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27.襲撃の真相

戦場の喧騒から、少し離れた場所がある。

船内の倉庫。

薄暗い空間に、誰の目にも留まらない木箱が一つ転がっていた。

積み荷の隙間に押しやられ、戦闘の余波で傾いてもなお、それはまるで忘れ去られた荷物のようにそこにあった。

ならず者の一人が足を止めた。

甲板では今も剣戟の音が響いているが、男の目は獣のように光っていた。

噂の宝かもしれない。

周囲を見回すが、自分と同じように見つけた者は誰もいない。

男が口元を緩めながら斧を振り下ろすと、木箱の蓋が砕け散った。

男は身を乗り出した。そして、眉をひそめた。


「・・・なんだ?これ」


エルグラン帝国の輸出品である魔道具と一緒に入っていたのは、金貨でも宝石でもない。

ただの紙束だった。

複数の文書が、几帳面に束ねられて収まっていた。

露骨な落胆が顔に出たが、なんとなく好奇心に駆られ、男は文書に目を通した。

読み書きは得意ではなかったが、表題の一部は理解できた。


「閻魔──天使──計画?」


首を傾げながら、なんとなく続きを読んだ。


「第一段階──対象人物の状態──」


理解できないまま、ページをめくる。


「──が想定個体であるか確認するため──」


さらに次。


「例としてS級討伐指定モンスター『ボルゲノン』を差し向け──」


そこで、言葉が止まった。

男がゆっくりと視線を落とすと、自分の胸から、ナイフの切っ先が生えていた。

紫色の刃が背中から侵入し、心臓を正確に貫いていたのだ。


「ぐええ・・・・・・」


男は何が起きたのか分からないまま、膝から力が抜けた。

前へ倒れ込む寸前、視界の端に黒い外套が映った。

それは、スピーネの構成員、アダンソンだった。

アダンソンは、今しがた刺殺した男に一瞥もくれなかった。

ただ静かにしゃがみ込み、散乱した文書を拾い集めていく。

文書に火をつけると、一瞬で燃え上がった。

文字は黒い灰となり、倉庫の床にバラ撒かれた。

アダンソンは立ち上がり、耳元へ手を添えた。


「タランチュラさん。ブツの処分を完了しました」


通信魔法越しの返答は、すぐに返ってきた。


『わかった』


短い一言。アダンソンは無言で待つ。数秒の沈黙があった後。


『全員撤収だ』


その頃、甲板中央ではレイジと睨み合っていたタランチュラが、小さく息を吐いた。


「目的は果たした。帰るぞ」


声は静かだったが、周囲の部下たちにも届いた。

スピーネの構成員たちは迷いなく、小舟へと飛び移っていく。

撤退は一瞬だった。

タランチュラは最後に一度だけ、レイジを見た。


「また会おうぜ、閻魔」


それだけ言い残し、背を向けた。

残された者たちは、しばらく呆然としていた。

ミアは安堵と消耗が入り混じったため息を吐いた。


「久しぶりに肝が冷えたわね、レイジくん」


そして、ふと気づいて視線を向ける。


「・・・レイジくん?」


返事はない。

少し前まで、確かにそこにいた。

誰よりも目立つ場所に、誰よりも自然な顔で立っていた。だが今は影も形もない。

周囲をゆっくりと見回しても、その姿はどこにも見当たらなかった。


「いない・・・・・・?」


そして、ミアはもう一つの異変に気付いた。

海面へ視線を向けると、先ほどレイジに消し飛ばされたはずの客船があったのだ。

赤い光に呑まれ、跡形もなく消滅したはずの大型客船が、何事もなかったかのように海を航行している。

悲鳴もない。炎もない。船体の損傷すら見当たらない。

まるで最初から、そんなことなど起きなかったかのように。


「・・・え?」


ミアの口から、それ以上の言葉は出てこなかった。


***


その頃。

襲撃の混乱から少し離れた狭い一室で、俺は息を潜めていた。

部屋の扉が静かに閉じる。

わずかに開いていた隙間から外を覗いていたソニヤさんが、満足そうな顔でこちらへ振り返った。


「ふぅ。いやー、面白かったねぇ」


何が面白かったのか。俺には全く笑えなかった。

さっきまで船上で暴れて、ならず者達を震え上がらせ、タランチュラと対峙していた"俺"。

あれは、ソニヤさんが特異魔法で作り出した幻覚だった。

しかも、あの場にいた全員が完全に騙されている。


「さっきの船爆破するの、よくできてたでしょ!ドッカーン!」


まるで子供が花火の感想を語るように、両手を広げてみせた。


「おかげで君が乗ってること知ったならず者達も尻尾巻いて逃げ出してるよ」


それはそうだろう。客船ごと吹き飛ばすような化け物がいると思えば、普通は逃げる。


「今度は一体何を・・・・・・またラビンスの方針ですか」

「んー?」


そもそも、俺はこの人が船に乗ってきていたことを知らなかった。

また俺達を、いや、俺をストーキングしていたのだろうか。

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