王宮からの呼び出し(1/2)
本日2話目です。
プロローグから遡ること、数時間前。
澄みわたる空が広がる、初夏の朝。
王都の片隅にある孤児院の、小さなベッドが並ぶ寝室に、
「みんなー! 朝よー!」
明るい娘の声が響き渡った。
カーテンと窓が勢いよく開けられ、朝日と新鮮な空気が部屋に流れ込んでくる。
眠そうな子どもたちが、眩しそうに毛布を頭にかぶった。
「もう少し……」
「ほら、起きて! “早起きは銀貨3枚の得”って言うのよ!」
「銀貨3枚とか、大したことないじゃん……」
「甘いわね! 毎朝銀貨3枚拾ったら、1年後にはウハウハよ!」
そう笑顔で言うのは、白い修道服に身を包んだ、蜂蜜色の髪とキラキラした目の娘――デイジー23歳。
彼女は、さあさあ、と慣れた感じで子どもたちを起こすと、小さい子たちの身支度を手伝い始めた。
時々飛んでくる枕を裏拳でパンッと弾いては、
「こらー! ふざけてないで、早くベットを整えなさーい!」
と、怒ってみせたりする。
その後、彼女は子どもたちと一緒に食堂に向かうと、配膳を手伝い始めた。
にぎやかに食事をする子どもたちを見ながら、ニコニコする。
――そして、子どもたちの食事が終わり、後片付けが終わった後。
デイジーが修道院に戻ろうとしていると、
コックコートを着た中年女性が、笑顔で小さな包みを差し出した。
「いつもありがとね。これ、あんたの好きなクッキーだよ」
「わあ! ありがとうございます!」
デイジーはホクホクしながら包みを受け取った。
ポケットに入れると、「また明日!」と手を振りながら厨房を出る。
そして小走りで隣にある修道院に戻ると、時計を見上げた。
「……今日は早いわね」
次の治療院の仕事まで、あと20分ほど時間がある。
(これはチャンスね!)
彼女は、急いで水を入れたバケツを持って、修道院の中庭に向かった。
花壇に咲く花々に、柄杓で水をやりながら話しかける。
「ごめんね、最近忙しくて、全然来られなくて」
彼女は、“聖女”だ。
聖女とは、回復魔法や結界魔法などの“聖魔法”を使える女性のことだ。
幼少期に、体のどこかに聖女の紋章が浮かび上がることにより、覚醒する。
聖女は、国が保護管理することになっており、
貴族出身の聖女は王宮教会に、
デイジーのような平民出身の聖女は、王都の修道院に所属することになっている。
デイジーも、8歳の時に体に聖女の紋章が浮かび、修道院に来た。
以降、修道院で働きながら、聖女として活動しているのだが……
「毎日忙しいのよね……」
聖女の仕事はとても幅広い。
治療院で回復魔法を使ったり、危険地域に結界を張るなどの聖女の仕事に加え、修道院や孤児院の仕事もある。
加えて3年前、デイジーが筆頭聖女に選ばれてから、輪を掛けて忙しくなった。
大好きな花壇を手入れする時間もなかなか取れないし、
筆頭聖女になった時に婚約者になった、ローレンス第3王子とも、ほとんど会えていない。
(でもまあ、暇よりは忙しい方がいいわよね!)
花をながめながら、デイジーがそんなことを考えていた――そのとき。
「デイジーさん!」
後輩聖女のマリアが、血相を変えて庭に走り込んできた。
はあはあと肩で息をしながら口を開く。
「王宮から迎えの馬車が来ました、至急来るようにって」
「え!? 王宮から!?」
デイジーは、目を見開きながら動揺した。
王宮から突然呼び出されるなんて、初めてだ。
(わ、わたし、何かやっちゃった……? この前、無断で結界を広めに張ったことがバレた……? それとも、治療院で内緒で安く回復魔法をかけたのがバレたとか……?)
ぐるぐる考えて青くなるデイジーに、マリアが声を掛けた。
「お仕事の続きは私がしておきますので、デイジーさんは早く行ってください」
「そ、そうね、ありがとう!」
デイジーは急いで自室に向かった。
うっかりクローゼットの角に足をぶつけて「くうっ」となりつつも、外出用の修道服に着替える。
おばさんからもらったクッキーを食べてしまおうかと一瞬悩むものの、帰って来たからゆっくり食べようと、ベッドの上にポンと置く。
そして、急いで外に出ると、外は朝の晴天から一転、分厚い雲に覆われていた。
湿気が多く、かなり蒸し暑い。
(雨が降らなければいいけど)
そんなことを思いながら、デイジーは待っていた立派な馬車に乗り込んだ。
馬車はすぐに動き出し、ガタガタした石畳の道を進み始める。
デイジーは、ふう、と息を吐いた。
(とりあえず、行って話を聞いてみないと分からないわよね。もしかして、褒められる可能性だってある訳だし)
そんなことを考えながら、外のにぎやかな通りをながめていると、以前治療したことのある女の子と母親が道を歩いているのが見えた。
女の子が、デイジーに気が付き、嬉しそうに声を上げる。
「あ! 聖女さま!」
その声に、歩いていた大人たちが振り返った。
ニコニコしながら声を掛けてくる。
「聖女様! こんにちは!」
「この前はありがとうございました!」
デイジーは窓を開けると、身を乗り出して「こんにちは!」と笑顔で手を振った。
(今日もみんな元気そうね!)
――その後、馬車は庶民街と貴族街の間にある門を潜った。
大きな家が立ち並ぶ貴族街を走り抜け、王宮の前に到着する。
「着きました、降りてください」
(つづく)




