【一方その頃】王都にて②
本日1話目です。
今日は第2章終了まで6話投稿します!
最初は、エルデア王国サイドの話です。
デイジーが魔王の天幕で倒れた、約2週間後。
蒸し暑い夏の夜。
エルデア王国の王宮にて、舞踏会が開かれていた。
王宮内はキンキンに冷やされており、貴族たちは皆、厚手の服を着て、ホットワインを楽しんでいる。
毛皮を身に纏った貴族男性が、ワインを片手に口を開いた。
「しかし、魔族が攻め入ったと聞いたときは、肝が冷える思いでしたな」
「今はどうなっているのかしら」
「今日発表があるかもしれませんな」
貴族たちがそんな会話をしていた――そのとき。
パパパパーン!
ラッパの音が鳴り響いた。
大広間の2階から、豪華な衣装に身を包んだ国王を先頭に、宝石をジャラジャラ身につけた王族たちが降りてきた。
貴族たちが、それを拍手で迎える。
そして静かになると、王が厳かに口を開いた。
「3日前、最後に残っていた魔族たちの撤退が確認された。我が国の脅威は完全に去ったことを、ここに宣言する!」
王妃がニコニコしながら口を開いた。
「詳細については、追って発表しますので、まずは宴を楽しんでくださいませ」
貴族たちは、ホッとしたように顔を見合わせた。
「良かったですな」「さすがは陛下だ」と囁き合う。
その後、国王の合図で乾杯が行われた。
すぐに音楽が流れ始め、贅を凝らした料理が大量に運ばれてくる。
――そんな楽しげな舞踏会が開催される中。
ローレンス第3王子は、1人王宮内にある自分の研究室にいた。
窓辺で本を読みながら、時々聞こえてくる笑い声や音楽に、ため息をつく。
(……実に、無駄なことだ)
そのまましばらく本を読んでいると、軽いノックの音が聞こえてきた。
研究室の扉が開き、豪華なドレスに身を包んだ王妃が入ってくる。
彼女は、扉の方を見ようともしないローレンスに、にっこり笑いかけた。
「ローレンス、こんなところにいたのね」
「――母上はなぜここに?」
「あなたを呼びに来たのよ。呼びにきた文官たちを、全員無視したそうじゃない」
「ご存じの通り、私はああいった派手なことが苦手ですので」
固い表情のまま答えるローレンスに、王妃が冷たく目を細めた。
「……あなた、まさかまだ気にしているの?」
「……」
「平民の娘1人の命で国が救えたのだから、安いものじゃない」
ローレンスがギュッとこぶしを握り締めた。
「……母上もご存じでしょう。彼女が死ななくても国を救える方法はあった」
「ああ、あなたのあの研究ね。バカげていると、陛下もおっしゃっていたでしょう?」
王妃がため息をついた。
「あなたも、昔のこの王宮を知っているでしょう? 夏は暑くて冬は寒い。しかも、これからどんどん暑くなるわ。平民の娘1人の命を救うために、この快適な環境を捨てるなんて、愚かだわ」
そして、彼女はふと思いついたようにローレンスの顔を見た。
「もしかして、あなたあの娘のこと気に入っていたの?」
「……」
「あらそう。平民にしては綺麗な子だったものね。よく似た子を探させてもいいのよ」
「……」
ローレンスが黙っていると、王妃がため息をついた。
「さっさと舞踏会に出席して、陛下にご挨拶しなさい」
「……」
「それと、陛下にも色々お考えがあるようだから、今後はそれに従いなさい」
「……」
王妃が彼を鋭い目で見据えた。
「自分がこの国の王族であることを、くれぐれも忘れないように」
「……わかっております」
王妃は踵を返すと、研究室を出た。
パタン、とドアが閉まる。
ローレンスは大きなため息をついた。
ポケットの中の質素なハンカチをそっと握りしめながら、外をながめる。
そして、再び大きなため息をつくと、部屋を出て舞踏会場へと歩いていった。




