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24.タランチュラの到着

見れば、ならず者が2人、こちらへ向かって駆けてきていた。


「女だ!」

「どけゴラ!」


突進してくる男たちに対し、アリシアさんは即座にライフルを肩へと担ぎ上げた。

引き金を引くと、先頭の男の肩が弾け飛び、身体が大きく仰け反った。


「ぎゃあああっ!」


だが、もう一人は止まらず、ライフルでは到底間に合わない距離まで踏み込んでいた。


「オラァ!」


アリシアさんは半歩踏み込み、繰り出された拳を頭一つぶん傾けて躱す。

そのまま、男の勢いを利用して背負い投げを決めると、男は気絶して動かなくなった。


「ふん!」


アリシアさんの横を、別の男が駆け抜けようとしたが、その行く手を、巨大な盾が塞いだ。

フランクが構える盾の正面には、三つの砲門が並んでいた。

男が剣を振り下ろすと、金属音とともに盾がそれを受け止める。


「邪魔だ!」

「そうかい」


砲門が淡く発光した次の瞬間、威力を抑えた衝撃波が噴き出した。

至近距離から放たれた魔力砲撃が男を吹き飛ばし、欄干へと叩きつける。

男はそのまま海へと落下していった。

別方向から、さらに2人。

フランクさんは盾を回転させながら、身体ごと踏み込んだ。

巨大な壁が押し潰すように突進し、男たちが体勢を崩したところへ、杖の先端から魔法弾が放たれる。

連続する炸裂音と同時に、2人とも床の上を無様に転がった。


「アリシア、右だ」

「了解!」


2人の交わす言葉は短く、無駄のない連携を見せる。

一方、ヤリスさんは必死だった。


「うおあああっ!」


振り下ろされた斧を、辛うじて剣で受け止める。

明らかに腕力で勝っている相手は、ヤリスさんの命を刈り取ることに躊躇がない。


「肉薪を真っぷたあああつ!!」

「やばいいいいいい!!」


じりじりと押し負けそうになるその時、横合いから飛んできた蹴りが、男の膝を砕いた。


「ぎゃっ!」


体勢を崩した男へヤリスさんが反射的に剣を振り下ろすと、男は倒れ込んだ。


「助かった!」

「私も忙しいんだよ!」


声の主であるアリシアさんは、すでに別の敵に銃の狙いをつけているところだった。

周囲では怒号が響き、悲鳴が上がる。

銃声と魔法が縦横に飛び交い、隣の船でも、さらに遠くの船でも、同じように戦闘が起きていた。

その混乱の中、新たな小舟が激しく揺れる海面を切り裂くように近づいてきた。

船体が横付けされる音が、怒声の中でも耳に届く。


「また来たぞ!」


誰かが叫んだ。

船員たちが武器を構え、ならず者たちも弾かれたように振り向く。

小舟から数人の男たちが乗り込んできた。

先頭に立っていたのは、異様な男だった。

巨大なジャケットを羽織った長身の影。

肩から首にかけて、禍々しい魔術回路が黒く刻まれている。

その風貌を目にした者たちが、ほとんど同時に声を上げた。


「あいつは・・・『冒険者狩りのタランチュラ』!」


タランチュラは、静かに周囲を見渡した。

転がる死体。燃える船。ひしめき合うならず者。

それらをひとつひとつ確かめるように視線を動かしてから、深いため息を吐いた。


「・・・バカ共が勘違いしてタカりに来やがって」


怒りよりも、呆れが滲んでいた。

タランチュラは舌打ちをひとつ落とした。

後ろに控えていた部下が、苦笑いを浮かべる。


「一体誰が噂したのやら」

「エルグラン帝国の重鎮直々の極秘依頼。手違いで某国への輸出品に紛れ込んだ例のブツを、誰にも知られずに処分するってだけの話だったってのに、ねえ」


だが現実はどうだ。

スピーネが追っているものを宝だと思い込んだ海賊も山賊も賞金稼ぎも一斉に集まり、海の上で大乱闘を始めている。

タランチュラはゆっくりと頭を掻いた。


「面倒くせえ」


その瞬間、近くに立っていたならず者が金棒を振り上げた。


「登場して早々死んどけオッサン!」


鉄塊が振り下ろされる。

だが、タランチュラの振るった刃は、金棒ごとならず者の体を袈裟に両断した。


「誰に向かって口利いてんだ」


その手に握られていたのは、魔力を纏い紫色に光る巨大なナイフだった。

タランチュラは、前方に立っていた十数人のならず者達に向かって、ゆっくりと歩き出す。


「おい・・・・・・」

「何だ今の・・・・・・?」

「鉄を、斬りやがった・・・・・・」


ならず者たちは獲物を奪おうと押し寄せ、警備の人間たちは必死に応戦する。

そのさらに奥では、黒い外套を纏ったスピーネの男たちが刃を振るっていた。


「くそっ!何なんだこいつら!」

「止めろ!近づけるな!」


タランチュラはナイフを一振りさせるごとに、進路上の人間を薙ぎ払った。

ならず者も冒険者も、目についたものは無差別に斬り伏せていく。


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