まずは環境をなんとかしよう
本日2話目です。
本題の3章に入るまでサクサク進めます。
少年の家に住むことが決まり、デイジーは、まずは環境を整えることから始めた。
最終目標は、魔王を優しい子に育てることだ。
でもその前に、まずは人としてちゃんと生活できるようにした方がいい。
というか、デイジーが気になってしょうがない。
(まずは、この埃だらけの家を何とかしよう)
彼女が掃除をしたいと申し出ると、少年は訝しげな顔をした。
「……なんで掃除なんて」
「“部屋の乱れは心の乱れ”って言ってね、家が汚いと心が乱れるのよ」
「……別にいいよ、乱れたって」
「まあ! そんなこと言うもんじゃないわ!」
という訳で、デイジーは少年に寝室にいるようにお願いすると、居間の掃除を始めた。
物置で埃をかぶっていた箒やハタキなどを出してきて、てきぱき働き始める。
(これだけ汚れていると、やりがいがあるわね!)
鼻歌を歌いながら手を動かしていると、寝室の扉が小さく開いて、少年が顔を覗かせた。
デイジーをジッとながめる。
「……なにしてるの?」
「床の埃を掃いているのよ」
「……ふうん」
少年は興味なさそうな顔で、寝室に引っ込む。
しかし、その後も彼はたびたび扉を開けて、のぞいてきた。
最初は怪しんでいるのかと思ったが、どうもそうではないらしい。
(もしかして、やってみたい……?)
物は試しと、デイジーは扉のすき間に声を掛けた。
「ちょっとお水出してもらってもいい?」
少年は、仕方ないなという顔で寝室から出てきた。
水色の魔法陣を上空に出現させると、古い木桶を水で満たす。
「ありがとう、これで水を汲みに行かなくて済むわ」
「……」
少年は無言で目を横に逸らした。
寝室に戻ろうと踵を返すものの、何となく背中が戻りたくなさそうだ。
(……もうちょっと手伝ってもらってみようかな)
デイジーは控えめに口を開いた。
「もし良かったら、もう少し手伝ってくれる?」
「……」
少年が、まあいいよ、という風にこくりとする。
その後、デイジーは様子を見ながら仕事を頼んだ。
水魔法やブラシを使って、泥だらけのバルコニーや、雲った窓を綺麗にしてもらう。
少年はとても器用で、教えればすぐに出来るようになった。
身体能力も高く、6歳の見た目とは思えないほど優秀だ。
デイジーは感心した。
(魔族ってすごいのね)
このままいけば、お掃除上手な魔王になるかもしれないわね、と思う。
――そして、お昼になって、デイジーは豆のおかゆを作った。
少年と一緒に食べながら、彼女は満足げに周囲を見回した。
埃っぽかった室内が綺麗に掃除され、空気も爽やかだ。
少年も満更でもないようで、すっきりした部屋をチラリと見て、どこか嬉しそうな顔をする。
デイジーはドヤ顔をした。
「ね? 綺麗にすると気持ちがいいでしょ?」
「……別に」
「食事も美味しく感じるわよね!」
「………………別に」
スプーンを動かしながら、少年が目を逸らす。
内心おかしく思いながら、デイジーは彼を見つめた。
(この子って、結構素直なところがあるわよね)
頼めば「仕方ないな」という顔をするが、ちゃんと伝ってくれる。
お礼を言ったり褒めたりすると、照れたように横を向く。
(未来の魔王も、子どもの頃はちゃんと可愛かったのね)
その後、デイジーは食事をしながら、今後のことについて考え始めた。
部屋の掃除は大体終わったから、次は、少年のボロボロの服を何とかしないとね、と思う。
(あと、石鹸とか調味料なんかも欲しいわよね)
ピヨールに教えてもらった村に行けば、売っているかもしれない。
(よし、買いに行こう!)
善は急げと、デイジーは立ち上がった。
食事の片づけをしたら、早速村に行ってみようと思う。
しかし、彼女は、ふと気が付いた。
そういえば、自分の持っているお金は果たして使えるのだろうか。
聞いた方が良さそうだと、彼女は少年に尋ねた。
「このあたりって、どんなお金使っているの?」
「お金?」
「ええ、来たばかりだから、このあたりの事情が分からないの」
少年は少し考えると、立ち上がった。
隣の部屋に行って、小さな革袋を持ってくる。
「これ」
デイジーが受け取って中を見ると、男性の顔の模様の金貨や銀貨が入っていた。
彼によると、ここに来る前に持たされたもので、使ったことはないらしい。
デイジーは硬貨を見つめた。
彼女の持っているお金とは、明らかに模様や形が違い、使えなさそうだ。
デイジーは少年を見た。
「申し訳ないんだけど、このお金、使わせてくれる? 後で絶対に返すから」
「……いいよ、どうせ俺は使わないし」
少年が、ボソッと言う。
デイジーは、「ありがとう!」とお礼を言った。
再び立ち上がると、さあ、出掛けるわよ! と思う。
しかし――
ザー
突然、外から雨の音が聞こえてきた。
窓の外をうかがうと、空がいつの間にか暗くなっており、針のような雨が降っている。
デイジーはため息をついた。
(これは、しばらくやみそうにないわね……)
今日は家の掃除をして、明日村に行こう。
その後、雨の音を聞きながら、デイジーは寝室と物置の掃除をした。
少年は気がない様子ではあるものの、何だかんだで手伝ってくれる。
そして、家がすっかり綺麗になった頃には、外はすでに暗くなっていた。




