第21話 長ドス
ちくしょうが、あの野郎死んでなかったか。
てっきりチャーシューにでも、なってると思ったのに。
確かシャドーデーモンもそうだったが、悪魔野郎は生命力が強いんだった。
ちくしょう、気を失ってるところで首でも掻っ切ってやりゃあよかった。
ヘタ打ったぜ。
「この脆弱な人間どもがぁぁぁぁぁ! 皆殺しだぁぁぁぁぁ!」
オークデーモンは服が丸焼けになり、顔面が焼けただれ、気色悪い黒のブーメランパンツ一着だけになって、反乱を起こした村の連中を、身の丈10メートルの巨体に見合う大音量の啖呵で恫喝する。
やべえ、まだモンスターが村に残ってるのに。
この状況じゃ、村の野郎たちの喧嘩の流れが変わっちまう。
だがやるっきゃねえ、この村の連中は俺が守る。
故郷のデーバ町のときのように、誰も助けられねえなんてごめんだ!
「おほほほほ! あらあオークデーモンさん! 男ぶりが上がりましたわね」
「マサヨシ子めぇぇぇぇ! あの小さい女は何処だぁぁぁぁ!」
てめーみてーに、ぺらぺらと情報流すわけねえだろ豚野郎。
ヤクザの口の堅さ、なめんなこの野郎。
今まで俺は、仲間をサツや敵の組に密告したことは一度もねえんだ。
おめーも多少ダメージ受けてるようだから、魔王軍幹部の将校さんよお。
「死んでもらうぜ」
俺はブロードソードを両手に持ち、風魔法と神霊魔法の身体強化して、走り幅跳びみてえに踏み込みながらジャンプした。
そして豚野郎の腹目がけて一直線で突きに行く。
だが、奴の体がでかすぎるのと、武器の刃渡りが足りなさ過ぎて、内臓までまったく届かない。
豚野郎は、大木の様に太くなった腕で俺を薙ぎ払うように攻撃してくる。
しかも、早い!
剣を引き抜こうとしたが間に合わず、奴の攻撃をもろにくらう。
左腕と左わき腹に衝撃と激痛が走り、俺の体がダンプではねられたように宙を舞った。
この野郎強いなんてもんじゃねえ、マジで化け物だ。
俺は地面に叩きつけられる前に、風魔法で衝撃を和らげる。
だが、今の攻撃のダメージがかなり効いたみてえで、息をするとあばらが痛む。
何本か折れてヒビが入りやがったか。
「マサヨシ子ぉぉぉ、今、腹を撫でおったかぁぁぁ?」
オークデーモンは、いやらしい豚面で俺の顔をなめ回すように見る。
俺の攻撃全然効かねえし、巨大化とかふざけやがって。
ウルトラヒーローとか巨大ロボでも来てくれねえかな、無理だわこいつ。
だがよお、無理とわかってても男には引けねえ時がある。
俺はブロードソードを鞘に納める。
右手に水、左手に風のイメージ。
今の俺の最強魔法!
「水切り!」
豚野郎目がけて俺の呪文は、縦一文字で一直線に向かう。
鉄をもぶった切る超高水圧の刃、そのガタイのせいでよけきれめえ!
豚野郎は巨体とは思えぬ俊敏さで、俺の魔法をよけようとするも、左腕をぶった切られる。
よっしゃ、さすがシャドーデーモンにも有効だった魔法!
