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仁義なき異世界転生 ~勇者マサヨシの任侠伝~  作者: 風来坊 章
第三章 代理戦争
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第59話 対策会議

 魔王軍総司令本部の構築が、着々と進み設備も整いだしたある日の夜。

 妖艶な女悪魔マーラーが、基地を訪れる。


 黒のベールで顔を覆い、インドの民族衣装にも似た黒の衣服を見に纏う、青い肌をした魔王ルシファーの秘書長にして、特殊精鋭部隊の不死隊の所有者。


 彼女が訪れた理由は、勇者対策会議に出席するためである。

 出席者は魔王軍総司令官アスモデウス。

 参謀本部長代行、アレクシア大将。


 そして水晶による通信のみだが、ルシファー親衛団長にして治安部門総監、大悪魔ベリアルも水晶玉で会談に参加する予定であった。


「アスモデウス元帥閣下、お元気そうですね?」


 マーラーがニコリと微笑みかけると、アスモデウスは、軽く会釈を交わす。


 元気なものか、貴様のせいで本国にも帰れず、単身でこんな文明レベルの低い世界に送り込まれ、あんな残虐勇者と相対する事になったのだと、アスモデウスは内心激しく憤る。


 一方アレクシアは、魔王軍最高幹部達を、注意深く観察する。


 彼女は、勇者マサヨシの業の影響で転生した、かつて日本最大の極道組織にして、歴代最強の極道とも言われた極悪組7代目、滝沢泰の転生体である。


 彼女が見立てた、このアスモデウス。

 愛するマサヨシに私情で付きまとう、指揮官失格のポンコツで、噂によると、マサヨシの左小指を奪ったのは彼女と聞いて、いつか殺してやろうとアレクシアは内心思っている。


 そして、悪魔マーラー。

 愛するマサヨシに、暗殺指令を出した張本人。

 アスモデウスと同様、いつか殺してやろうと内心思っているが、この悪魔は底が知れない。


 表情は微笑みで覆われており、ある意味ではポーカーフェイスといえ、内面を伺うのは難しく、この会談で最も警戒するのはこの女だと、アレクシアは思った。


 そして、水晶玉の音声だけで参加する、魔王軍最強戦力と呼ばれるベリアルについて、アレクシアは会った事はないので、今日の会談で、取り入る隙があるか、利用価値があるかを探る予定にしていた。


 会議の予定時間を一時間も過ぎた時、アスモデウスが口を開く。


「ベリアルめは、いつも通りどこぞをぶらついて、遊びまわってるか、寝ているかと思われるので、会議を先に始めたいと思う」


「ええ、宜しくお願いします元帥閣下」

「かしこまりました」


 呆れ顔で会議の開催を、アスモデウスが告げると、微笑んだままマーラーは同意して、アレクシアも頭を下げて対策会議がスタートした。


 アレクシアはベリアルの事を、馬鹿か規格外の大物であると感じ、おそらく、こうした特別待遇が許されるような、強大な悪魔なのだろうと推測した。


「僭越ながら、本会議で司会進行を担当させていただく、参謀本部大将アレクシアと申します。それでは元帥閣下、現在の魔王軍の現状についてお願いします」


 アレクシアはアスモデウスに現状説明を求めて、マーラーもお願いしますと頭を下げる。


 アスモデウスはこの二人について、はっきり言って苦手を通り越し、まだベリアルの相手をしている方がマシであると思った。


 特にこのアレクシアという人間の女は、部下でありながら、自分を凌ぐ異例のスピード出世をした、悪魔を凌ぐ頭脳を持っているため、やりづらくてしょうがない。

 

「オホン、では現状を説明する。勇者は精霊領域を支配下に置き、非常に厄介な存在になりつつある。また、閻魔大王の親類と思われる、女神ヤミーと、伝説の魔獣の存在も確認され、これも大魔王クラスの力を持つ厄介な相手。だが、現在の総司令本部の建設の進捗状況は、概ね良好で部隊編成も整いつつあり、勇者については停戦協定を破棄した関係で、ちょうど人類への総攻撃は3ヶ月後と言ったところである」


 アスモデウスは、マサヨシに罵倒された事がショックで、つい停戦協定破棄を言い出してしまい、自分のモノにしてやろうと思うアスモデウスにとって、全面戦争になったら、マサヨシを殺めてしまう可能性が極めて高く、少し後悔していた。


「それでは、私見を述べさせていただきますが、現在魔王軍、特に獣騎軍の軍規違反者が多数出ており、早期の綱紀粛正が必要かと」


 早速、痛いところをアレクシアが突いてきて、苦虫を噛み潰す顔をアスモデウスが見せる。


 軍規違反者は、軍法会議にかける手間を考えると、そんな暇はないし、第一数が多すぎるとアスモデウスは思い、ならばこの参謀本部の生意気な部下に、責任を押し付けようと思った。


「くっ、了解した。参謀本部大将、私には軍務等があるので、妖魔部参謀本部のそちらに任せたいがよろしいか?」


 やれるものならやってみろ、考えても恥ずかしくなるが、我が獣騎軍の敵前逃亡の軍規違反者は多数おり、軍法に隅々まで精通してなければ、とてもこなせる仕事量じゃないと、アスモデウスは思う。


 どうせ、お前のような人間には難しかろうと、アスモデウスは考えて、アレクシアに一任する。


「かしこまりました。それでは、マーラー様。ご意見があればどうぞ」


ーーうそ? 本気で言ってるのか?


