13.謎のダンジョン
しゃくりあげながら、それでもまず気にするのが、自分の発作のことじゃなくて、迷惑をかけたことの方だ。
「そんなこと、気にするなよ。助かったんだ。それでいいんだよ」
このまま休んでいたらヒイラギに内省を促しかねない。
俺は立ち上がって、辺りを見回した。
松明はさっきの部屋に捨ててきてしまったが、不思議なことにこの空間内は鈍い光で満たされていた。
天井が、ない。
いや、ある。あるが、はるか頭上にある。
俺達が出た場所は洞窟と言うにはあまりに空間だった。
壁面に、なにか、模様のような彫刻が見える。床は、ただの岩じゃない。何かの石材を切り出して、敷き詰めたものだった。
奥のほうに、円柱状の影がいくつも並んでいる。柱だ。等間隔に立っている、誰かが造った柱。
空気の流れが、人の手で作られた構造の流れをしていた。
「どうなってるんだ、ここ・・・まるで・・・ダンジョン・・・・・・?」
その時、テレパシーの連絡用魔法陣が眼の前に出現した。
「ヤリス!無事か?今どうなってる」
リーダーの声が、空気を震わせずに直接耳の奥に届いた。
「リーダーか!なんかいきなり床が落ちて、元いたルートの下を移動してる!ヒイラギも一緒だ!」
「ああ、こちらは今その場所にいる。派手に崩落したみたいだな。怪我はないか?」
「それが、ちょっとトラブルが発生した。ヘルメットが壊れちまったんだ」
「ヘルメットが?わかった。ミア、悪いが船まで取りに行ってくれ」
「了解」
ミアの返事は短かった。距離があるせいか、僅かに掠れている。
「下、と言ったが、何か道があるのか?」
「ああ。洞窟というか・・・まるで、ダンジョンみたいだ」
俺が言いきる前に、別の声が割って入ってきた。
「ダンジョン!?私もそっち行っていいか!?ヤリス!」
アリシアだ。声が一段大きい。ほとんど跳ねていた。
「おいアリシア。遊びじゃねぇんだぞ」
リーダーの声が、すぐに被さる。
「いいけど、さっき幽霊出たぞ」
「・・・・・・」
魔法陣の向こうから、たっぷり三秒、無音が返ってきた。
「や、やっぱり・・・行かなくても、いいかな」
あんなに元気な声を出していた女の声が、急に半分に縮んでいた。
もちろん、嘘だ。ただ、こいつには長々と説得するより、これが断然効くらしい。
「リーダー、こっちにはヒイラギがいるし、このまま行けるところまで行ってみてもいいか?」
「わかった。こちらは瓦礫をどけて、お前達の退路を確保する。深入りはするなよ?」
「心配ないさ、フランク!二人ともビビリだから、危機察知は優れてる!」
アリシアがイジるような声色で横から挟んでくる。
「ああ。どっかのバカと違ってな」
俺は返事を聞かずに通話魔法を切った。
「行くぞ、ヒイラギ。立てるか?」
「はい。もう大丈夫です」
まだ不安の残る表情だったが、ひとまずパニックは落ち着いたようだ。
俺達はしばらく、無言で進んだ。
俺の呼吸が自分でもわかるほど浅くなり始めたのは、最初の柱を三本ほど通り過ぎたあたりだった。
空気が、重い。
頭の奥が、痛み、胃のあたりが、酔ったみたいに揺らぐ。
広間の奥には、どこかへ続くであろう扉が構えていた。
だが、その手前で、俺の足は動かなくなっていた。
「大丈夫ですか?」
「くっ・・・ダメだ。ここからは俺は行けねえ」
肌でわかった。魔素の濃度が、人間の入れる範囲を越えている。
「港長の派遣した調査員が入れなかった訳が、わかるよ。お前、ホントに平気なんだな」
「魔族ですからね」
ヒイラギはどこか申し訳なさそうに、小さく言った。
「ここから先は、お前一人で行ってこい」
「で、でも・・・本当に大丈夫ですか?元の道に戻れるかわかりませんし、ヘルメットだって──」
「自分の心配しろよ。お前こそ、一人で進めんのか?」
ヒイラギは目を伏せたが、自分の指先を一度握りしめて、ゆっくり開いた。
「・・・行きます。皆を巻き込んでるのは、俺なんですから」
「オッケー。頼んだぞ」
広間の奥に、石の階段がある。
階段の先には、彫刻に覆われた石の扉が待ち構えていた。
その扉の向こうから、人を寄せつけない、濃密な何かが流れてきている。
「この先、一体何があるってんだ・・・・・・」
ヒイラギは振り返らずに階段を登ると、扉の向こうへ消えていった。




