28.つきまとってくるソニヤ
ソニヤさんはニヤニヤと笑いながら顔を近付けてくる。
「それより、ミアちゃん助けたこと、感謝の言葉ほしいな~」
「・・・・・・」
「相手はあの冒険者狩りのタランチュラだよ?私が手を出さなきゃ、君もあの子も輪切りになってた!」
反論できない。
実際、あの状況で俺にできることなど見込みの薄いブラフだけだった。
「・・・それは助かりました」
「ん~、よろしい」
ソニヤさんは子供扱いするかのように、俺の頭を柔らかく撫でてきた。
俺は恐る恐る彼女の手を振り払った。
「上の人達からの指示でね、また君のこと見ておけって言われてるんだよね~」
監視。遠回しですらない。
「流石にこんな状況になるとは思ってなかったから、姿見せるつもりはなかったんだけどね~」
俺は少し考えてから尋ねた。
「あなたは、さっきの襲撃・・・何も知らなかったんですか?タランチュラとか、あの荷物とか」
「うん!私はただ君達を見てただけだったから、巻き込まれた側〜」
即答だったが、そもそも幻覚で他人を騙すような人の言うことを信用できるはずがない。
そんな俺の警戒を見透かしたように、ソニヤさんは笑った。
「そんなことよりさ、君達これからどうするの?身分偽造してまで船に乗ってさ。内陸に行って、何しようとしてるの?」
彼女は椅子に腰掛け、頬杖をつく。
俺は答えたくなくて目を逸らした。
「そんなの、あなたには関係ありません」
「つれないなぁ。教えてくれないなら、ずっと付きまとっちゃう」
「嫌がられてるってこと、分かってますか?」
「だってそれがお仕事なんだもん♪」
俺は不快感を直接口にしたが、ソニヤさんは全く悪びれない。
黙っていても、この人は勝手についてくるだろう。
それに、行き先そのものはそこまで隠し通せるものでもない。
「・・・これから『バルムンク』って人達に会いに行くんです」
俺が素直に答えると、彼女の目がほんの少しだけ見開かれた気がした。
「どうしました?」
「どうしたのって?」
「いや・・・なんか気になることでもあるのかなって」
ソニヤさんの表情は戻っていたが、口元に浮かんだ笑みが、少し深くなった。
「これはますます、君達についていかなくちゃいけなくなったね」
嫌な予感しかしないなと思ったその時だった。
部屋の扉が勢いよく開いた。
「ヒイラギ!無事か!?」
飛び込んできたのはアリシアさんとヤリスさんだった。
その後ろからフランクさんとミアさんも続いている。
「ミアが急にいなくなったって言うもんだから、スパイレーダーで探しにきたぞ!心配かけさせやがって!」
「あ・・・すみません・・・・・・」
フランクさんは部屋の中を見回した。
「今、誰かと話してなかったか?」
俺は反射的に振り返ったが、つい数秒前までいたはずのソニヤさんの姿は、跡形もなく消えていた。
***
朝日が川の水面を黄金色に染めていた。
昨晩の騒動が嘘のように、港は平和だった。
船が何隻も停泊し、船員たちが荷を運び、商人たちが声を張り上げている。
俺たちの乗った船もゆっくりと岸壁へ横付けされた。
夜が終わったのだと思った瞬間、身体の奥から疲労が押し寄せてきた。
皆、昨夜はまともに眠れていない。
だが、その疲労を吹き飛ばすような声が響いた。
「おおおおっ!!」
アリシアさんだった。船が完全に接岸するより先に欄干へ身を乗り出している。
「見ろ見ろ!本当に着いたぞ!」
船を降りると、石畳へ飛び降りるように着地した。そして両腕を大きく広げる。
「内陸だ!!ついに来たんだ私達!!」
その姿は昨夜死線を潜った人間には見えなかった。
傷の手当ても済んでいない身体で、彼女はまるで遠足に来た子供のようにはしゃいでいる。
「お前元気だな・・・まあ気持ちはわかるぜ」
ヤリスさんは半ば呆れながらも、港町を見渡した。
見知らぬ建物。見知らぬ人々。見知らぬ景色。石造りの建物が並び、屋根の形ひとつとっても見慣れたものとは違う。異国の匂いが鼻先をかすめた。
「アンデッドに追われて、一度来たことあるだろうに」
「それとこれとは別だ!」
アリシアさんはフランクさんに胸を張った。
「今回はちゃんと、色んなところを巡って探検できるんだからな!」
その言葉を聞きながら、俺も港を眺めた。
遠くに見える山並み。霞んだ稜線が朝の光に薄く溶けていた。
知らない土地へ来たというだけで、少し胸が高鳴る。




