41.共鳴
建物が崩壊すると、"それ"が顕になった。
瓦礫の中から、生き物のようにうねりながら何かが這い出してくる。
皆が周囲の怪異を蹴散らしながら俺の近くに集まってくると、誰もが目を見開いて絶句した。
「なんだ、これ・・・・・・!?」
グロテスク。
その言葉以外では表現できない、おぞましい光景。
顔を削ぎ落とされ、身体を繋げられた・・・・・・正確には神経を繋がれた、人間の集合体。
腕が胴体に、足が頭部に、内臓が外に晒された状態で他の身体と癒着している。
そして、それらを赤黒い神経組織のような何かが蜘蛛の巣のように繋いでいる。
全体が一つの巨大な生命体のように脈動し、うねり、呼吸している。
俺は幻の中で、その光景を既に見ていた。
そしてその正体にも、察しがついていた。
それでも、実際に目の当たりにすると、思わず顔が歪む。
ラティーナさんが唇を噛み締めて、杖を向ける。
「みんな!あれを破壊するわ!」
素性はわからずとも、何をすべきかは誰もがわかっていた。
ミアさん、エリザベスさん、ラティーナさんが一斉に魔法を叩き込んだ。
だが、どの攻撃も本体には届かない。
「効いてない・・・・・・!?」
緑、黄色、紫の光の弾は障壁に阻まれ、肉塊をなかなか破壊できない。
「ちっ、俺も──」
ヤリスさんが前に出ようとした瞬間、エリザベスさんが彼の腕を掴んだ。
「あなた、体調不良なんでしょう!?引っ込んでなさいよ!」
「お前こそ神聖系統なんだから攻撃は不向きだろ!」
二人がまた口論を始めようとしたその時、俺の頭に激痛が走った。
「ぐっ・・・・・・!」
耳鳴りが響き渡ると、目の前にはあの少女が立っていた。
白いワンピースに、長い黒髪。
そして虚ろな瞳でこちらを見つめている。
俺は息を整え、彼女と目を合わせた。
「俺に幻を見せていたのは、あなただったんですね」
少女は表情を変えない。ただ、ゆっくりと口を開いた。
その声は、複数の声が重なり合ったような、不思議な響きを持っていた。
──この村に来た人間は、みんな魔素を通じて私の精神干渉を受ける──
彼女の声が、直接脳内に響く。
──空間全体に私の魔素が充満しているから。呼吸するだけで、皮膚に触れるだけで、あなた達の精神に私の意識が入り込む。でも、あなたほど強く共鳴する人は初めて──
俺だけが、あんなにはっきりとした幻覚を見ていた。
他のメンバーは漠然とした違和感や不快感を覚える程度だったのに、俺はまるで当事者のように、少女の過去を体験していた。
「これをやったのは、あの帝国軍の男二人ですよね」
俺の問いに、少女の表情が歪んだ。
純粋な、濁りのない憎しみの色だった。
─彼らは、突然やってきた。私達の村を魔法開発の実験台にして、皆を"繋げて"しまった─
「繋げた・・・・・・」
──一人一人の持つ感情や思考を1つに混ぜれば、人知を超えた魔術回路を生み出す可能性がある。『複数の人間の精神を強制的に接続し、その集合意識を魔術回路として利用する。個々の魔力は微弱でも、数十人分を統合すれば、単一の魔法使いでは到底実現できない規模の魔法が可能になる。』奴らは、そう言っていた──
「・・・・・・」
彼女の声が、複数の声に分裂していく。
まるで、何十人もの人間が同時に話しているかのように。
──奴らは私達をこう呼んだ。神に届く祈りの手。『プロセフヒ』。あの日から、私達に人としての機能はない。ただ私達の一部である誰かの感じた負の感情を私達の中で無限に増幅して、苦しみながら魔術回路を練り続けるだけの器官。私達は、奴らを絶対許さない──
少女の背後に、黒い魔力が渦巻き始める。
──私の目的は、強力な魔術回路を作ること。あの二人を狩れるほど、強い魔法を。そのためには、もっと多くの人間が必要──
視線を向けると、プロセフヒと呼ばれた人間の集合体の中には、俺達に危害を加えて怪異に捕まったならず者達の姿もあった。
あいつらも顔を削ぎ落とされ、神経を繋がれて、あの忌まわしい集合体の一部にされたのか。
この空間に迷い込んだ人間は、怪異に捕まった後、プロセフヒの一部にされる。
「あなた達が酷いことされたってのはわかりました。でもだからって・・・・・・自分達が同じことをしてどうするんですか!?」
─そんなの知らない。どれだけ苦しくても、世界は誰も私達を助けに来てくれなかったくせに─
少女との共鳴が強くなる。




