1章改稿・試作読み③
それから、アインを帰らせた後。二度寝してたこともあり馴染みの武器屋でメンテナンスを終えた頃には、 茜空で夕方の鐘が鳴っている。人の増えた道、その喧騒《合間》を縫ってとある場所へ向かう。
「そういえばこの時間に行くのはかなり久しぶりだな……」
向かっているのは色町……娼館街だ、煌びやかに飾られている娼館の前にはソワソワした少年の冒険者や、その先輩だろうか、したり顔をした冒険者が肩で風を切って歩いている。そして、その横を貴族の馬車が走っていったりと騒々しい。
「旦那ぁ! おはようございます!!」
そうして娼館街で一番煌びやかな店の前に到着する。すると扉の前に居た黒服でいつ
もの強面が元気よく笑顔で迎えてくれる。
「よお、ガルデン。大旦那に話があるんだが……」
「はい、ヒヨ……ホウショウさん。大旦那様に取り次ぎますね、おい!」
真面目な顔になったガルデンが、もう一人の黒服に声をかけると、娼館の中に通される。豪奢な
ロビーには薄衣の女性たちが微笑みを浮かべて男性たちへ愛嬌を振りまいていた。
「旦那ぁ、ここに座っててください。俺は大旦那の所に行ってきます」
そう言ったガルデンに豪奢なソファーへ案内される。その後、禿に果実水を出されて待っていると隣に誰かが滑り込んでくる。
「ホ~ウショウ!」
「あぁ、カトレアこんばんは」
紅枯梗の髪にランプの光が反射する。俺を覗き込む深紅の瞳を持つ彼女が、その大きな胸を押し付けしなだれかかってくる。
「あら、こんな短期間で来るなんてめずらしいわね? 羽振りがいいけど大丈夫なの?」
「あーごめん、今日は大旦那に用事があってさ」
「そうなのかい?」
「あぁ、相方が間抜けなことしたから。フォローをしにね……」
「あー」
娼姫たちを纏める役割もやっているカトレアが苦笑いを浮かべる。どうやら彼女もスズランから聞いてるようだ。
「やっぱり、怒ってた?」
「いいや、仕方のない人って笑ってたさ」
「なら良かった……」
「流石、面倒見がいいねぇ~」
ニコニコと笑みを浮かべながら猫のように身体を擦りつけてくる。年下ながら可愛らしさの中に艶やかさがあり、心臓が早鐘を打つ。
「んふふ~」
俺の変化なんてお見通しの深紅の目、この見透かされるような目に弱いんだよなぁ……。
「ホウショウさん、大旦那様への確認終わりました、今なら大丈夫です」
いつの間にか確認を取ってきたガルデンが声をかけてくる。
「それじゃあカトレア、話が早く終われば」
「えぇ、楽しみにしてるわねヒ・ヨ・ウ」
最後に耳元で名前を言われドキッとしてしまった、全くこの人は魔性の女性だ。
◆◇
「大旦那様、よろしいでしょうか? ガルデンです、ホウショウさんを連れてきました」
ガルデンが俺の来訪を伝えると、すぐに扉が開いた。
「ホーウーーーーショーーーーーーーーーウ!!!」
「やめろ気持ち悪い!!」
入口を蹴破り飛んできた影を叩き落とす。仲がいいとはいえ男に抱きしめられる趣味はない!
