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42.脱出

生々しい感情が、憎しみが、俺の頭に直接流れ込んでくる。

痛い。頭が割れそうだ。他人の感情が、俺の意識を侵食しようとしている。

だが、一方で俺の中で湧き上がる感情があった。

燃え上がるような怒り。

あの2人の帝国軍人にも、この悲劇を助けてくれなかった世界にも、そして俺達を巻き込もうとするこの村の怪異達にも。

この少女は、俺に精神干渉してきた。

俺と魔素を通じて心を繋げてきた。

だったら、俺からも干渉できる。

俺は魔力を集中させた。自分の意志を、感情を、魔素に乗せて少女へと送り込む。


「なんだ!?地面が揺れてる!?」

「攻撃が通ってる!それに怪異の動きも・・・・・・!」


皆は動揺しつつも、プロセフヒの破壊活動を続けた。

魔法が次々と叩き込まれる。爆発音が響き、光が飛び交う。

動揺の色は、少女の顔にも現れていた。


「許せませんよね。何の罪もない自分達の村を襲ってきて、人体実験に使われるなんて。」


復讐心は、痛いほどわかる。

俺だって、理不尽な目に遭えば怒る。

大切なものを奪われれば憎む。それは人間として当然の感情だ。

それでも、俺達はこんなところで死ぬわけにはいかない。

こいつに俺達の冒険を止める権利なんかない。


「そいつらは、俺達が必ず討ち取る。どこにいたって俺達が見つけ出して、必ず落とし前は取る。だから──」


俺は、彼女の目を真っ直ぐ見据えて言った。


「邪魔をするな」

「これで!ラストォォォ!」


同時に、エリザベスさんの叫びが響き渡った。

彼女の放った光の槍が、プロセフヒの中核を破壊した。

叫びのような不協和音と共に、崩れ落ちるプロセフヒ。

肉の塊が地面に落ち、神経組織が千切れ、体液が飛び散る。

集合体を形成していた人体が、一つ一つバラバラになっていく。

その瞬間、少女との繋がりが途絶えた。

異空間に巨大な亀裂が入ると、そこから眩い光が差し込んでくる。


「うわっ!?」


次の瞬間、俺達は放り出されるように地面に尻餅をついた。

見上げて視界に入った空は、それまでの淀んだものとは違う、見慣れた色をしていた。

それが示す事実は、ただ1つ。


「やった!やっと外に出られたぞ!」


ヤリスさんが両手を上げて叫んだ。

俺達は久しぶりの空気を吸うことができた。

あの異空間の重苦しく、淀んだ空気とは全く違う。

生きている世界の、命に満ちた空気だ。

閉じ込められてから、どれほどの時間が経ったのだろうか。

外は、日が傾きかけていた。


「痛ったぁ・・・・・・」


エリザベスさんが腰に手を当てて呻いている。尻餅をついた衝撃が、まだ残っているらしい。


「大丈夫か?」


ヤリスさんがため息を付きながら手を伸ばしてきた。


「自分で立てるから!」

「おーい!」


遠くから声が近づいてくる。

視線を向けると、手を振りながら駆け寄ってきたのはアリシアさんとクルトさんだった。


「ヒイラギ!ヤリス!ミア!会いたかったぞ!」


アリシアさんは走ってくると、俺達目掛けて飛びついてきた。


「うわぁ!危ねえだろうがお前!」


ラティーナさんが立ち上がり、周囲を見回す。


「全員無事みたいね。よかった」


慣れない戦いを経てようやく見えた外の光に、俺達は緊張の糸が切れていた。

だが、その安堵は、すぐに打ち砕かれた。


「あの・・・・・・!」


俺が声を掛けたところで、皆も気づいた。

重い足音が近づいてくる。

木々を押し倒しながら、大地を揺るがしながら、それは現れた。

巨大な影が、俺達の前に飛び出してきた。

体高5メートルはあろうかという、巨大な二足歩行の魔物。

全身が灰色の硬質な皮膚に覆われ、その目は殺意に満ちた光を放っている。


「ボルゲノン!」


クルトさんが叫んだ。

その名を聞いた瞬間、全員の表情が凍りついた。

ヤリスさんの声が震えている。


「クソッタレが!まだいたのかよ!」

「まだって・・・君たちが連れてきたの?」


冷や汗をかきながらクルトさんが尋ねる。

そうだ。こいつは、異空間に飲み込まれる前まで、俺達を追いかけてきていた魔物だ。

あれから数日、まさかずっとこの場所で俺達が出てくるのを待っていたというのか?


「君のことが好きでたまらないんじゃないか?ヒイラギ、日向みたいな匂いするし」


アリシアさんがニヤニヤしながら俺に視線を向けてくる。


「うぇえ・・・・・・?」


そんなふざけたことを言っている場合じゃない。

ボルゲノンは唸りながら前傾姿勢を取っており、今にも襲いかかってきそうだ。

その威圧的な姿は、疲弊しきった俺達にとって悪夢以外の何物でもなかった。

異空間での戦闘で、魔力はほぼ使い果たしている。体力も限界に近い。装備も損傷している。何より、精神的な疲労が大きい。


「このタイミングで、ねぇ・・・・・・」


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