デイジー、生意気な子どもにお灸をすえる
本日4話目です。
「お前なんて、魚のエサにしてやる!」
デイジーは首を傾げた。
短髪の男の子が何を言っているか、全く分からない。
彼女は、隣で表情を硬くする少年に小声で尋ねた。
「あの子、誰?」
「……ブルーノ、この村の序列1位」
「序列1位?」
少年によると、この村の子どもは序列をつけており、ブルーノは序列1位らしい。
ちなみに、「魚のエサにしてやる!」というのは、勝負の申し込み文句で、自分が知っている一番の侮辱の言葉で相手を挑発するらしい。
デイジーは、ポカンとした
どうやら、自分は勝負を申し込まれたようだ。
雑貨屋のおばちゃんに「お使い偉いね」と言われたことを思い出し、
自分が若く見えるからかな、と思うものの、それだけではない気がする。
デイジーは隣の少年に声を潜めた。
「わたし、なんで勝負を申し込まれているの?」
「……たぶん、邪魔したから」
「邪魔?」
少年によると、3日前、彼はブルーノと勝負していたらしい。
そして、勝敗がつくという段になって、デイジーが鬼の形相で「こらー!」と飛んできた。
デイジーは目をぱちくりさせた。
「じゃあ、アレは、いじめじゃなくて、勝負だったの?」
「……うん」
「で、あなたは、“魚のエサにしてやる”、って言われたから勝負を受けたってこと?」
少年がきまり悪げに目を逸らした。
「……あんなこと言われたら、黙ってられない」
どうやら、彼は意外と負けず嫌いらしい。
魚のエサって、そんなに侮辱する言葉なのだろうかと思いながら、デイジーは思案に暮れた。
4日前のアレが、いじめでなかったのは良かったとは思う。
でも、少年とブルーノは、体格差が倍くらいある。
大きな子どもが、ここまで差がある小さな子どもに勝負を挑むなんて、どうかしている。
デイジーは眉間に皺を寄せた。
(これは由々しきことよね)
村の中で序列とやらを決めるのは自由だ。
でも、無関係の人間を巻き込むのはいただけない。
まして、痩せた幼い少年に勝負をふっかけるなんて、言語道断だ。
(この子たち、ちょっとお灸をすえてやらなきゃダメだわ)
こんなの放って置いたら、ロクな大人にならない。
デイジーは、仁王立ちするブルーノを見ると、余裕の笑みを浮かべた。
「ふん、いいわよ。その勝負、受けて立とうじゃないの。あんたなんて、海の藻屑にしてやるわ!」
「な、なにい!」
ブルーノが真っ赤になった。
周囲の子どもたちが、「おお!」とざわめく。
「あいつやるな!」
「海の藻屑とか、超かっけー!」
ヒソヒソ声が聞こえてくる。
大人の語彙力をなめるんじゃないわよ、と思いながら、デイジーは不敵な笑みを浮かべた。
「で、どんな勝負するの?」
「俺とお前の、一対一だ!」
「望むところよ。ただし、1回勝負よ」
「当たり前だ!」
デイジーは持っていた籠を、少し離れた場所に置いた。
どこか不安そうな少年に、「大丈夫よ」と囁く。
「わたし、結構強いのよ」
その後、デイジーとブルーノは、10メートルほど離れた場所にそれぞれ立った。
棒を握りしめたブルーノが、ギラギラした目でデイジーを睨みつける。
デイジーは落ち着いて相手を見た。
魔力量も多いし、体格も良いが、敵意を隠せていないところがまだまだだ。
(まあ、所詮は子どもよね。ケガだけはさせないようにしないと)
少し離れたところにいる子どもたちの中から、糸目に眼鏡の頭の良さそうな男の子が一歩前に出た。
声を張り上げる。
「では、いきます! ――始め!」
ブルーノがすごい勢いで走り出した。
棒を振り上げてデイジーに殴りかかる。
デイジーは落ち着いて錫杖を前に突き出すと、静かに詠唱した。
「<発光>」
カッ、と錫杖が太陽のように光った。
ブルーノが「うわっ!」と顔を手で覆う。
そのすきに、デイジーは彼の足を素早く払った。
転んだ喉元に錫杖の先を、ビシッと突き付ける。
「はい、わたしの勝ち」
「……っ! くそっ! 卑怯だぞ! もう1回!」
悔しそうに顔を歪めるブルーノを、デイジーがギロッと睨んだ。
「1回勝負って言ったでしょ。それに、もう1回やっても勝てないことくらい分かるでしょ」
「……」
「自分より小さい子と勝負してイイ気になってる暇があったら、もっと鍛錬しなさい」
デイジーの正論に、ブルーノが、悔しそうに俯く。
彼女はブルーノから離れると、置いてあった荷物を持った。
少年に「行こう」と言うと、呆気に取られている他の子どもたちに軽く手を振る。
「あんたたちも、しっかり鍛錬しなさいよ!」
「……」
子どもたちが呆然と見守る中、デイジーは悠然と街を出た。
森の中を歩いていると、横を歩いていた少年が、ボソッと言う。
「……あの魔法、初めて見た」
「……っ!」
デイジーは思わず目を見開いた。
こんな風に少年から話しかけてくるなんて、初めてだ。
「……なんていう魔法なの?」
「光魔法よ。聖魔法の一種ね。カイヴァルミオンの周りには、聖魔法をつかえる人がいなかったの?」
少年は少し黙った後、横を向いた。
「……カインでいい」
「カイン?」
「……昔、そう呼ばれてた」
デイジーは目をぱちくりさせた。
これは、もしかして、愛称で呼んで良いということではないだろうか。
(まあ! なんてことなの!)
心の中で万歳三唱をしながら、デイジーは弾んだ声で言った。
「カインって、いい愛称ね!」
「……」
カインが無言でそっぽを向く。
デイジーはニコニコしながらその横顔をながめた。
人柄というよりは武力を評価された感じはあるが、かなり距離が近づいた気がする。
(そのうち、手とかつなげるようになるかもしれない)
ややニヤけ気味のデイジーを、カインが胡乱げに見上げる。
その後、2人は無事に山小屋に帰宅。
その日の晩は、フライパンで焼いたパンもどきと、干し肉入りのシチューを堪能した。
本日はここまでになります。
お読みいただきありがとうございます。
ガンガン飛ばしまして、明日第2章の最後までいきます。
それでは皆様、また明日!




