↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
180/228

4.天使の石像

「す、すみません!俺も止められなくて・・・アリシアさん連れ戻してきます!」

「まあ待て」


カニを持ったままアリシアさんの元へ行こうとした俺は、肩を掴んで止められる。


「少しくらいいいさ。久しぶりの海なんだろ?遊んできな」


その声は、さっきまでの呆れた調子とは違っていた。

ぶっきらぼうではあるが、どこか柔らかい。


「でも・・・・・・」

「ヒイラギ!!」


崖の向こうから、アリシアさんの声が微かに響いてきた。

この距離で聞こえるなんて、どれだけ大きな声を出しているのだろう。

俺はアリシアさんの元へ戻った。


「フランク。ところで、あれは?」


ミアさんが指を差した。

崖の端、港町を見下ろす高台の一角に、白い石像が建っていた。

風雨に晒されたのか、表面はところどころ欠けて苔が張り付いていたが、何やら翼を広げた天使の姿を模しているようだ。


「何だ、知らないのか?平和の像だ。かつてこの地で魔族と人類の大戦があってな。終戦後、二度とあんな悲劇を繰り返さないようにと建てられたのがこいつだ」

「・・・この港で」


天使の石像は穏やかな顔をしている。

翼の先端が空を指していて、まるで遠くの何かに手を伸ばしているようにも見えた。

今はこんなに静かな海なのに、ここで人と人が殺し合ったことがあるのか。

ミアさんは何も言わず、ただじっと像の顔を見つめていた。


***


それから、日が傾くまで俺たちは港町を歩き回った。

アリシアさんに引きずられて路地裏の市場を覗いたり、ヤリスさんが見つけた屋台で名前もわからない揚げ物を食べたり、ミアさんが猫を追いかけて横道に消えていくのを慌てて探しに行ったり。

太陽が水平線に沈みかけた頃、俺たちは港の桟橋近くのベンチに集まっていた。


「はー、疲れた」


アリシアさんがベンチの背もたれに体を預けて、大きく伸びをした。


「気は済んだか?」


フランクさんが隣に腰を下ろしながら言う。


「今日のところは!」

「残念ながら明日には出発だぞ」

「えー!」


アリシアさんが不満そうに唇を尖らせた。


「せめてもう一日くらい・・・・・・」

「駄目だ。これ以上ここにいたら、追っ手が嗅ぎつけてくる。お前だってわかってるだろう」

「・・・むぅ」


アリシアさんが不満そうに口をとがらせて、視線を海の方へ向けた。


**


翌朝。港の奥まった一角に、航路管理局の建物があった。

石造りの二階建てで、壁には錨と鎖を組み合わせた紋章が掲げられている。

フランクさんに連れられて、俺たちは建物の奥にある一室へ通された。

部屋に入ると、まず目に飛び込んだのは、壁一面に貼られた海図だった。

航路が色分けされ、潮の流れや暗礁の位置が細かく書き込まれている。

その手前に、重厚な木の机がどんと据えられていた。

机の向こうに、男が座っていた。

港長の肩書きを持つ男にしては、役人というよりも元船乗りといった風貌だ。

鋭い目がこちらを一瞥し、フランクさんの顔を認めると、わずかに顎を引いた。


「来たか」

「お世話になります」


フランクさんが短く応じた。

普段のぶっきらぼうな調子ではなく、相手に合わせるように簡潔で、どこか硬い声だった。


「言っておくが、アルフレッドさんの頼みじゃなきゃ断ってるからな」


港長が椅子の背にもたれかかりながら言った。


「こっちだって面倒は御免なんだ。あんたらがどんな連中に追われてるか、話は聞いてる。うちの航路で問題を起こされちゃあたまらん」

「承知しています。ご迷惑はおかけしません。」

「そうしてくれ」


港長が机の上の書類に目を落とした。

身分を偽るための乗船手続き。

バルカンの人たちが口利きしてくれて、別人の名義で乗れるよう手配してくれたのだと、この間フランクさんが説明してくれたのを思い出した。

この航路は、巨大な反社会的勢力の息がかかっている。

そのまま本名で乗り込めば、港を出る前に網にかかる可能性が高い。

だから偽名を使い、商人の関係者という体で乗船する。

港長がペンを走らせ、書類を一枚ずつ確認していく。

俺たちは黙ってその作業を見守っていた。

部屋の中には紙を捲る音と、窓の外から聞こえる波の音だけが響いている。


「ところで」


港長がゆっくりと顔を上げた。

その目はなぜか、俺の方を向いていた。


「お前、魔族だろう」


素性を言い当てられた俺は、背筋に冷たいものが走った。

別に魔族であることが知られる事自体は不味いわけじゃないが、どうしても最近続いている出来事と関連させてしまう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。