「いてて……酷いじゃないか!」
「酷いと思うなら事ある毎に抱きつこうとするな!」
「いいだろ!? 俺とお前の仲なんだし!!」
「俺にはそんな趣味はない!!」
「ケッ、それでお前さん。今日はなんの用だい?」
「先日、ウチの相方が迷惑かけたからな。その詫びに来たんだよ」
「あー、アインか……まぁ、スズランも呆れてたけどな」
「マジか。これが原因で白紙とかには……」
「大丈夫大丈夫、スズランがベタ惚れしてるから」
「それはそれで心配になるのだが……」
緊張する事案が終わり、一息つくと大旦那が呆れたように俺を見る。
「あ、でも。気になるのであれば詫びとして、カトレアの相手をしてくれるか?」
「えぇ……。俺の懐事情は良く知ってるだろ?」
「お前なぁ……それでも金剛級かよ。もっと稼いでるだろ?」
「金・等・級だ! そこまで稼げる訳じゃねーよ」
「そうだったか? まぁ俺にとってはお前は天星級だよ」
天星級というのは冒険者のランクで最上級である。この国の筆頭騎士が天星級なのだがファーブニルと呼ばれる竜と人の混血種なので文字通り人外でないと到達できないのだ。
「はいはい、お前の中でな。だけど現実の俺はしがない金等級だよ」
「謙虚すぎるのもどうかと思うがな。まぁ、そんな金等級様にうってつけの依頼があるんだ」
笑いながらバシバシと肩を叩いてくる。コイツ……からかってやがるな……。
「依頼? そういうのはギルドを通してくださーい」
そっぽを向きながら悪態をつく。そんな姿を見た大旦那が笑い出す。
「いやいや、お前にしかできないことだよ。ほれっ!」
投げて渡してくるのは部屋の鍵だ。つまりいつもの仕事らしい。
「これってお前……VIP ルームじゃねーか」
「一昨日にな、こっちでも注意はしてたんだけど相当嫌な客《貴族》に当たったみたいでな、だいぶ鬱憤が溜まってるんだよ」
「そうなのか……いつもと変わりないから、わからなかったな……」
「そういうことで、娼姫たちのメンテナンスも娼館主の仕事だ。だからホウショウ、頼んだぞ!」
大きく背中を叩かれ、俺は部屋を追い出された。
◆◇
件の依頼を受けてから五日後、イブキ公爵領の領境まで来た俺たちは馬を停め野営の準備に入る。
「ホウショウ、こっちに来れるか?」
薪拾いに行っていたアインが神妙な顔をして戻ってきた。一体どうしたというのだろうか。
「どうしたアイン? 魔物や魔獣が出たって感じじゃなさそうだが?」
「少し……いや、かなり気になる物を見つけてな」
アインに案内されて街道から外れる。すると崖下で人目を忍ぶように馬車と十数名の男たちが車座を組んで休んでいた。
「あれ、気にならないか?」
怪訝な顔をしてアインが集団を指差す。魔物用の忌避香を焚いているのに明かりは魔石を使ったカンテラだけだ。常識のある商人であれば忌避香と同時に火を焚くことで野生動物や魔獣まで寄らせないようにするのだ。
「アイン、地図は持ってるか?」
「あぁ、さっき見回りついでにここら辺の情報を書き込んだからな」
生憎、俺の地図は鞍に付けた鞄の中だ。アインの地図をもらい空間収納から古地図を取り出し比較する。
「助かる……やはり、この下は旧街道で間違いないな」
「となるとあいつらは〝普通〟の行商人じゃないってことか」
「そうだな。第一、あの商会だったらこんなコソコソ隠れて動く必要もないしな」
四頭立ての大型幌馬車にぶら下げてある看板は、王都でも有名な大手の商会のものだ。あんな旧街道《獣道》を通るような後ろ暗い商売の噂なんて聞いたことはない。それに、大型とはいえ幌馬車一台に護衛の数が十四人という通常の倍近い数だ。
「ここまでの情報から、嫌な想像しかできないな」
「違法奴隷……」
「可能性は高いかな。はぁ…………まぁ、待て」
飛び降りようとする俺の肩を痛いくらいに掴かみアインが制止する。
「おいおい、まだ確定じゃないんだ。万が一、もしかしたら貴重な品を運んでいる場合もあるだろ」
「…………すまん」
「まぁ、正直俺も違法奴隷の可能性が高いと思う……っとと、そう血走るな。お前が憎む理由は知ってるが、まだ確定した訳じゃないからさ」
「っつ、悪い」
「ホウショウは積み荷の確認を。俺は鎧を持ってくる」
「わかった……」
それから身軽な俺が崖下まで降りて、幌馬車の品物《中身》を確認しに行く。
「見た目は……積み荷が満載に見えるな」
だが、積み荷の置き方に違和感を覚える。確かめる為に天井に登り覗き穴を作る。
「嫌な想像が当たったな……」
荷物の壁に隠されて鉄の檻が見える、中に数名居るようだ。
メロンブックスさんの特典ですが、復活しているのですが。
いつ無くなるかわからないので、お早めに!
本当にありがとうございます。




