黄色い鳥
本日3話目です。
「ぎゃあああ! 殺されるー!!」
甲高い声が、山小屋の中に響き渡った。
デイジーは慌てて包丁を持った手を振り回した。
「食べるなんて、そんなつもりじゃ!」
「じゃあ、その包丁は何だ!」
「こ、これはキノコを……」
「ギャー! キノコと一緒に煮込まれるー!」
――そして、こんな感じですったもんだすること、約10分。
ようやく落ち着いた鳥が、檻の中で木の実を啄んでいた。
お腹が空いたと言うので、とりあえず食べ物を与えることになったのだ。
高速で木の実をつつく鳥をながめながら、デイジーが口を開いた。
「あんた、よく食べるわね」
「まあな!」
鳥が得意げに胸を張った。
「地面を這いつくばってる奴らにゃ分からないだろうが、飛ぶってのは、体力と魔力が必要な高等技術なんだぜ! しかも俺様の場合は頭も使うからな!」
デイジーは「へえ」と相槌を打ちながら、ニコニコした。
この鳥は本当によくしゃべる。
しかも、ちょっと口が悪い。
(でも、しゃべれるってことは、賢いってことだよね)
この鳥であれば、ここがどこかなど知っているかもしれない。
(よし、色々聞き出そう)
とりあえず警戒させないようにと、ニコニコする。
そんなデイジーのお腹の中など露知らず、鳥は木の実を綺麗に食べ終わった、
満腹そうに翼でお腹をさすると、檻の中からデイジーを見上げる。
「そろそろ出してくれ!」
「いいよ」
デイジーはニコニコした。
「でもその前に、色々と教えて欲しいことがあるんだけど」
「……っ!」
鳥が、ギクリと言う風に翼を震わせた。
ニコニコするデイジーから露骨に目を逸らす。
「お、俺様は、何もしてねえよ! ちょっと様子を見ていただけだ!」
「様子って何の?」
「さ、さあな! 俺様は単なる鳥だからな! ちょ、ちょっと歌いたくなってきたぜ! ピヨピヨピーヨ!」
滝のように汗を流しながら歌い始める鳥を、デイジーは訝しげにながめた。
ちょっと質問しようと思っただけなのに、いきなり怪しくなった。
(実はこの鳥、何か悪い事してたんじゃ……?)
そして――
(……ん?)
デイジーは、眉間に皺を寄せた。
鳥の胸元あたりから、奇妙な魔力の気配がする。
(この気配……)
しばらく観察して、デイジーは口を開いた。
「あんた、もしかして、呪われてる……?」
「……っ!」
鳥が驚愕の表情を浮かべた。
「な、ななななんで分かった……!」
「魔力の感じが、何となく呪いっぽいから」
“呪い”とは、かけた対象に、特別なルールを強制する魔法だ。
解呪するには、聖魔法の「解呪魔法」が必要になる。
デイジーは何度も解呪を行なったことがあるが、鳥から感じるこの気配は初めてだ。
(すごく良くない呪いの気がする)
何となく放っておけない感じがして、デイジーは口を開いた。
「その呪い、ちょっと調べてみてもいい?」
「え?」
「そんなすごい呪い、今まで見たことがなくて」
すごい呪いと言われ、鳥が満更でもない顔をした。
「…………まあ、そこまで言うなら」
そう言いながら、見せてくれるように胸を張る。
デイジーは、檻に手を入れると鳥の胸のあたりをそっと触った。
軽く魔力を流して解析する。
――そして、解析が終わり。
彼女は思わず眉間に皺を寄せた。
(なにこれ)
それは見たことがないほど強力な呪いだった。
術者に対して絶対服従で、逆らうと息が吸えなくなる。
しかも、呪いの維持のために生命力が常に削られており、寿命が徐々に縮まるようになっている。
(こんな酷い呪い、始めて見た)
もしかして、何かの処罰だろうかと思い、「なんか悪いことした?」と尋ねると、
鳥がいきり立った。
「してねーよ! 俺様ほど真面目に生きてる鳥はいねーっつーの!!」
ギャアギャア騒ぐ鳥に、「ごめんごめん」と謝りながら、デイジーは思案に暮れた。
確かに、この鳥は口が悪い。
でも、こんな呪いをかけられるほど悪いことをするようには見えない。
そして、このまま放っておけば、この鳥はそう長くは生きられない。
(……まあ、これも何かの縁か)
デイジーは、ギャアギャア騒ぐ黄色い鳥をながめた。
よく知らない鳥ではあるが、この呪いは見過ごせない。
もしもこの鳥が望むなら、解呪してあげよう。
幸い逆探知もついていないから、解呪しても術者は気が付かなさそうだ。
(よし、決めた)
彼女は黄色い鳥に尋ねた。
「あんたこの呪い、消したい?」
「そりゃそうだろ。こんなもん、百害あって一利なしだからな」
鳥がため息をつく。
それならばと、デイジーは鳥の胸に手を当てた。
魔力を集めながら静かに詠唱した。
「<解呪>」
鳥の周囲に黄金の魔法陣が浮かんだ。
黄金の光が「な、なんだこれ!」と騒ぐ鳥の周囲を優しく包み込む。
――そして、光が消えると、デイジーは改めて鳥の胸を触った。
魔力を確かめて、うなずく。
「呪い、解けたよ」
「は!?」
鳥が呆気にとられたような顔をした。
体のあちこちを動かして「マジか……」とつぶやく。
そして、大きく息を吸いこむと、思い切り叫んだ。
「第1王子のクソったれ!」
(第1王子?)
首をかしげるデイジーの前で、鳥は叫び続けた。
第1王子とやらに、人でなし、極悪非道、おたんこナス、など、あらゆる罵詈雑言を浴びせる。
そして、気が済むまで叫ぶと、鳥はデイジーを信じられないという目で見た。
「……お前、もしかして、すごい奴なのか?」
デイジーは考え込んだ。
確かに聖魔法は珍しいが、すごい奴と驚かれるほどではない気もする。
「まあ、そこそこかな?」
「……そこそこ」
デイジーの言葉に、鳥が何とも言えない顔をした。
しばらくして、両足を揃えると、神妙な顔で頭を下げる。
「とりあえず、礼を言わせてくれ。呪いを解いてくれて感謝する。これで心置きなく、あのクソったれ王子の悪口が言える」
そして、鳥は真剣な顔でデイジーを見上げた。
「それでなんだが、あんた、俺と取引してくれないか?」
「取引?」
首をかしげるデイジーに、鳥が、ガバッと頭を下げた。
「俺はあんたに絶対の忠誠を誓う。“従魔契約”だってする! だから――どうか俺の兄弟たちを助けてくれ!」