ざまあみやがれ豚野郎。
すると、オークデーモンは自身の丸太のような左腕を拾い上げ、胴体の切断面に押し当てる。
「ぶひいいいいいいいいいいいいいいい!」
野郎が雄たけびを上げると、切断面同士がくっつき左腕がもとに戻った。
「まじか、反則だろ!」
しかもよく見たら、俺が最初に攻撃した腹の傷も回復してやがる。
俺は背にした木刀を両手に持ち、フルスイングして野郎の右足首を攻撃する。
だが、逆に両手の木刀ごと俺の体が吹っ飛ばされた。
「打撃も無理か、無敵かこの野郎!」
ちくしょう、奴だって悪魔野郎だが、生き物である以上弱点はあるはず。
魔力はあと約半分。
だが、魔力を回復する聖水なら1本まだ身に着けてる。
シャドーデーモンの時よりは魔界魔法にも慣れたが、今の俺にはこれが限界。
待てよ、冥界の封印魔法なら。
だめだ、ガタイでかすぎてどこに封印するんだあんな化け物。
「マサヨシ子めぇぇぇぇ、おいたが過ぎるブヒねぇぇぇ!」
豚野郎は、両手の指を組んで腕を高々と上げる。
そして、地面に向けてプロレス技のダブルスレッジハンマーを繰り出した。
半径約100メートルの地面が衝撃で爆発し、俺の体が宙を舞う。
土砂や小石も巻き上げられ、俺の体に礫みたいに襲い掛かってきやがった。
「ぬおおおおおおおおおお、豚野郎がぁぁぁぁ」
俺の体が馬車の方まで吹き飛ばされる。
ちくしょう、あそこにはヤミーがまだ寝てやがる。
なんとか風魔法で衝突する方向をずらしたが、俺の全身は地面に叩きつけられた。
衝撃で、体がワンバウンドする。
俺は立ち上がろうとしたが、片膝を思わずついてしまう。
頭からは血がしたたり落ちる。
やべえ、確かに下士官のシャドウデーモンとは強さが桁違いだ。
「はあ、はあ、ちくしょう!」
くそ、この俺にこんな無様な姿させやがって豚野郎。
いい男が台無しじゃねえか。
今、女装してるけど。
「ぶひひ、マサヨシ子ちゃぁぁぁん。おいたができないようにするブヒね」
豚野郎が両手を空高く掲げると、俺の足元から真っ黒な鎖が沸いて出てきた。
「魔界の鎖」
地面から出てきた鎖が、俺の手足を地面に縛り付けるように拘束してきた。
土を金属化する土魔法の一種か?
手に持った木刀が地面に転がる。
「ぶひひ、さあ、お服をぬぎぬぎする時間ブヒよお?」
何が服を脱がす時間だ変態野郎、もう朝だ豚野郎。
だいたい、女を脱がすだ?
順序からしてちげえよ、女から脱いでもらうのがいい男の条件だ。
そんなにがっついてやがるから、女にもてねえんだよコノヤロー。
豚野郎の豚足みてえな右手が、俺の僧侶服をビリビリと破く。
ちくしょう、俺の最後の一張羅が!
「ぬう、貴様ぁぁぁ男ブヒか!」
へっ、今更気が付きやがったか豚野郎が。
その時、俺の体に野郎の巨大な岩のような左拳がぶち当たる。
「うぼぁ!」
俺は衝撃で口から吐血する。
やべえ、これ多分あばらや内臓逝ったわ。
痛みで脂汗が止まらねえ、ちくしょうが。
神霊魔法で何とか動けるようにまでは回復してえが。
「ぶひいいいいいいいい、騙しやがったなこの野郎ぉぉぉぉぉ」
「何勘違いウボ、げっほげっほ、してんだ豚野郎。俺は、げっほ、一度も自分から女だなんて、げっほ、言ったつもりはねえ」
ちくしょう、掛け合いでなんとか時間を稼いでやろうと思ったが。
ダメージがきつすぎて口がうまく回らねえ。
くっちゃべるごとに吐血しやがるし、威圧しようにも腹に力がいらねえ。
だが、気合と気迫だけは負けねえぞ!
こんな豚野郎に下に見られるマサヨシ様じゃあねえんだ。
その時だった。
「この豚め! 我が相手じゃ!」
馬車からヤミーが出てきた。
馬鹿野郎、来るんじゃねえよ。
寝てりゃあよかったのに。
「探しおったぞ! この小さい女ぁぁぁぁ! よくも俺の顔を足蹴にぃぃぃぃ」
「なんじゃそれは! そんなこと我は知らん!」
ああ、そうだよなあ。
俺に抱き着いてきやがるくらい、酔っぱらってたもんなあ。
だが、助かったぜ。
なんとかこれで、残りの魔力で動けるくらいまでは回復できる。
「なぁぁぁにぃぃぃぃぃぃ?」
「だいたい気持ち悪いんじゃ! お主の顔は醜い! 我の兄様か、そこのボロボロになったマサヨシくらいの見れた顔でないと、まともに話す気にもなれんわ!」
ああ、ブサイク野郎にブサイクって言って喧嘩売るのはよくねえよ。
それ絶対、相手傷つくから。
まあ、俺も転生前はよくその言葉で相手罵倒して半殺しにしてたけど。
ん? ブサイク顔?
