えてくれよ】


 キュラゴクスの判断に、俺は短く頷いた。

 魔法が制限される市街地戦。ドラゴンになれないということは、俺は肉弾戦で役に立てない。


【行くよ、バーザール! 急がないと!!】


 宿の扉をあけて、俺たちは再び灰色の街へと飛び出した。

 一歩踏み出した瞬間、目の前にあったはずの広場が消え、代わりに長い石壁が立ち塞がる。

 だが、俺の視界には全知王(ヘルメス)の展開する蒼い線が、脈動するように光を放っていた。


【そこを右!その後左で…まっすぐいけば着くはずだ!】


【見つけた……あいつだね!】


 歪んだ神殿の屋上に、一瞬だけあの男の姿が見えた。男は街の奥を見下ろしながら何か喋ると、ふっと空気の中に溶けるようにして消える。


「待て! 逃がさねえぞ!」


 俺はスフィウスの手を強く引き、走り出した。

 俺は男が消える姿を見たが、ヘルメスの地図ではまだそこにいると表示されている。


【スフィウス、まだあいつは屋上にいるぞ! ついてこい、走る!】


【えっ、屋上?!どうやって…って、そっちは逆方向だよ!】


【いいから、一旦こい!】


 俺たちは、見た目の景色を完全に無視して走った。角を曲がると、目の前に神殿が現れる。だが…


【ここは、ダミー…こっちだ!】


 俺は無視して、また走り出す。

 数回繰り返すうちに、線が途切れた。目の前には、あの丸い円盤が立てかけてある。

 俺はそれを地面に置き、スフィウスと一緒に乗る。


 すると、屋上へワープした。目の前には、男の背中がある。


「やっと着いたか…」


「なんだ、来たのか。面倒くさいな」


「何が目的なの?街をこんな変にして…」


「待て待て。俺はお前らを殺そうなど考えていない。ましてや、今の状況じゃ殺せるとも限らない。ただ、様子を見に来ただけだ。この街も、俺が去れば元に戻る」


「……その言葉、どうやって信じろと?」


 俺は地面に足を突き、男の背中を睨みつけた。ヘルメスの地図が示していた座標は、今、間違いなくこの男と重なっている。

 男はゆっくりとこちらに振り返った。その瞳には感情の色がなく、ただ冷淡に俺たちの姿を映している。


「様子を見に来ただけ、だと? お前のせいで街はおかしくなってる。森の動物たちまで凶暴化して、今もこの街を潰そうと押し寄せてるんだぞ。お前が去れば戻る?それなら今すぐ出ていけよ!」


 俺は一歩踏み出し、手に魔気を込める。だが、キュラゴクスの言葉が頭をよぎる。ここで派手な真似をすれば、足元の神殿ごと街が消える。魔法で一気に焼き払うことも、ドラゴンになって暴れることもできない。


「ふ………それじゃあ、もしあの動物たちはお前が狂わせたとしたら…?その熱量が、お前という存在が街を滅ぼす引き金になるとは考えないのか?」


 俺が、あれを起こした…?


「どういうことだ?何が言いたい?」


 男は薄く笑い、指先で空をなぞった。すると、俺たちの足元の景色がぐにゃりと歪み、神殿の屋上だったはずの場所が、一瞬で奈落のような深い穴に変わる。


「うわっ……!?」


 スフィウスがバランスを崩しそうになるが、俺はヘルメスの蒼い線を凝視した。地図上の俺たちは、依然として屋上の平坦な床の上にいる。


「スフィウス、 景色に騙されるな!床は無くなってない」


「えっ、でも足元が……!」


「いいから、前を向いてみろ!」


 俺はあえて、穴に見える空中に強く一歩を踏み出した。感覚では何もない虚空に落ちるはずなのに、足裏には確かな石の感触が跳ね返ってくる。床はまだある。あいつはやはり視界を変えることができるのか。


「すばらしいな。視覚を捨てて、概念上の位置情報を優先しているのか。流石は異常個体だ」




 男が退屈そうに指を鳴らす。

 瞬間、俺たちは見知らぬ空間に飛ばされた。

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