1章改稿・試作読み⑨
翌朝、二日酔いの感覚に頭を抱えつつ目を覚ます、なんというかあの薬って凄いんだな……。
所々ない記憶を探りながら起き上がると浴室の扉が開いた。
「あ、鷹取。起きたんだ、おはよー」
「あ、細野さん……おはよ……」
ナチュラルメイクというのだろう最低限のメイクで整えた細野さんに、居心地が悪くなる。
「何そんなモジモジしてるのよ、童貞じゃないんだし……」
それはそうなのだが、どうも居心地が悪い……。
「えっと……」
「何? まだ気にしてるの? 私も奏もやることは了承済みよ?」
気にするだろ、二人の逃げ道なくしたみたいに言葉を並べ立てて二人を好き放題にしたんだから」
「あーそうねぇ……まだ、奏は寝てるし。私も声少し枯れてるしね」
「うっ……すまん……」
「まぁその……私も結構……楽しんだし……」
耳まで赤くした細野さんが目線を逸らす。なんだろう、すっごく可愛いんだけど……。
「でも、本当に俺でいいのか? おっさんだけど」
「いいも何も、私の彼氏は青年実業家なんてやってるし、なんなら鷹取と同じくらいの歳だしそんなに気にしないわよ。それと今の鷹取はオッサンというよりも好青年くらいの感じよ、顔もいい……かなりいいし」
青年実業家って大旦那みたいなアクティブな人だよな。そんな人と繋がりがあるって細野さんってかなり凄いのでは?
「細野さんの彼氏って凄いんだね……。というか、細野さんも凄いんだな」
「そうでもないわよ。今頃、別の女に乗り換えてるでしょうけど」
「えぇ……酷くない?」
「そういうものよ、実際私は偶に食べるジャンクフードみたいなものよ。鷹取も奏とする時の方が気合入ってたじゃん」
ニヤニヤしながら肘で突いてくる。
「違うよ!?」
「えーでも奏の時の方が喜んでたじゃん」
「捏造やめて!? 細野さんの時も……あっ……」
「じゃあいいじゃない。というか、色々と臭いが凄いわね……シャワー、浴びてきたら?」
あっけらかんと言うその姿にこちらが狼狽えてしまう。
「大丈夫よ、加齢臭じゃないわ……お酒とか昨日の残りの匂いとか……」
そう言って視線を下に向ける。ベッドとか諸々凄いことになっていた。
「あっ、そうだな……」
「私、軽く部屋を片付けておくから、ほら入った入った」
細野さんに押し込まれて朝風呂に入り身だしなみを整える。その後は蒼井さんを起こして準備を終えた後、大旦那の元へ奴隷契約を切り替える為に向かう。
「おはようございますホウショウ様、こちらへどうぞ」
昨日案内してくれたメイドさんは今日も表情を変えず、淡々としながらもちょっとだけ耳を赤くして大旦那の元に案内してくれる。
「では、到着いたしました。旦那様、失礼いたします」
再び訪れた応接室、そこで大旦那は昨晩の売上計算をしていた。
「いらっしゃい、三人共少し座っててくれ。三人にお茶を」
「かしこまりました、お三方共こちらへどうぞ」
メイドさんが椅子へ案内する。言葉が通じない二人の手を引いて座らせる。
「こちら、酔い覚ましの紅茶です。砂糖と樹蜜はこちらです」
「ありがとう。二人共、酔い覚ましの紅茶だよ、少し苦いから砂糖かシロップを使うといいよ」
「ありがとう」「ありがとうございます」
二人共、一口飲んで苦かったのか紅茶に砂糖とシロップを混ぜていく。
「では、失礼いたします。扉の前で控えてますので何か用向きがあればこちらのベルを」
呼び鈴を置きドア前に控えるメイドさん。それからしばらくして紅茶を飲み干した頃大旦那が立ち上がる。
「すまない、待たせたよ。少々今日はお客が多くてね……」
「そうなのか?」
「あぁ、どうやら街道が完全に復活したみたいでね。流れが滞ってた分一気に商人が流れてきたんだ」
「そりゃ良かった、繁盛してて」
「あぁ、この街でも十分に稼げそうだよ」
「そうかい、じゃあ俺もそろそろ王都に戻るかね」
「もう帰ってしまうのかい? 養生であればこの街は平和で最適じゃないか」
「そうも言ってられないだろ。家は王都にあって金も稼がないといけないし」
「じゃあ、カトレアが居ないからか?」
「カトレア……? まぁ、居ないと寂しいが……」
「…………はぁ、そういうことじゃないんだが。まぁいい、今回は二人分だ今回は相当かかるけど大丈夫かい?」
そう言いながら身請けの契約書等を準備していく大旦那。
「は? カトレアは一番の稼ぎ頭だろ?」
「それはそうだが。お前のせいで働きが落ちるだろうに……」
肩を竦める大旦那。娼姫の働きが落ちる?
