鳥の事情、少年の事情
本日4話目です。
デイジーに、鳥が、ガバッと頭を下げた。
「俺はあんたに絶対の忠誠を誓う。“従魔契約”だってする! だから――どうか俺の兄弟たちを助けてくれ!」
*
約10分後。
とりあえず鳥から事情を聞くことになったデイジーが、古びたダイニングテーブルに向かって座っていた。
その正面には、黄色い鳥がかしこまった様子で立っており、ぺこりと頭を下げる。
「改めまして、自分の名前は、ピヨールっす」
「わたしは、デイジーよ」
「デイジーっすか。変わってるけど、いい名前っすね」
デイジーは笑い出しそうになった。
なんか、この鳥、キャラが変わったわね、と思う。
(でも、それだけ訳アリってことよね)
どんな事情だろうと思っていると、鳥がおもむろに口を開いた。
「自分は、北の森に住んでいた、イエローバード族の出身っす」
彼らの一族は、森で平和に暮らしていたという。
「でも、1年くらい前に、クソったれ第1王子に目を付けられて……」
先祖代々の森は焼かれ、
生き残った者たちは、隷属の呪いを掛けられ、使い捨ての奴隷として働かされているらしい。
デイジーは眉間にしわを寄せた。
想像以上に酷い話だ。
「それで、わたしに一族を解呪して欲しいってわけね」
「はい、話が早くて助かるっす」
ピヨールが必死に頭を下げた。
「俺にできることは何でもするっす! 一族の連中も一生恩に着るっす! だから、どうか兄弟たちの呪いを解いてください!」
どうやら、一族を少しずつ連れてくるので、その呪いを解いてもらいたい、ということらしい。
デイジーはピヨールをながめた。
魔力も揺らいでいないし、嘘をついている感じもしない。
本気で一族を助けたいと思っている感じがする。
(なるほどねえ……)
彼女は考え込んだ。
口は悪いが、どこか憎めない黄色い鳥を、助けてやりたいという気持ちはある。
ここについての情報も欲しい。
1つ懸念があるとすると、デイジーがこれからどうなるか分からないことだ。
(いきなり飛ばされてきたんだから、いきなり戻っても不思議はないわよね)
デイジーは口を開いた。
「実はわたし、これからどうなるか分からないのよ。ここがどこだかも分かっていないし」
ピヨールは目をぱちくりさせた。
「そうなんすか?」
「うん、ずっとここにいるかもしれないし、いないかもしれない。それでも大丈夫?」
ピヨールは考えるような仕草をすると、すぐに、こくりとした。
「大丈夫っす! 他に助かる手段もないんで」
それならば、とデイジーはうなずいた。
「いいよ、取引しよう。誰か連れて来たら解呪する」
ピヨールが目を潤ませながら、頭を下げた。
「ありがとうございます! 姐さん!」
「……姐さん」
デイジーは苦笑した。
“姐さん”は、ちょっと変な気もするけど、まあいいか。
*
その後、ピヨールとデイジーは従魔契約を結んだ。
ピヨールがデイジーに触れながら何か唱えると、ピヨールの体が薄っすら光る。
「できたっす!」
「え、そうなの?」
調べさせてもらうと、ピヨールには軽い呪いのようなものが掛かっていた。
デイジーを攻撃したり裏切ったりすると、頭が痛くなるようになっている。
(従魔契約って呪いの一種なのかも)
――そして、ピヨールに「何かできることはないっすか」と問われ、デイジーは口を開いた。
「実は、聞きたいことがたくさんあるのよ」
「はい、何なりと!」
デイジーは思案した。
何から聞けばよいのか、頭を巡らせる。
そして、やはりこれだろうと、隣の部屋を指さした。
「隣の部屋で寝てる男の子、誰だか知ってる?」
ピヨールが目をぱちくりさせた。
「もしかして、知らないでここにいるんすか?」
「うん、まあ、色々あって」
ピヨールが不思議そうな顔をしながら、口ばしを開いた。
「隣にいるのは、第9王子、カイヴァルミオンっす」
「第9王子」
デイジーは考え込んだ。
彼女の知っているカイヴァルミオンは、成人で、王都に攻め込もうとしている極悪非道の魔王だった。
しかし、ここにいるカイヴァルミオンは、まだ幼い少年で、第9王子だという。
(これってつまり、わたしが魔王の子ども時代にタイムスリップしたってことよね)
しかし、そうなると、新たな疑問が沸く。
なぜ、未来の魔王が、こんなボロ小屋に住んでいるのだろうか。
「第9王子が、なんでこんな小屋に住んでいるの?」
「ああ……、クソったれ第1王子の仕業っすよ」
ピヨールがゲンナリした顔をする。
「第9王子も、もともとは王宮に住んでたんすけど、母親がなくなって、1人ここに追いやられたっす」
「え、酷い! なんでそんな酷いことを」
「王位継承争いっすよ」
第1王子は、王位継承権を持つ弟たちをどんどん排除しており、
第9王子のことも、ここに追いやった上に、ピヨールを使って監視しているらしい。
「そうなのね……」
デイジーは眉間に皺を寄せた。
まさか、極悪非道と名高い魔王に、こんな過去があったなんて思わなかった。
その後、デイジーはピヨールに色々な質問をした。
デイジーがエルデア王国から来た人間だと言うと、ピヨールは首をかしげた。
「エルデア王国……って聞いたことないっすね。そもそも、自分、ニンゲンって種族、初めて聞いたっす」
デイジーのことも魔族だと思ったらしい。
「でも、わたし、顔に紋章ないわよ?」
「大人になってから紋章が出るパターンもあるっす」
人間やエルデア王国については、調べてくれるという。
――そして、話をすること、数時間。
日が傾きかけたころ。
ピヨールは、とりあえず魔都に戻ることになった。
少年については、異常なしと報告してくれるらしい。
彼は窓枠にぴょんと飛び乗ると、デイジーを見上げた。
「なんかあったら呼んでください。数時間あれば来られるんで」
「わたし、ここにいるとは限らないんだけど大丈夫?」
「大丈夫っす! 従魔は主人の居場所が分かるんで!」
ピヨールは、ぺこりと頭を下げると飛び立った。
上空を挨拶するように旋回すると、あっという間に見えなくなる。
デイジーは感心した。
「ピヨールって、見た目に寄らず早いのね!」
そして、夕焼けに色に染まり始めた空を見て、ため息をつく。
「わたしは、これからどうしよう」
魔王カイヴァルミオンの子ども時代にタイムスリップしたことは分かった。
でも、どうやって来たかも、どうやって帰るかも分からない。
(これ、最悪この時代で暮らすことになるんじゃ……)
デイジーが半ば途方に暮れていた――そのとき。
ガタンッッ
隣の部屋から何かが落ちるような音がした。
子どものうめき声が聞こえてくる。




