32.閻魔の弱体化がバレないように
「そ、そんなことより、バルムンクはなぜこの里に?」
俺は逆に質問して、話をそらそうとした。
だがシャーロットさんは、俺の露骨な態度を咎めることなく、ゆっくりと周囲の山々へ視線を向けた。
「鬼人族の里長から依頼を受けました。ここへ来る途中、ご覧になりませんでしたか。所々、木々の葉が不自然に色を失っています。」
確かに、大半は青々としているのに、ところどころだけ葉の色が薄く、元気がない木が混じっている。
最初は季節の違いかと思っていた。
「里の者達も最初は病や害虫を疑ったそうです。ですが、土にも、水にも異常はありませんでした。虫害の痕跡もない。それなのに、木々だけが少しずつ衰弱していくのです。木だけではありません。動物達も不自然に数を減らしています。」
シャーロットさんが言うには、この里の自然が静かに衰えている。
しかも誰にも理由が分からない。
それを解決すべく、バルムンクが指名されたということか。
「まあ、アンデッドはこういった個人的な依頼は受けないことが多いでしょうが」
シャーロットさんの呟きで思い出すのは、ボルガンを含む黒服連中の面々。
俺は思わず口を滑らせてしまった。
「本当、冷たい連中ですね。」
「え?」
しまったと気づき、俺は慌てて両手を振った。
「あ、いえ!?その・・・もしこれが、人の手による犯罪だったら、その犯人達は本当に冷たい連中だなって!」
アリシアさんが横で「何やってんだこいつ」と言いたげな顔をしている。
シャーロットさんはキョトンとしていたが、やがて思い出したように頷いた。
「ああ、そういえば今はあなたに質問したいのでした」
胸を撫で下ろす暇もなく、彼女は静かに俺へ向き直る。
「アンデッドに戻るつもりは・・・当然ないでしょうね。だとしても・・・スズランの方達とはどういう繋がりなのでしょうか」
「えっと・・・護衛?」
「護衛・・・が必要だったのですか?」
明らかに不自然な回答をした俺に、シャーロットさんが首を傾げる。
帝国の小さなパーティーが閻魔の護衛というのは確かに無理がある。
「依頼人としてでしょうか?」
「ではないです・・・・・」
「じゃあ、仲間として?」
すると、アリシアさんが横から俺の肩に手を回して明るく言った。
「まあ、そんな感じだな!家族みたいなものだ!」
「家族!?」
俺は思わず声を上げた。
「違うのか?」
「いや、違うというか、急に重くないですか?」
「じゃあ親戚」
「なんで血縁に寄せるんですか!・・・あっ・・・・・・」
俺たちのやり取りを見ていたシャーロットさんが不思議そうに目を丸めた。
シャーロットさんの隣にいた男が、わずかに眉を動かす。
フランクさんが咳払いした。
「少なくとも、今の閻魔は敵ではない。俺たちはヒイラギを利用するつもりもない」
するとそれまで無言を貫いていた付き添いの男が口を開いた。
「失礼ですが、閻魔殿」
「は、へい!」
突然声をかけられ、俺は変な返事をしてしまう。
「あなたは我々に聞きたいことがあると伺いました。」
男の視線がわずかに鋭くなる。
「こちらも知っていることは包み隠さずお話しするつもりです。ですから、あなたのお話も聞かせていただけませんか。」
言い方は丁寧だが、強い圧をかけられている気がした。
俺は出来るだけ付け込まれる隙を見せない程度の嘘をつくことにした。
「実は、記憶が・・・少し抜け落ちてしまったんです。だから今の俺は、以前の閻魔とは少し変わってしまったかもしれません・・・それで・・・もう、戦いとか、人殺しとか、嫌になったんです」
俺は自分の両手に視線を落とした。
自分ではない誰かの罪を自分のものとして語っていると、前世のトラウマを思い出して気が落ち込む。
「今まで散々殺してきて・・・今更どの口がって感じだと思いますけど」
シャーロットさんが、そこで小さく笑った。
場の空気を和ませるような、柔らかい微笑み。
「ふふっ」
「なんだ?」
アリシアさんが少し怪訝そうに眉を寄せる。
「いえ」
シャーロットさんは首を横に振った。
「聞き及んでいた印象とは、大分違うなと思いまして」
「あっ、えっと・・・・・・」
俺の背中を冷たい汗が流れる。
俺が嘘をついているのがバレたのか?
もしそれで、この場の全員首を刎ねられでもしたら・・・・・・




