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23.船上の襲撃

しばらく沈黙が続いた。

波の音だけが聞こえる。風が少し強くなって、水面が揺れた。

やがてミアさんが静かに呟いた。


「そう。あなたは、愛されていたのね」


その言葉に、なぜだか返事ができなかった。

ただ胸の奥が少し温かくなった。

ミアさんは夜空を見上げた。


「知ってる?この世界の技術には、おかしなところがある」

「そうなんですか?」


俺がその意味を測りかねていると、彼女は視線を空へ向けたまま続けた。


「発展の仕方が不自然なの」


俺たちの見つめる先で、他の船が煙突から白い煙を上げている。


「それまで存在しなかった技術が、ある時期を境に突然現れているものがある。銃火器、造船、創薬・・・・・・」


その言葉の意味するところが、じわじわと染み込んでくる。


「それって・・・・・・」

「もしかしたら、この世界にはあなたと同じ、前世の知識を持った転生者がいるのかもしれない」

「・・・・・・っ!」


ミアさんはまるで独り言でも呟くように、ただ静かに言葉を続けた。


「もしその存在を見つけることができたなら、帰る手掛かりが見つかる可能性があるかもしれないわね」

「日本に・・・戻れる・・・・・・?」


声が掠れていた。自分でも気づかないうちに、唇が震えていた。

俺の顔を見て、ミアさんは微かに表情を和らげた。

能面のような顔にほんの少しだけ、人間らしい何かが混じったような気がした。


「帰りたい場所があるのは、いいことだわ」


次の瞬間、彼女は突然振り返った。

同時に、懐から回転式拳銃を引き抜く。

乾いた発砲音とともに、弾丸が放たれる。

俺は反射的に振り向いた。黒い影が甲板へ落ちてきた。

鳥だった。いや、違う。

翼は異様に大きく、嘴は刃物のように鋭く、そして眉間には穴が空いていた。

魔物だ。恐らくは使い魔。

甲板に叩きつけられたそれは、二度ほど痙攣して動かなくなった。


「・・・え?」


理解が追いつかない。

気がつけばミアさんはすでに杖を抜いていた。

視線は鋭く、夜空を見据えている。

俺もつられて顔を上げて、初めて気付いた。

夜の闇の中で月を隠すように、大量の影がこちらへ向かってきていた。

今ミアさんの仕留めた使い魔が、多数こちらへ押し寄せてきたのだ。


「襲撃よ。ヒイラギ君、動いて」


次の瞬間、船全体に警報が鳴り響いた。

甲高いサイレンが夜の海を切り裂く。

最初の警報が鳴ったとき、誰もがどこか別の船で起きた小さな騒ぎだろうと高をくくっていた。

だがその音は、いつまで経っても鳴り止まなかった。

一隻、二隻、三隻。船団をまるで病が伝染していくように警報音が連鎖していった。

各部屋で寝ていた乗客たちがざわつき始める。


「なんだ・・・・・・?」

「事故か?」


船員たちも落ち着かない様子で周囲を見回していた。

その時だった。


「船影だ!」


見張り台から叫び声が飛んだ。海面を見下ろした者たちの顔色が、一斉に変わる。

小型船だった。それも一隻や二隻ではない。

夜の海を埋め尽くすほどの数の船が、船団へ向かって殺到していたのだ。

次々と鈎縄が投げ込まれ、ならず者たちが雪崩を打って甲板へとなだれ込んでくる。

剣に、斧に、猟銃。手にした得物は様々だったが、彼らが口々に叫ぶ内容だけは奇妙に共通していた。


「どの船だ!?」

「重要なお宝が密輸されてるって話だろ!?」

「俺たちがいただくぜ!」


お宝。密輸品。莫大な価値を持つ何か。

だが、襲われた側の船員たちは互いに顔を見合わせるばかりだった。


「何の話だ!?」

「そんな荷物、知らねぇぞ!」

「こっちは旅客船だぞ!」


乗客たちも困惑を隠せない。


「何言ってんだ、こいつら!?」

「酔っ払ってるのか!?」


けれども、ならず者たちにとって真実などどうでもよかった。

目の前に獲物があると信じ込んでいる者たちに、言葉は通じない。


「探せ!」

「抵抗する奴は殺せ!」


怒号が飛んだ次の瞬間には、もう鋼と鋼がぶつかり合っていた。

警護の人間たちが武器を抜き、乗りあわせていた冒険者たちも戦闘に加わる。

狭い甲板が、一気に戦場へと姿を変えた。

その騒乱の中に、スズランの面々もまた巻き込まれていた。


「なんなんだよ、これ!」


階段を登って甲板に出ると、ヤリスさんは顔をしかめた。

正直なところ、彼は戦いが得意なほうではない。

剣は使えるが、前へ出て無双するような戦士ではなく、むしろ面倒事はできるだけ避けて通りたい側の人間だった。


「俺たち関係ねぇだろ!」

「向こうはそう思ってないみたいだぞ!」


アリシアさんが叫び返す。


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