表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/215

30.鬼人族の里

近くを歩いていた住民達の姿を見て、俺は少しだけ目を見開いた。


「・・・角だ」


鬼人族。魔族とは、若干印象が違う。

魔族の角は側頭部から伸びるが、彼らの角は額の近くから生えていた。

子ども達が物珍しそうにこちらを見つめ、母親らしき女性が苦笑しながらその手を引いていく。

農具を担いだ男は軽く会釈すると、そのまま畑へ向かって歩いていった。

決して閉鎖的ではないが、よそ者を静かに観察している空気は確かに感じられた。

その空気をぶち壊すように、隣で弾ける声が響いた。


「いい場所だな!ちょっと探検していいか!?」


声の主はアリシアさんだった。

目を輝かせながら今にも走り出しそうになっている彼女を、フランクさんが制止する。


「今日はとりあえず泊まる予定だ。時間はまああるから、落ち着け」

「はぁい」


不満そうに唇を尖らせるアリシアさんを横目に、フランクさんは俺達を見渡した。


「ミアとヤリスとアリシアは宿を取っておいてくれ。ヒイラギは俺と一緒にバルムンクについて聞き込み調査だ」

「分かりました」

「あ、だったら私も行く!バルムンクって奴らのメンツも気になるしな!」

「忙しいやつだな」


ヤリスさんが苦笑を漏らした。

俺達が訪れたのは里の中心という雰囲気のバーだった。

木の梁が剥き出しになった店内には、酒樽と香辛料の匂いが漂い、昼食をとる鬼人族たちがぽつぽつと席を埋めている。

俺たちがカウンターへ歩み寄ると、グラスを磨いていた店主が顔を上げた。


「いらっしゃい。旅の人かい?」

「少し聞きたいことがある」


フランクさんが軽く頷いた。


「バルムンクっていう冒険者パーティー、この里に来てないか?」


店主は少しだけ手を止め、意味ありげな笑みを浮かべた。


「ああ・・・来てるよ。最近、この里も色々と抱え込んじまってね。腕の立つ連中が助け舟を出してくれてるって話なら、耳にしてる」

「・・・本当にいたんだ」

「昼頃になると川辺に集まることが多いよ。仲間同士で情報を持ち寄ってるみたいでさぁ」

「ありがとうございます」


フランクさんが礼を言うと、店主は興味深そうに俺たちへ視線を移した。


「ところで、その人達に何の用だい?」

「それは──」


フランクさんが答えようとしたその時、下卑た笑い声が店内へ割り込んできた。


「おい、お姉サン」


振り向くと、奥の席で二人の男が若い女性を囲んでいた。

胸元には腕章。この里の役人らしいが・・・・・・


「知ってるよなぁ?俺達、帝国から派遣された、エリート調査員なんだぜ?里の生態系を維持して、皆が安心して暮らせる社会を作るために一生懸命働いてるんだ」


男の一人が胸を張り、もう一人が女性の肩へ手を伸ばした。


「だからよぉ、お姉サンの身体も『調査』させてもらおうかなぁ?」

「これも里のみんなのためなんだからよォ!」

「や、やめてください!お願いです・・・・・・!」


鬼人族の女性は身体を縮め、涙目で声を震わせた。

異常事態だというのに、店内は静まり返っていた。

周りで酒を飲んでいた男達は止めようとするどころか、俯いたまま誰も視線すら向けようとしない。

俺は考えるより先に、足が動いていた。気付けば、男達の前に立っていたのだ。


「あ・・・あのっ!・・・その人、嫌がっています・・・・・・」

「あ、おいヒイラギ!」


フランクさんが慌てて呼び止めるが、もう遅かった。

二人の調査員が俺の顔を見て、ヘラヘラと笑う。


「あァん?どしたチビ。帰ってママンのおっぱいでも吸っとけよ」

「魔族ごときが人間様に偉そうにすんじゃねぇ!魔族ごときが・・・魔族・・・・・・・」


俺の顔を見た片割れの男から、みるみる血の気が引いていく。


「・・・おい」

「まさかこいつ・・・『アンデッド』の閻魔!?」

「なんでこんなところに!?」


男達が目に見えて狼狽し始めた途端、アリシアさんが勢いよく割って入ってきた。


「そうだぞ!こいつはマフィアも尻尾巻いて逃げ出す恐るべき冒険者、『閻魔』だ!昨日だってなんの罪もない客船を一撃で吹き飛ばして、乗客を虐殺したんだ!スピーネの連中もビビってたって話だぞ!」

「な、なんだってぇ!?」

「ちょっとアリシアさん!?」


昨晩のあれは、全部ソニヤさんが作った幻覚だ。

男達が驚くとともに、俺も度肝を抜かれる。

騒ぎは店内に広がり、視線が俺へ集まった。

喉が渇いて、心臓が嫌なくらい速く脈打ち始める。

俺はどうしようかと、震える右手首を左手で掴んで押さえ込んだ。

閻魔だと周りに思われている以上、怯えなど絶対に見せるわけにはいかない。

だが、俺の思惑とは裏腹に、調査員の一人が、震える指で俺を指した。


「み、見ろ・・・!あの右腕を・・・左手で封じてる!」

「え?」


思わず間の抜けた声が漏れてしまうのを他所に、男は半狂乱で続けた。


「聞いたことがあるぞ!閻魔は本気になると、自分でも抑えられない呪いを右腕へ宿す!だから左手で封印してるんだ!」

「ま、まさか・・・今から解放する気だ!」

「ち、違──」


否定しようとした瞬間、緊張で喉が引きつり、小さく咳き込んでしまった。


「ゴホッ・・・・・・!」


すると二人は飛び上がった。


「始まるぞ!秘技――『冥獄・封呪解放』だぁぁぁ!!」

「逃げろぉぉぉ!!」


椅子を蹴飛ばしながら、店を飛び出していく。

彼らの剣幕に釣られるように、店内にいた客達も悲鳴を上げて壁際まで後退し、誰一人として俺へ近付こうとしなかった。


「・・・・・・」


腫れ物扱いされるのは初めてではないが、こうも露骨に避けられるとやっぱり傷つく。

そんな俺を横目に、フランクさんは苦笑しながら店主へ向き直った。

店主はまだ青ざめたまま、小さく頷いた。


「・・・さっきの質問の続きだ」


フランクさんは俺の頭に手を置いた。


「この閻魔について大事な事を知っているバルムンクの隊員を、紹介してほしくてな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