 アスモデウスは、驚愕する。


 サラッと流したが、この人間の大将は一体何なのだと、アスモデウスはアレクシアを見やったが、サタン王国随一の頭脳を持つ、あのベルゼバブ首相の肝いりで、参謀本部の大将になっただけはあり、只者ではないとアスモデウスは思った。


「そうですわね。勇者については私の千里眼で見ると、まだ十分な力がないように思われます。よって、サタン王国のため、早急な殺害が必要であると主張いたします」


 アスモデウスとアレクシアは、この悪魔、非常に厄介であると、お互いの思惑が一致する。


 この二人の共通目標は、いかにしてあの勇者を自分のモノにするかであって、殺害などまったく考えてもいないからだ。


「それでは、アスモデウス閣下。マーラー様の意見について、何かございましたらどうぞ」


 この女、私にあの極悪勇者を庇わせるために、わざと話をふったなとアスモデウスは感じて、自身の持論を述べる。


「それでは、意見を述べさせていただくが、これは我らがルシファー陛下の、勅命によるものであるのかどうか、マーラー殿に確認したい」


 なかなか良いところをついてきた、馬鹿ではないなこのポンコツはと、アレクシアは思った。


「そうですね。確かにルシファー陛下のご確認はとっておりませんが、魔界の諸王達も、勇者と閻魔大王の存在は、非常に危惧していると聞いております。よってこれは、陛下やサタン王国のみならず、魔界の危機であると、認識を持った方がよろしいのではないかと」


 やはり、他国の魔王の存在を匂わせてきたと、アスモデウスは思いながら、マーラーを見やる。


 彼女は元々サタン王国出身の悪魔ではなく、出所が明かでないまま、ルシファーの側近である、秘書長についた悪魔。


 やはり、この悪魔は他国もしくは、複数の魔界国家がサタン王国に送り込んだ、凄腕の間者か、または実力者であると、アスモデウスは推測した。


「かしこまりました。それでは司会進行役でもあり、参謀本部の私から発言させていただきますが、マーラー様は、我々サタン王国の秘書長であらせられますので、ルシファー陛下の意向に従うのが筋、かと思われますがいかがでしょう?」


 アレクシアが意見すると、アスモデウスもサタン王国に属するならば、アレクシアの意見は最もであるとうなずき、マーラーを見やる。


 アレクシアは、マサヨシの声を初めて聞いた時から、心が躍るような愛情を、感じずにはいられなかった。


 そして初めて彼に出会った時、その想いが確信へと変わり、王宮での一戦を経て、前世の記憶が少しずつ蘇る。


 マサヨシが言った、滝沢泰、ヤスというヤクザは、アレクシアにとって、愛するマサヨシを前世で命を奪った許しがたい存在で、もはや他人にも等しい。


 だが前世の記憶のマサヨシは、常に自分を気にかけてヤスと呼び、優しい笑みを浮かべる男で、この男のためなら、なんでも欲しい物を与えてやろう、この男に見合った地位を与えようと、前世の自分は色々と努力をしていたようだ。


 今の私と変わらないなと、アレクシアは前世の自分に、ここだけは共感を覚える。


 そして老齢を迎えた前世のマサヨシを、海に葬った際、滝沢泰というヤクザの、強烈な悲しみと後悔の念を思い出した。


 絶対に彼は誰にも渡さない。

 自分は彼を愛し、結ばれる為だけにこの世に生まれてきたのだと、アレクシアは考える。


 そのためには手段を選ばないと。


 一方、アスモデウスはなぜこの女が、そこまで勇者にこだわるのか理由がわからなかったが、初めて身分を明かし、マサヨシの処遇についての、取引を持ちかけてきた時から、この女はマサヨシを本気で愛しているのだと感じた。


 上司の私を差し置いてと、アスモデウスに嫉妬の火が灯る。


 そして自分を凌ぐ頭脳を持つ、厄介な部下を持ったと、この人間の娘にある種の危機感を覚えたが、目的が一致するのであれば、ここは上司として賛同してやる事にする。


「それは確かに、その通りです。それでは、私は急ぎルシファー様へ許可を得るといたしましょうか」


 マーラーが二人に回答した時、魔法の水晶から着信が入る。


「ごめん、ごめん。ちょっと寝坊しちゃって今起きたのだ。ベリアルもルシファー様からの命令で、親衛団連れて近いうちそっちに向かうので、それまで頑張ってほしいのだ! じゃ!」


