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千年前に戻った聖女は、最凶魔王を『お花の好きな優しい子』に育てることにした!  作者: 優木凛々
第1章 デイジーは、最凶魔王を封印することにした!

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3/14

王宮からの呼び出し(2/2)


本日3話目です。


 

「着きました、降りてください」



 御者に扉を開けてもらい、デイジーが馬車を降りた。

 外気に触れ、思わず目を丸くする。



(涼しい! まるでここだけ冬みたい!)



 王城内の空気はひんやりとしていた。

 外の蒸し暑さがまるで嘘のようだ。



(なにか特別な仕掛けでもあるのかな……?)



 首をかしげながら、デイジーは文官服の男性に案内されて、王宮の中に入った。


 赤絨毯の敷き詰められた廊下を歩き、

 柱が金でできた豪華絢爛な謁見の間に入る。


 謁見の間には、すでに立派な上着を着込んだ人々がいた。

 皆、玉座の前に立って、ひそひそと何か話している。


 デイジーは一番後ろの目立たない場所に立った。

 冷えてきた両腕を手でさすりながら、首をかしげる。



(一体どうしたのかしら)



 謁見の間に呼ばれるなんて、筆頭聖女に任命された時以来だ。

 しかも、他はみんな貴族で、どうも自分は場違いな気がする。



(怒られる訳ではなさそうだけど、一体なにがあったのかしら……)



 デイジーが冷えた手をこすり合わせながら、そんなことを考えていた――そのとき。



 パパパパーン!



 高い天井に、ラッパの音が響き渡った。

 貴族たちが、さっとひざまずいて頭を下げる。


 デイジーも慌ててそれに倣ってひざまずいて頭を下げた。


 しばらくして、奥の扉から、宝石だらけの重そうな衣装を身に纏った国王が入ってきた。

 悠然と玉座に座る。


 国王の斜め前に立った黒ひげの宰相が、重々しく口を開いた。



「皆の者、悪い知らせがある。――魔族が攻めてきた」

「……っ!」



 謁見の間にいる人々の間に衝撃が走った。



「しかも、率いているのは、魔王カイヴァルミオンだという」

「ま、魔王カイヴァルミオン!」



 動揺する人々の後ろで、デイジーは思わず目を見開いた。


 魔王カイヴァルミオンとは、最凶魔王と言われる魔族の王だ。

 国を一夜にして滅ぼした、異種族を皆殺しにしたなど、とんでもない話ばかり聞く。



(な、なんでそんな魔王が攻めてなんて……)



 宰相によると、魔王は「人間が気に食わない」という理由で、王都に攻め込むつもりらしい。



「偵察の話では、魔王軍は凄まじいスピードで王都に向かっており、今日の夕方には王都に到着する、と」



 デイジーは大きく目を見開いた。



(そんな! 逃げる時間もないじゃない!)




 ――と、そのとき。

 それまで黙っていた国王が、重々しく口を開いた。



「筆頭聖女デイジー、前へ」



(……え?)



 デイジーは目をぱちくりさせた。

 なぜ呼ばれたか分からないものの、慌てて立ち上がって、玉座の前にひざまずく。



「……デイジー筆頭聖女でございます」



 国王はうなずくと、軽く手を挙げた。

 1人の騎士が、デイジーの目の前に宝石が付いた立派な箱を運んでくる。


 デイジーが中を覗き込むと、透明の刃が冷たく光る短剣が一振り入っていた。


 奥王が重々しく言った。



「それは、我が国の国宝、“エテルミオンの聖剣”だ」



 宰相によると、この剣は、魔力量の多い聖女にのみ使えるものらしい。


 約300年前、当時の魔王が攻めて来た際に、

 当時の筆頭聖女ルーシーが、この聖剣で自らの胸を突き、自分の命と引き換えに魔王を封印したという。


 国王がデイジーを見た。



「筆頭聖女であるデイジーよ。この聖剣にて、王国を救ってはくれまいか」



(え、ええええ!!!?)



 デイジーは大きく目を見開いた。



(そ、それって、つまり、死ねってこと……!?)



 彼女が目を白黒させながら動揺していると、



 バタンッ



 奥の扉が開き、長い金髪を後ろで結わえた眼鏡の美青年――デイジーの婚約者であるローレンス第3王子が入ってきた


 彼は、デイジーの傍に走り寄ると、ひざまずいて苦しそうな顔で言う。



「……すまない、デイジー。民を救う方法が、他にないんだ」



 その言葉を聞いて、デイジーは悟った。

 真面目な研究者である彼が、こう言うということは、本当に他に方法がないのだろう、と。


 それと同時に、今朝見た美味しそうに食事をする子どもたちの姿が脳裏に蘇った。

 来る途中に会った女の子の顔や、街の人たちの笑顔も思い出す。



(……魔王が攻めてきたら、みんな、きっと死んでしまうわよね)



 デイジーは宰相を見上げた。



「わたしがこの剣を使えば、王都の人たちは助かるのでしょうか」

「ああ、助かる」

「それは、確かですか?」

「確かだ」



 その答えを聞いて、デイジーは覚悟を決めた。



(あの子たちや街のみんなが助かるなら、それが一番よね)



 彼女は手をギュッと握りしめると、国王に向かって深々と頭を下げた。



「……承知いたしました。その役目、引き受けさせていただきます」



 国王が鷹揚にうなずく。



「あいわかった。さすがは筆頭聖女だ。末代までそなたを称えようぞ」



 会場にいる人々から安堵の息が漏れた。

 ローレンスが、顔を背けながら立ち上がる。


 デイジーは跪きながら、自分の靴の先を見つめた。

 あまりの急展開に、現実味を感じない。



(おばさんのクッキー……食べて来れば良かったな……)



 そんなことを、心の中でつぶやく。


 その後、国王が悠然とその場を立ち去り、デイジーは慌ただしく王宮を出ることになった。






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