「まさか……!?」
「それは大丈夫だよ、少なくともしっかりと避妊の魔法は働いてるからな……それもいつまで持つか……」
「ん? 普通は防護魔法があるだろ?」
「そりゃそうだけどな……はぁ……」
溜息をついて書類を差し出してくる、そこに書かれていたのは二人の身分であり架空の名前だ。
「こいつが二人の戸籍だ、娼館での名義はどうする?」
「それなら……」
考えていた二人の名前を伝える、それを聞いた大旦那が用紙に書き込んでいく。
「ふむ、ネモフィラにミモザか……いつも通りいい名前だな」
「イメージで付けてるだけだけどな……」
「俺が付けるよりはマシだよ、っとこれで書類は終了だ」
戸籍用の書類に記載が終了する、そのまま今度は性奴隷の譲渡証明書を準備する。
「しっかしヒヨウ。お前の結婚相手には常々、もっと華やかな人がいいと思ってたんだが……」
「あのなぁ……。この二人はそういう相手じゃないって……」
昨日説明したのになんで変な想像を働かせるんだ……。
「なら、ついでにもう一人くらい……」
「いや、いいよ。金等級冒険者じゃ娼姫三人を養うのはかなり大変だしな」
「いやまぁ、そうなんだけど……はぁ……」
大きく肩で溜息をされる、どうしたというのだろう?
「わかった、とりあえず俺は契約の上書きの準備をするよ」
そう言って奥の部屋に入っていく。契約や書き換えは店の奥にある決められたスペースでしかできないようになっている。
「ねぇ、旦那様。さっき何を話してたの?」
「あぁ、二人の出自についてね。極東の島国、皇神国って呼ばれる所が出身と伝えてるよ。だから出身を聞かれたら極東か皇神国出身と答えてくれればいいよ」
「わかったわ」「わかりました」
「おーい、準備できたぞ~」
大旦那が奥の部屋から顔を出す。それに応え二人を伴って奥の部屋へ向かった。
◆◇
「さて、今日は二人の冒険者用の服を買おうか」
「服……買い物!!」
「わぁ! 新しいお洋服欲しかったんです!」
凄く喜んでくれる二人、こっちの世界に来てから初めての娯楽だ。当然いきなり召喚された二人はこちらの本なんかも読めないし。荷物は持ってたけど教科書くらいしか入ってない、暇潰しで少しは文字を勉強してるが一人で読むにはまだまだである。
「とはいっても、二人分の身請け金とか偽装にお金使っちゃったしそんなに高いのは買えないんだ」
「あー確かに、なんか凄い量の金貨を出してたわね……」
「すみません、 私たちの為に……」
「まぁ、お金は稼げばいいからね。ただ、この世界って新品の服が買えるのは貴族くらいなんだよ」
新品の服一着で金貨数枚(数十万円)はする。中古も使用度合いによって値段がピンキリだ。
「「そんなに高いの(ですか)?」」
「うん、ミシンなんてないし。基本は手縫いだよ、だから基本は中古になっちゃうんだよね」
それに、王都でもない限り既製品の服は売ってない。なので、あっても中古が基本でオーダーメイドの仕立て屋だけだ。
「機織り機とかはないのでしょうか?」
「あるけど、そもそもの糸が高いんだよね」
俺たちが着てる服は基本的に麻か絹か羊毛に羽毛が一般だ。それに、魔力を込めて編んだ糸や魔力を持つ生物からとられた魔力糸があるのだが、それがとてつもなく高い。
「そうでなくても主流は革製品だしね」
皮はたくさんあるしな。魔物の皮から動物の皮まで素材は沢山ある。俺の外套も幾つかの魔物の革を裏地に合わせたものだ。
「うーん、仕方ないわね。ともかく行こうかしら」
「そうですね♪」
上機嫌な二人を連れて服屋に向かう、服屋に入るとおおよそ二人が想像してないような地味色の服が二人を迎えるのだった。




