43.ボルゲノン再戦
戦うしかない。
俺達は武器を握る手に力を込める。
ボルゲノンは咆哮すると、瞳孔が細くなった。
「来るぞ!」
クルトさんの叫びと共に、俺達は四方に飛び退く。
次の瞬間、俺達のいた場所を鋭い爪が薙ぎ払った。
そこそこの距離があったというのに、一瞬で潰してくるほどの俊敏性。
俺の背中を冷たい汗が流れた。
エリザベスさんが光の槍を放つ。黄色の光がボルゲノンの胴体に命中するも、ダメージは浅い。
灰色の皮膚に僅かな焦げ跡を残しただけだ。
「落ち着け!闇雲に撃っても魔力を浪費するだけだ!」
「わかってるわよ!」
歴戦の猛者が何人も集っているものの、厳しい戦いになると思ったその時だった。
空が、突如として橙色に染まった。
「何・・・・・・!?」
何事かと思って見上げると、無数の橙色の光線が降り注いできたことに気づく。
その圧倒的な数と密度に、俺は思わず息を呑んだ。逃げ場がない。
ラティーナさんが即座に反応し、魔力を込めた障壁を展開する。
半球状の障壁が形成され、降り注ぐ光線を受け止める。
「くっ・・・・・・!」
ラティーナさんが歯を食いしばり魔力を注ぎ込むも、耐えられなかった。
鋭い音と共に魔法障壁が砕け散ると、防御を失った俺達に橙色の光線が容赦なく降り注いだ。
「きゃああああ!」
「ぐああああ!」
地面を激しく打ち付ける轟音。閃光。爆発。そして、舞い上がる膨大な土煙。
肩、脇腹、足。身体中のあちこちが、焼けるように熱い。
「う・・・・・・ぐ・・・・・・」
土煙が徐々に晴れていくと、目に飛び込んできたのは無残な光景だった。
全員地面に倒れ、あちこちから呻き声が漏れる。
特にミアさんとクルトさんの状態が酷かった。
クルトさんは剣を杖代わりにして立ち上がろうとしているが、右足が不自然な角度に曲がっている。
ミアさんは呼びかけても返事がない。
深い裂傷がいくつも走り、服が真っ赤に染まっている。
「ミア!ミア!クソッ!エリザベス!回復魔法を!」
「無理・・・・・・魔力が・・・・・・」
エリザベスさんが力なく首を振る。
彼女自身も重傷を負い、回復魔法を使う余力など残っていない。
「へっへっへ。漁夫の利だぜ」
突如、聞き慣れない声が響いた。
土煙が風に流され、その姿が露わになる。
「アンデッドのクソ野郎の魔法をパクってみたらよぉ。思ったより上手くいったじゃねえか」
男は、満足げに杖を眺めると、惜しげもなく地面に投げ捨てた。
特殊加工が施されたであろうその杖は、鈍い音を立てて転がった。
おそらく一度きりの使い捨て。
それほどまでに強力な魔法を封じ込めていたのだろう。
「誰だお前は!?」
アリシアさんが鋭く問いかけた。
「・・・・・・思い出した!こいつ!」
ヤリスさんが突然叫んだ。
「アンデッドに狙われてた時に俺達を殺しに来た山賊だ!」
その言葉で、俺の記憶も蘇った。
確かヤコブと名乗っていたか。
あの時はアンデッドのインパクトが強すぎて、この男の存在は脇に追いやられていた。
だが、この男も裏社会では名を知られた存在なのだ。
ヤコブがニヤリと笑い、腰の剣を抜き放った。
次の瞬間、ヤコブは目にも止まらぬ速さで飛び出した。
その刃が、血まみれで動きの鈍いアリシアさんの首筋に迫る。
だが、直後鳴ったのは金属がぶつかり合う高い音だった。
ヤコブの剣が、寸前のところで止められていたのだ。
「フランクさん!」
間に割り込んできたのはフランクさんだった。
剣と盾が摩擦で火花を散らす。
「この前はアンデッドの情報ありがとうな。そのよしみで、見逃してくれねえかな」
「フランク!テメェ!」
「こいつは俺に任せろ!」
フランクさんが俺達に向かって叫んだ。
「すまない遅れた!」
同時に別の声が聞こえてくると、林からもう一人の人影が現れた。
重厚な鎧に、腰に下げられた立派な剣。
その佇まいだけで、只者ではないことが分かる。
「アルフレッド!無事だったのね!」
ラティーナさんが驚きの声を上げた。
確か、帝国最強パーティーのリーダーだ。
心強い。これほど頼もしい援軍はない。
アルフレッドさんは素早く戦況を把握すると、ボルゲノンと向かい合って剣を抜いた。
「状況は理解した。エリザベス。重症者2人の手当を。奴は俺が相手する。ここまで何も出来なかった分、貢献させてくれ!」
「仕方ないわよ、あんな訳のわからない村で閉じ込められてたんだから」
俺とヤリスさんはアルフレッドさんに肩を並べた。
「ヒイラギ、お前も戦えるか?」
ヤリスさんは緊張した顔で俺に尋ねてきた。
身体は満身創痍だ。魔力もほとんど残っていない。
「こんなのかすり傷です!」




