25.冒険者狩りのタランチュラ、その真価
「囲めぇぇぇぇ!!」
タランチュラの危険性を無視できなかった誰かが叫んだ。
その声に呼応するように、海賊たちがタランチュラに向けて一斉に殺到する。
剣、斧、槍、銃。
様々な武器を構えた数十人が同時に襲い掛かった。
さらに水面の向こうから巨大な海賊船が接近してくる。
船腹には無数の男たちが群れていて、歓声と怒号がこちらまで届いていた。
「乗り込めぇぇぇ!!」
「船員も客も身代金ボーナスだ!!」
邪魔者が一向に減らない現状に、タランチュラは苛立ちを見せ始める。
「もうリングは満杯なんだよ・・・・・・!」
そう呟くと、海賊船に向けて左手を振った。
タランチュラの左手首から細い鋼線が射出される。
それが生き物のように海面を疾走した。
次の瞬間、轟音が海を震わせた。
巨大な海賊船が、真横から、綺麗に、断ち切られていた。
木材が砕ける音。鉄骨が引き千切れる音。積荷が海へ崩れ落ちる音。
「うわああああああああ!!」
海賊たちの絶叫とともに、巨大な船が左右へ分かれながら沈んでいった。
「う、嘘だろ・・・・・・」
「船が・・・・・・!?」
「何なんだよあいつ・・・・・・」
甲板中の視線がタランチュラへ集まっていた。
ならず者も、警備兵も、全員が、目の前で起きた現象に言葉を失った。
ヤリスさんが呆然と呟く。
「マジかよ・・・・・・」
フランクさんも盾を構えたまま固まり、アリシアさんですらただ目を見開いていた。
だが、タランチュラの攻勢はそれで終わらなかった。
タランチュラが猫背の姿勢で体を丸めると、身体が変化した。
全身の筋肉が隆起し、首筋の血管が浮き出る。
首元の魔術回路が起動し紫色の光を放ち始めた。
「伏せろぉぉ!!」
誰かが叫ぶと同時に、タランチュラは勢いよく両腕を広げた。
その瞬間、全身から数え切れないほどの針が射出された。
紫色の光を帯びた毒毛。
それらが暴風雨のように周囲へ撒き散らされる。
「ぎゃああああああああ!!」
「目がぁぁぁ!!」
「助け──」
毒毛が肉を貫き、船や荷物に突き刺さり、周囲の環境を破壊する。
毒針に刺された者たちは、怪我の箇所から変色し、体が壊死していった。
数秒前まで、そこは戦場だった。
怒号が飛び交い、銃声が鳴り、血が飛び散っていた。
だが今は違う。
誰も立てない。誰も動かない。
「ば、化け物・・・・・・」
誰かが掠れた声を漏らした。
反論する者はいない。
海賊も、警備兵も、ただ倒れたまま、あるいは遮蔽物の影で息を殺したまま、タランチュラの姿を目で追うだけだった。
***
ミアとレイジは、鳥の使い魔の群れを振り切りながら騒ぎの中心へ駆けつけた。
甲板には死体が転がっていた。
戦いがあったのではなく、蹂躙があったのだということは、死体の倒れ方を見れば分かった。逃げようとした者、膝をついた者、それでも刃を向けようとした者。
その全員が、同じ結末を辿っていた。
そしてその中央に、数人の男たちが立っていた。
レイジの視線が、その中の一人に吸い寄せられた瞬間、顔色が変わった。
「・・・・・・タランチュラ」
レイジの声が掠れた。
男もこちらを向いた。鋭い眼光が、迷いなくレイジを射抜く。
「テメエは・・・閻魔」
感情の色が薄い低い声だった。
レイジの背筋を、冷たい汗が伝い落ちた。
前回遭遇した時は運が良かっただけだ。
あの時はハッタリに合わせて背後が爆発するなんて状況が味方した。
だが、今回も同じような幸運があるとは思えない。
「ま、また会ったな・・・・・・」
レイジはできるだけ怯えを表に出さないように声を絞り出した。
だが次の瞬間、世界がほんの少しだけ歪んだ。
ミアだけが、その歪みを感じた。
何かがおかしいと気付き、目を細めたが、何がおかしいのかまでは、まだ分からなかった。
次にレイジが顔を上げた時、違和感が形となる。
さっきまで怯えていたレイジの姿はなく、まるで別人のように落ち着きすぎている。
「なんでお前がここにいる?」
タランチュラが問うと、レイジは肩を竦めた。
「それはこちらの台詞だ」
タランチュラは周囲のならず者たちを顎で示した。
「お前もこの馬鹿共と同じか?船に宝が積まれてるだの何だの。そんな噂を信じてここまで来たのか?」