あの野郎ヤミーに顔面蹴られて気を失ったし、今も顔面の火傷が治ってねえ。
そうか、あの野郎の弱点は醜い豚っつらだ。
よし、何とか動けるくれえまで体が回復しやがった。
「この小娘がぁ! 言わせておけばぁぁぁぁ」
豚野郎が、豚足みてえな小汚い右手でヤミーの体を掴む。
「きゃああああああ、我を離すのじゃ! 豚め! 無礼であるぞ!」
「てめえ豚野郎! あいつを離しやがれ!」
くそ、この鎖がまとわりついて体が動かねえ!
その時、豚野郎の頭に小石が投げつけられた。
「いたっ! だぁぁぁぁれだぁぁぁ俺に向かってぇぇぇ」
俺が投石された方向を見ると、布一枚着た10歳くらいのガキが立っていた。
豚野郎の住処で、俺が救い出した目付きがすさんだガキだった。
「おいらのお父ちゃんは、お前に食われたんだ! お父ちゃんを返せ!」
豚野郎に向かって次々石を投げつける。
そうか、この村の村長が食われたっていってたが、こいつ村長のガキか!
ガキのくせにいい根性してやがる。
すると、モンスター退治が終わった村の男共も次々と豚に石を投げ始めた。
「今までよくも俺達イジメやがって!」
「女房やガキ達にひどい仕打ちを!」
「その女の子を離せ! 豚野郎!」
やめろ、お前ら。
気持ちはわかるが、今のままじゃ俺もろとも殺される。
だが、ようやっとこいつらは畜生じゃなくなったかもしれない。
「見よ豚め! 今までの因果応報じゃ!」
「ぬうううううう、小賢しい人間どもがぁぁぁぁ!」
「きゃあああああああああ」
豚野郎が掴んだ手に力をこめ、ヤミーを締め付ける。
「ちくしょう、離しやがれ豚野郎! 的にかけるならこの俺をやりやがれ!」
「ぶひひひひ、二度とこの俺様に歯向かえないよう、この小娘は辱めて食らってやる」
豚野郎が、口から唾液まみれの汚い舌を出して、ヤミーの全身を舐めあげる。
ヤミーは短い悲鳴を上げ、顔が青ざめる。
「い、いやじゃ! 助けて兄様、助けて、マサヨシィィィィィ」
ちくしょう、俺の体から鎖が外れねえ。
これじゃあヤミーや村の連中も守れねえ!
「ちくしょうが! ヤミー!」
その時、俺の全身がまばゆい光に包まれる。
シャドーデーモンと戦った時と同じ光。
その光が、俺にまとわりついた鎖を消滅させる。
「おお、勇者様の背中に!」
「憤怒の神の身姿が!」
村人が、俺の背中を指さして騒ぎ立て始めた。
そうかい、やっと、あの時の力が湧いて出てきやがったか。
俺の背中に、閻魔大王様の入れ墨が浮かび上がった。
「ぶひいい? 貴様、一体!?」
俺は無言で足元の木刀を拾い上げると、木刀は光り輝く長ドスに姿を変える。
「離せよ」
「ブヒ?」
「ヤミーから小汚い手を離せって言ってんだよ! 豚野郎‼」
俺は居合の斬撃を繰り出し、全魔力を風魔法を乗せる。
豚野郎の手がぶった斬れ、ヤミーが地面に落下しそうになる。
そして、間一髪のところでヤミーの体をキャッチする。
「マサヨシ! また背中に兄様の絵が」
「村人を避難させてくれ、ヤミー。あの豚野郎はこれからけじめとる」
俺が言うと、ヤミーはこくりと頷き村人たちの方向へと小走りで向かっていく。
「さてと豚野郎、ケジメの時間だぜ」
豚野郎が困惑しながら、テメーの右腕を胴体にくっつけてた。
俺はそれを尻目に、ポケットから魔力回復の聖水を取り出す。
そして、栄養ドリンクの様に一気飲みして、空瓶を地べたに叩きつけた。
「貴様人間なのか? その背中は」
「ああ、これかい? 閻魔大王様の入れ墨よ。そんでこの俺は、この世界の悪魔野郎をぶっ殺すために送り込まれた勇者様、マサヨシってんだ。まあテメーはこれから死ぬんだし、別に覚えなくていいぜ?」
「ブヒ?」
俺は右手で持った長ドスを、豚野郎の頭に指し向ける。
「俺の背中の閻魔様の名にかけて、テメーの罪を裁いてやる」
さあ、第二ラウンドと行こうぜ豚野郎。
次回一章の実質ラストバトルです
なんかつい勢いで書いてしまった
最初から俺つえええええにしてもよかったんですが、やっぱり条件つけないと格好がつかなくて
一章ラストで色々お話します
では




