47.内陸へ
「どうかした?」
反対側で、クルトさんがラティーナさんの様子に気づいた。
彼女は何かを思い出すように、指を顎に当てていた。
「実は、過去に閻魔と接触した事のある冒険者と話したことがあるんだけれど」
ラティーナさんが言葉を選びながら語り始める。
「閻魔の纏う魔素は異質で、内陸最奥の特異点で観測できるものと波長が似ていたらしいわ」
「最奥っていうと、魔大陸の・・・・・・」
クルトさんが驚いたように目を見開いた。
「確かにあの辺の開拓には世界的な需要があるから、閻魔を捕まえて自然現象の解明に利用しようとしている可能性はありそうだ」
その言葉を聞いて、俺の中で何かが繋がった。
俺がその魔大陸とやらの開拓の鍵を握っているということか?
だから狙われている?頭の中で点と点が線で結ばれていく。
「その冒険者って誰だ!?」
突然、アリシアさんが勢いよく上体を起こした。
アリシアさんは痛みに顔を歪めながらも、ラティーナさんから情報を引き出そうとする。
「内陸部ギルド所属の第2パーティー、『バルムンク』」
ラティーナさんが真剣な表情で答えた。炎の光が彼女の横顔を照らす。
「彼らなら、閻魔について何か知っているかもしれない」
「ちょっと、まだ安静だって」
エリザベスさんが慌ててアリシアさんの肩を押さえ、寝かせようとする。
だがアリシアさんは、その手を振り払うように身を起こしたまま、フランクさんを見据えた。
「フランク!私は、内陸に行きたい!」
その声には、強い決意が込められていた。
アリシアさんが今まで再三主張してきた願いだ。
これまでフランクさんは、その度に首を横に振り、取り合ってくれなかった。
しかし今、アリシアさんの声は今までよりもはっきりと、揺るぎないものになっていた。
フランクさんが腕を組み、低い声で答える。
「俺は、お前がスズランを抜けて地元に戻るように言ったはずだがな」
その言葉にも、アリシアさんは怯まない。
「私はヒイラギを連れてバルムンクに会いに行く!閻魔に関する情報を少しでも手に入れるんだ!ヒイラギと一緒なら、きっと父さんが到達できなかった魔大陸の謎だって・・・・・・!」
その目には、諦めない光が宿っている。
俺は一緒に行くとは一言も言ってないのに、連れて行く気なんだ。
俺の側にいるのがどれほど危険か、今回の件でよくわかっただろうに。
「どうして、そこまで・・・・・・」
俺が思わず声を漏らすと、アリシアさんは俺の方へ顔を向けた。
「私がそうしたいからだ!」
まっすぐな瞳で、アリシアさんは言い切った。
フランクさんが深いため息を吐いた。
その肩が、諦めたように落ちる。
「こうなったらテコでも動かないな」
彼は焚き火の薪を足で調整しながら、重々しく口を開いた。
「だが、わかっているのか?内陸へ渡る事がどれほど危険なのか。厳しい自然環境に凶悪な魔物。さっきのボルゲノンだって、あそこじゃ有象無象の一匹に過ぎないんだぞ」
それだけじゃない。
ならず者達が俺を狙ってきたら、周りにいる人間は巻き添えを食うかもしれない。
自分達だけでなく、関係のない家族や友人も。
「・・・・・・そうだな。みんなを無理に巻き込むことはできない」
アリシアさんは立ち上がると、周囲を見回した。
皆の視線も、彼女に集まっている。
「私達スズランの活動はここで分岐点を迎えたんだ。抜けたい奴は、今からでもギルド監査委員に駆け込めばいい」
一呼吸おいて、アリシアさんは続けた。
「でも、ヒイラギは逃げられない」
その視線が、再び俺に向けられる。
「私は、君を一人にしたくはない」
静寂が辺りを包んだ。焚き火の炎だけが、ゆらゆらと揺れ続けている。
フランクさんは腕を組んだまま、しばらく黙り込んでいた。
そして少し迷った挙句、小さく、呟くように言った。
「内陸ギルドで危険区域開拓資格を提示して必要な装備を支給してもらえれば、少なくとも活動中の魔素中毒は避けられるはずだ。行き方は、俺が教えよう」
フランクさんが顔を上げる。その表情には、心配と諦めが入り混じっていた。
「本当か!?」
アリシアさんの顔が、一気に輝いた。痛みも忘れたように、身を乗り出す。
そういえばアリシアさん、俺を閻魔と思い込んでいた時も、必死で情報を引き出そうとしてきていたな。
「若いっていいわね〜。仲間のために命賭けたり、やりたいことに一生懸命になれたり。早く若返りの魔法できないかしら」
俺達のやり取りを静観していたラティーナさんが顔を和ませた。
「知り合いに訳アリの怪我人も受け入れ可能な医者がいる。紹介するからそこで治療を受けるといい」
アルフレッドさんが手を貸すことを進言すると、フランクさんは礼を口にする。
「世話かけるな」
「気にするな。俺達がそっちの立場なら、猫の手も借りたいさ」
「出発は明日だ。今日はゆっくり休め」
フランクさんは俺達に言い残して眠りについた。