 童女のような声がした後、一方的に通信が切れ、アスモデウスは特大なため息を吐く。


「ベリアルの馬鹿から通信が入ったようだが、こちらの世界に来るようだ。それでは、各部門の長が全員揃った段階で、日を改めて会議を開く。よろしいか?」


「異議なし」


 アスモデウスは会議の終了を宣言し、マーラーは勇者暗殺の許可を取るため、転移の門を魔力で生み出し、サタン王国へ帰還の途につく。


「元帥閣下、私も王国での公務と、軍規違反者の粛清がありますので、それではごきげんよう」


 アレクシアは優雅なおじぎを、アスモデウスにした後、風魔法で空を飛び、デヴレヴィ・アリイエ王国へと帰還の途につく。


 一人残されたアスモデウスは、勇者の小指を胸のポケットから取り出すと、口に咥えてしゃぶり出し、思考を巡らせる。


 あの知能が高く危険極まりない極悪勇者は、おそらく共和国でろくでもないことを考え、我らが魔王軍に不利益な事をしでかす可能性は高い。


 やはり自分が、あの勇者の動向を観察し、対策を打たねばなるまいと決意する。


 神や部下の人間の王女には、絶対にあの男は渡さない。

 自分の部下にして生涯を自室で過ごさせ、あの極悪な男を私の言う事しか聞けぬようにしてやる。


 などと思案している所に、アレクシアは音もなく舞い戻り、勇者の指を咥える自身の上司の悪魔の姿をジッと見る。


「何を、なさっているのですか? 元帥閣下?」


 アスモデウスはアレクシアの声にビクッとして、声がした方向に振り向いた。


 アスモデウスは、自分が勇者の指をしゃぶる姿を部下に見られてしまい、恥ずかしさのあまり、顔面が紅潮して、すぐに勇者の指を胸ポケットにしまう。


 一方、アレクシアは笑みを浮かべていたが、マサヨシの小指を、自身の欲望のままに弄ぶ上司の悪魔を見て、心が凍てつくような殺意を覚えるが、一切顔に出さないようにする。


 そして、指とはいえマサヨシを独占する、この悪魔への激しい嫉妬心も。


「そういえば元帥閣下、参謀本部からの要望ですが、例の勇者については、これからも情報提供を行いたいと思いますので、その時はよろしくお願いします。それでは」


 アスモデウスは、アレクシアに一瞬歪んだ笑みを感じて寒気を覚えたが、部下の前でうろたえる姿など見せてたまるかと、よろしく頼むと威厳たっぷりに答えた。


 そしてマーラーは、サタン王国に帰還して、魔王ルシファーに勇者殺害の許可を得ようとしたところ、魔王ルシファーは姿をくらましていた。


「ウフフ、いよいよ私の計画通り、進んでいるようで何より」


 悪魔マーラーは、笑みを浮かべて、勇者マサヨシの暗殺指令を継続する事とした。



 一方、教会を破門されたウサン・クサイ元司祭、そしてマフィアの大ボスのマリオ・スパファミコは、共和国から逃げ出すように、夜のフリーダムシティの繁華街の路地裏をさまよう。


 勇者マサヨシの策略により破門され、武装親父隊に拘束されて、馬車に載せられそうになったところを、隙を見て身体強化の魔法を使って逃亡したのだ。


 そしてウサンは、勇者に復讐を誓うが、自身の組織はマサヨシに掌握されているようで、マフィアの部下の議員にも連絡が取れないどころか、下っ端達は、ウサンの殺害を目論んで探し回ってる。


 ウサンの名前と特徴が書かれた、回状が出回っているようで、賞金もかかっているようだった。


「くそ、勇者め! やつを目にかけて、出世させてやったこの私をこんな目に」


 ウサンが、街の路地裏で独言ちた時、黒のフードをかぶった人物が姿を現した。


「あなた、勇者を大変憎んでいる様子。私の名前は悪魔ストリゴイ。あなたの勇者への復讐、手助けしてあげる」


 そして、ストルゴイと名乗る人物は、ウサンに飛びつき組み伏せると、自身の鋭く尖った牙を、ウサンの首に突き立てた。


 夜の路地裏にウサンの悲鳴が轟き、マサヨシとマフィアの抗争の状況が、その後この悪魔により、一変する事態へと陥る。


 勇者暗殺を企てる、マーラー不死隊が、マフィアとヤクザの抗争に参戦し、暗躍し始めたのが理由だった。

対策会議という名の女子(死)会終了。

ヤクザとマフィアの抗争に、魔界の悪魔も暗躍し出し、徐々に代理戦争じみてきました。

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