48.呼ばれた連中
ヤコブは歪んだ空間を漂いながら、見えない川の流れに運ばれるような浮遊感に身を任せていた。
意識の片隅で、フランクの言葉が蘇る。
──お前には一線を弁える冷静さがあったはずだ!なぜ犯罪に手を染めた!──
ヤコブは唇を歪め、吐き捨てるように呟いた。
「下らねぇ」
視界の先に、ぼんやりと一つの扉が浮かび上がる。
ヤコブは扉のノブに手をかけ、勢いよく押し開けた。
眩い光が飛び込んでくる。
目の前に広がるのは、喧騒に満ちた宴会場。
ヤコブは眉をひそめ、周囲を見回した。
「なんだァ?この集まりは」
豪華な装飾が施された広間には、その場に不釣り合いな格好のならず者達が大勢立っていた。
「今回の裏クエスト参加報酬の受け渡しっつうことでわざわざ"カゴ"に呼び出されたと思ったら、パーティーでも始まんのか?」
ヤコブの声を聞きつけて、2人の男が歩み寄ってきた。
1人は、海岸部で大規模な縄張りを持つ『スピーネ』のタランチュラ。
もう1人は帝国の暗黒街を牛耳る『ラビンス』のダラス。
3人が距離を詰めると、ひときわ周囲の目を引く。
タランチュラが肩をすくめる。
「俺も呼ばれた」
ダラスが鼻を鳴らす。
「俺もだ」
三人の視線が交錯する。空気が張り詰めた。
ヤコブが皮肉げに笑みを浮かべた。
「ビーチパラダイスは楽しいか?」
タランチュラは腕を広げ、得意げに応じる。
「街が発展して便利なもんだぜ。田舎と違ってな」
ヤコブの目が細まる。
「はっ。内陸の環境を田舎と抜かすかよ」
ダラスが鼻で笑った。
「街が便利?オメェ帝国軍に顔バレしてんだから、ロクに公共サービス受けれねぇだろ」
タランチュラの表情が強張る。一歩前に踏み出し、ダラスを睨みつけた。
「マフィア『ラビンス』のダラス。テメェらはいつだって領主様の顔色を窺いながら、セコセコみみっちい商売してんじゃねえか。こっちは楽だぜ? 暴力、殺し、なんでもアリ。自由だ」
ダラスの口元が歪む。冷たい笑みだ。
「フッフッフ。短絡的なテメェらと違って、俺等は実力を行使する必要もねえんだよ。頭の回転が違うのさ」
ヤコブが指を突きつける。
その先にあるのは、ダラスの応急処置済みの骨折した鼻。
「よほど前線で命張るのが恐ろしいと見える。今回の裏クエストで文字通り鼻っ面折られたか」
ダラスは顔が紅潮すると、目の前のテーブルを蹴り上げた。
ざわめきが広がり、人々は怯えたように後ずさる。
ダラスが一歩踏み出し、拳を握りしめた。
「この場でハッキリさせてやろうか!?」
その瞬間、入口の扉が開いた。
小柄な男が、満足げに腹をさすりながら入ってくる。
「あー、食った食った。あの変な空間でほとんど何も食ってなかったからな」
男は上機嫌に歩きながら、くつくつと笑う。
「しょぼくれたレストランで1週間分のメシ食いまくって、金払わずに逃げた時のアホなジジイ店主の顔と言ったら笑えるぜ! 次こそは、このソノビチ様が閻魔のやつをブチ殺して──って、なんだコレ!」
ソノビチの足が止まる。目を見開き、口を半開きにしたまま硬直した。
入口に立ちはだかるヤコブ。
向かい合うダラスとタランチュラ。
裏社会の巨頭が睨み合う異様な光景。
そして会場を埋め尽くすならず者達。
ソノビチの体が小刻みに震え始める。
「あの女!この俺を踏みつけにしやがった!殺すだけじゃ飽き足らねぇ!モツ売った後は薬漬けの人体模型にしてやる!」
ダラスはテーブルの上の灰皿を掴むと、ヤコブに向けて投げつけた。
灰皿が空気を切り裂いて飛ぶも、ヤコブは首を傾けて軽々と躱した。
しかし、その後ろに立っていたソノビチには反応する暇もなかった。
「えっ?何?グフッ!?オゲエエエエ!」
凄まじいパワーで腹に直撃した灰皿によりソノビチの体が折れ曲がり、口から勢いよく吐瀉物を噴き出す。
「うわぁ!?なんだテメェは!?汚ぇなこの野郎!」
ダラスが腹を抱えて大笑いする。
「ハハハハハ!ザマァねえな!」
「テメェもゲロかぶっとけ!」
ヤコブはソノビチの首根っこを鷲掴みにすると、ダラスに向けてフルパワーで投げつけた。
ダラスは笑っていたことで反応が遅れ、飛んでくるソノビチの顔を躱せなかった。
「やりやがったな!?」
ダラスはソノビチを床に叩きつけると、容赦なく踏み潰した。
「グエエエ!なんでこんなことに・・・・・・」
ソノビチの悲鳴が会場に響く。
吐瀉物を被って立ち尽くす二人。
ヤコブとダラスの視線が、殺気を孕んで交錯した。




