見知らぬ場所
本日5話目です。
魔王の天幕で意識を失った後。
デイジーは、気が付くと夢を見ていた。
過去の記憶を遡ってみるような、不思議な夢だ。
*
最初の夢は、5歳くらいの記憶だ。
デイジーは、王都にほど近い小さな村で生まれた。
父は働き者、母親は花が好きで、デイジーはよく母と一緒に花の世話をした。
「お花を育てることは、心を育てることなのよ」
よくそんなことを言われた記憶がある。
――しかし、デイジーが6歳を過ぎるころ、悲劇が起こった。
街から少し離れた場所にあった魔法炉が大爆発を起こしたのだ。
街は吹き飛び、奇跡的にデイジー1人だけが助かる。
その後、デイジーは王都の孤児院で暮らし始めた。
孤児院の隣には修道院があり、そこの聖女たちがデイジーの面倒を見てくれた。
暖かく迎え入れ、あれこれと世話を焼いてくれる。
彼女たちの優しさに、デイジーの傷ついた心は癒えていった。
もしも聖女たちがいなかったら、デイジーはショックで立ち直れなかったかもしれない。
いつしか、聖女に尊敬と憧れを抱くようになる。
だから7歳になった時、肩に『聖紋』が現れて、彼女はとても喜んだ。
『聖紋』が現れれば、聖魔法が使えるようになり、「聖女」になれる。
(わたしも、りっぱな聖女さまになるわ!)
そこからデイジーは修道院で聖女として働き始めた。
聖魔法の勉強をがんばる傍ら、孤児院に通い、自分のように両親を失った子どもたちの面倒を積極的に見る。
自分がしてもらったことを、今度はしてあげたいと思ったからだ。
――夢の中で頑張る自分を、デイジーはボーっとながめた。
自分が魔王封印を失敗していたとしたら、孤児院の子どもたちはどうなってしまうのだろうか。
お世話になった街の人たちはどうなってしまうのだろうか。
(無事でいてくれるといいけど……)
そんなことを思いながら、再び意識が遠くなっていく。
――そして、どのくらい経ったのか。
ざわざわざわ
デイジーの耳に、木々が風に揺れる音が聞こえてきた。
ピィピィ
小鳥が鳴く声が聞こえ、周囲が明るくなってくる。
(なんだろう……?)
デイジーは、ゆっくりと目を開けた。
視界の先には、灰色の空が広がっている。
ぼんやりと起き上がると、周囲は一面の野原で、白い花がたくさん咲いていた。
生暖かい風に乗って、土の匂いがする。
デイジーは、ボンヤリと風にそよぐ花をながめた。
(ここ、どこ……?)
徐々に頭がはっきりしてきて、魔王を封印するために、聖剣で自分を突き刺したことを思い出す。
(そうだ、わたし、そのあと気を失って……)
デイジーはヨロヨロと立ち上がった。
周囲を見回すも、魔王はおろか、人っ子一人いない。
ふと自分の体を見ると、王宮で着替えた白い聖女服を着ていた。
聖剣で刺したはずのお腹を見てみると、血も出ていなければ、刺した跡もない。
魔王を封印しようと自分を刺したのに、魔王もいなければ、刺し傷もない。
おまけに、ここがどこかも分からない。
「……なにこれ……」
デイジーは呆然とつぶやいた。
自分の身に何が起こったのか、全く分からない。
――と、そのとき。
「――いたい! やめろよ!」
不意に、彼女の耳に子どもの叫び声が聞こえてきた。
我に返って周囲を見回すと、遠くに見える森の入り口に、子どもが5人ほど立っていた。
大柄な子どもが、足をバタバタさせる小柄な子どもの襟元を掴んで持ち上げている。
デイジーは目を見開いた。
(ちょ、ちょっと! なによあれ! 弱い者いじめじゃない!)
彼女は夢中で走り出した。
子どもたちに近づくと、思い切り雷を落とす。
「こらー! あんたたち! 小さい子いじめちゃだめでしょ!」
修道院仕込みの凄まじい迫力に、子どもたちが一斉に飛び上がった。
小さな子を投げ出すと、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
デイジーは急いで倒れている子どもに駆け寄った。
汚れたボロボロの服を着た、白っぽい金髪の6歳くらいの少年で、目は固く閉じられており、その頬には紋章がある。
(この子、魔族だ)
一瞬手が止まるものの、デイジーは首をぶんぶんと横に振った。
魔族とはいえ、倒れている小さな子どもを放っておいていい訳がない。
彼女は少年の胸に手を当てた。
手に魔力を集めると、静かに詠唱する。
「<回復魔法>」
男の子の体が薄っすら金色に光った。
顔の擦り傷がみるみるうちに消えていく。
――そして、光が収まると、男の子がゆっくりと目を開けた。
特徴的なアイスブルーの瞳が、デイジーに向けられる。
彼女は、ホッと胸を撫で下ろした。
同時に首をかしげる。
(この目、どこかで見たことあるような……)
考え込むデイジーを、男の子がまじまじと見た。
ゆっくりと口を開く。
「あんた……兄上の部下?」
「兄上?」
デイジーが首をかしげていると、男の子が口の端をゆがめた。
「いいよ、殺せよ。邪魔になったんだろ」
「……は?」
デイジーは戸惑いの目で男の子を見た。
(殺せって、この子何を言っているの……?)
答えに窮していると、突然、男の子が咳き込み始めた。
ゲホゲホ、と体を丸めて苦しそうにする。
「だ、大丈夫!?」
デイジーは慌ててその小さな背中をさすった。
男の子から伝わってくる、どす黒い魔力に、思わず大きく目を見開く。
(こ、この魔力って!)
アイスブルーの瞳に、このどす黒い魔力の感じ――
どう考えても、間違いない。
(こ、この子、魔王だ!!!)
雷に打たれたように固まるデイジーを、男の子がどこか虚ろな目で見つめた。
本日の投稿はここで終了です。
あらすじの部分が終わるまで、サクサク進んでいきます。
それでは、また明日!




