魔王城(?)へ
本日2話目です。
子どもにいじめられていた少年を助けた、約30分後。
(これ、一体どういう状況なんだろう……)
頭の上に疑問符を浮かべたデイジーが、眠る少年を背負って森の中を歩いていた。
向かっているのは、彼の家だ。
傷は回復魔法で癒えたものの、ぐったりしており、放っておける状態ではなかったからだ。
朦朧とする本人に、家の場所を聞いたところ、どうやら北に向かって伸びる道の先にあるらしい。
教えられた道を歩きながら、デイジーは思案に暮れた。
(この子、魔王だよね……)
魔力は、人によってそれぞれ違う。
親兄弟であっても、同じということはありえない。
つまり、同じ魔力を持った魔王と少年は、同じ人物ということになる。
(でも、なんで魔王が子どもの姿に? しかも、“兄上”とか“殺していい”とか、よく分からないこと言ってたし……)
考えながら歩いていると、
ガウゥ!
突然、横から狼のような魔獣が襲い掛かってきた。
デイジーは、持っていた錫杖を軽く横に振った。
ガツンッ
狼は顔をしたたかに打たれ、怯えるように逃げていく。
(とりあえず、この子を早く家に送り届けよう)
彼女は足を早めた。
魔王の家ということは、きっとお城なのだろう、と考える。
(門番さんにこの子を引き渡して、元の野原に戻ろう)
――そして、歩くこと、しばし。
デイジーは森の中にある、草ぼうぼうの空き地に出た。
空き地の端の方には、オンボロの山小屋が立っている。
(狩猟小屋かな?)
すると、背中の少年が身じろぎして、小さな声で言った。
「着いた」
「……え? ここ……?」
デイジーはポカンとした。
まさかのボロ小屋に、思わず立ち尽くす。
もしかして、魔王の実家は貧乏なのだろうか、と思うが、
彼女は首を横にブンブンと振った。
(ダメよ、見かけで判断しちゃ)
もしかすると、外はカモフラージュで、中は謁見の間みたいに金ピカなのかもしれない。
彼女は、草ぼうぼうの空き地を通り抜けると、小屋に近づいた。
ゆっくりと扉を開くと、冷たい空気と埃っぽい匂いが漂ってくる。
「……し、失礼します」
デイジーは、おそるおそる中に入った。
中は薄暗くてガランとしており、テーブルやベンチ、台所など、最低限の設備はあるものの、埃をかぶっており、人が使った形跡がない。
(本当に、ここに住んでるの……?)
呆気にとられるデイジーの視界に、開いている扉が映った。
覗き込むと、扉の向こうは大きなベッドが見え、毛布が丸まっているなど、ここだけかろうじて生活感がある。
(とりあえず、ここに寝かせよう)
デイジーは、ぐったりした少年をベッドにそっと降ろした。
細い体に毛布を掛けてやると、部屋を出てドアを閉める。
そして、薄暗く埃っぽい部屋を見て、大きなため息をついた。
(……どうしよう)
この家の様子から察するに、住んでいるのは彼1人だろう。
さすがにこの状態の家に、体調が悪い子ども1人を放っておくわけにはいかない。
(食べ物と飲み物くらいは用意していこう)
デイジーは部屋の隅にある、埃だらけの台所に向かった。
水と食料を探す。しかし――
「……何もない……」
水を入れておく樽や、鍋や食器、
捕まえて来た動物を閉じ込めておく檻など、古いながらも設備は揃っている。
でも、肝心の水や食料がない。
棚の奥に塩の塊があったくらいだ。
デイジーは眉間にしわを寄せた。
これはますます、少年をこのまま置いてはいけない。
(とりあえず、水と食べ物を探しに行こう)
彼女は、台所にあった古い籠と水筒を持って小屋を出た。
外に出て、錫杖を構えると、魔力を高めながら静かに詠唱する。
「<対魔獣・防御結界>」
デイジーの足元に金色の魔法陣が浮かび上がった。
家の周りに金色のドームが現れ、すぐに見えなくなる。
「これでよし」
彼女は、鬱蒼とした森に足を踏み入れた。
木の実、キノコなどを見つけ、魔力を通して毒がないことを確かめると、ポンポン籠に入れる。
小さな湧き水を見つけ、持ってきた水筒を満たす。
「まあ、こんなもんかな」
デイジーは元来た道を戻り始めた。
歩きながら、思案に暮れる。
(食べ物を準備したら、あの子を起こして食べさせて、それからあの野原に戻ろう)
そして、草ぼうぼうの空き地に到着し、山小屋に向かって歩いていた、そのとき。
「……ん?」
デイジーは、小屋の窓辺に、1羽の黄色い鳥がとまっているのを見つけた。
スズメくらいの大きさで、窓ガラス越しに、熱心に家の中を覗き込んでいる。
(綺麗な鳥、見たことない)
珍しく思いながら近づくと、ふと鳥が振り向いた。
デイジーを見て、驚いたように、ギャー! と悲鳴を上げながら飛び上がり――
ガツンッ!
窓枠の上にしたたかに頭をぶつけた。
そのまま地面にポトリと落ちる。
「た、大変……!」
デイジーは慌てて鳥に駆け寄った。
つんつんと突いてみるが、完全に気絶している。
(このまま置いといたら、鷹とかにやられちゃうかもしれない)
彼女は鳥を抱えて家の中に入った。
ちょうど良さそうだと、台所にあった木製の檻の中に入れる。
そして、「よーし、やるぞ!」と腕まくりをすると、料理に取り掛かった。
とりあえずスープを作ることにする。
そして、古びた黒鍋にぐつぐつとお湯を沸かしながら、鼻歌まじりに包丁でキノコを切っていた――そのとき。
「くそ……頭いてえ……」
突然、横から甲高い声が聞こえてきた。
驚いて声の方に視線を向けると、檻の中の黄色い鳥が、片方の翼で痛そうに頭をさすっていた。
デイジーを見上げ、目を丸くしながら口ばしを開ける。
「お、お前、誰だ!?」
デイジーは呆気にとられた。
「……え! 鳥がしゃべった!?」
「ふん! 当たり前よ! 俺様は大天才だからな!」
驚かれたことに気を良くしたのか、鳥が得意げに胸を張る。
そして、鳥は周囲を見回し、自分が檻に閉じ込められていることに気が付いた。
ぐつぐつと煮立つ鍋と、デイジーの手に光る包丁に目を移す。
そして――
「ぎゃあああ! 殺されるー!!」
甲高い声が、山小屋の中に響き渡った。




