44.ボルゲノンの脅威
ただでさえ頭数が足りていないのだ。
動けるなら戦うしかないだろう。
「よし。ならば行くぞ」
アルフレッドさんが頷く。
俺達はボルゲノンと対峙し睨み合った。
ラティーナさんとアリシアさんは、後方支援に回った。
「たまには頼りになるとこ見せてくれよ、お二人さん」
俺達の背中に、アリシアさんが軽口を叩く。
「死んでも言い訳はナシだぞ!」
アルフレッドさんの突進を皮切りに、再び戦いが始まった。
灰色の巨体が咆哮を上げる。
振り下ろした斬撃が止められると、アルフレッドさんは顔をしかめた。
「チッ、やはり硬いな!」
「オラァ!」
ヤリスさんもボルゲノンの側面から剣先で突きを放ったが、硬い鱗に弾かれてしまう。
俺も魔法を放つ。
怖いので安全圏から使い魔を突撃させたいところだが、それができるだけの魔力は残っていない。
出したのは小さな火球。威力は低いが、注意を引くには十分だ。
ボルゲノンの視線が俺に向く。
「ひっ!」
赤い目に睨まれ、俺は思わず恐怖で固まってしまった。
後方から、ラティーナさんが紫色の魔力弾を撃った。
狙いは正確に関節の隙間と目。
致命傷には程遠いものの、一定のダメージはあるようだ。
「くっ!魔力が足りない!」
普段なら、もっと強力な魔法を放てるはずだが、彼女も異空間での戦いで魔力を使い果たしている。
その時、ボルゲノンの口が、光った。
何かが渦巻いて魔力が収束している。
予兆を感じ取ったアルフレッドさんが血相を変えて叫んだ。
「伏せろ!」
全員が地面に身を投げると、ボルゲノンの口から太い光線が放たれた。
吐かれた熱線が背後の木々を通過するように焼き尽くす。
ヤリスさんが地面から顔を上げた。
「今の直撃したら、跡形もなかったぞ・・・・・・!」
俺も身体を起こす。心臓が激しく鳴っている。
もし避けるのが一瞬でも遅れていたら。
その時、俺は背すじが凍った。
ボルゲノンの姿が、視界からいなくなっていたのだ。
「え・・・・・・?」
「ヒイラギ、後ろだ!」
アリシアさんの叫びで振り返ると、そこにはボルゲノンがいた。
灰色の巨体がすぐ背後に迫り、太い腕をこちらに向かって伸ばしていた。
捕まる。
そう思った瞬間、俺の体は強く引っ張られてボルゲノンの腕を躱した。
引っ張ったのはラティーナさんだ。
魔力を紐状に成形して俺の腰に巻き付けていたようだ。
ボルゲノンが、俺達前衛を抜けて、後方へと突進した。
「しまった!」
アルフレッドさんが叫ぶ。
標的はアリシアさん。
ボルゲノンの爪がアリシアさんの胴体を切断しようと振るわれる。
「アリシア!」
だが彼女は集中力を極限まで高め、前に出た。
腕の付け根を踏みつけると、ボルゲノンの腕力を利用して吹き飛ぶ。
距離を開けたところでライフルの引き金を引いた。
狙いは、脇腹の鱗に予めあったヒビだ。
鉛弾が食らいつくと亀裂が広がる。
「アルフレッドさんとやら!狙いはついたようだな!」
冷や汗が流れ落ちる頬を釣り上げ、笑みを浮かべるアリシアさん。
アルフレッドさんは即座に反応し、剣を構えて突進する。
「バーストスピア!」
そう叫ぶと、閃光のような突きをヒビ割れた脇腹の傷口に放った。
刃が燃えるように赤く染まり、切っ先が深々と食い込む。
明らかな深手に、ボルゲノンが苦痛の咆哮を上げた。
瞬時に腕が振り抜かれるが、アルフレッドさんは既に後退していた。
アリシアさんは華麗に着地したが、右足を少し引きずっているのが見えた。
「パワーが尋常じゃない!何度もできる芸当じゃない・・・な・・・・・・」
アリシアさんは力が抜けたように、地面に崩れ落ちた。
「ちょっと!大丈夫!?」
エリザベスさんが手当のため、アリシアさんの元に這い寄る。
足だけじゃない。
ヤコブの奇襲による出血が止まらず、アリシアさんはとっくに限界を迎えていた。




