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千年前に戻った聖女は、最凶魔王を『お花の好きな優しい子』に育てることにした!  作者: 優木凛々
第2章 デイジーは、最凶魔王を”お花の好きな優しい子”に育てることにした!

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少年カイヴァルミオン


本日1話目です。


 デイジーが少年の家に来た、その翌朝。


 居間のソファで寝ていたデイジーは、朝の光で目を覚ました。

 体を起こすと、大きく伸びをする。



(意外とよく眠れたわね)



 隣の寝室の扉をそっと開けると、少年が毛布にくるまって眠っていた。

 昨晩は何度もうなされていて心配だったが、今は寝息も穏やかだ。



(良かった、落ち着いたみたい)



 デイジーは、ホッとしながら、静かに扉を閉めた。


 居間の窓をガタガタと開けると、森の香りのする湿った空気が流れ込んでくる。

 周囲を囲む森は、朝日を浴びて輝いており、とても美しい。



(家はボロボロだけど、気持ちが良いところよね)



 彼女はしばらく外を眺めた後、古い台所に向かった。

 とりあえず朝食でも作ろうと、昨日採ってきた食材でスープを作り始める。


 古びた黒鍋をかき混ぜながら、デイジーは思案に暮れた。



(どこに住むか決めないとね)



 少年を優しい子に育てるなら、ここに居候させてもらうのが一番だ。



(でも、あの子から見て、わたしって、よく分からない他人よね)



 そう簡単に居候させてくれるとも思えない。


 ピヨールによると、ここから少し離れたところに魔族の村があるらしい。

 魔族の村というと、ちょっと怖い気もするが、いざとなったらそこに住まわせてもらいつつ、この家に通おう。



(まずは、あの子に聞いてみて、それからね)



 そんなことを考えながら、スープをぐつぐつ煮ていると、



 ……ガチャ



 背後で、扉を開ける音がした。

 振り返ると、少年がドアの隙間からこちらを覗いていた。

 アイスブルーの目の奥に、驚きと警戒の色が見える。



(なんだか孤児院に初めて来た子みたいね)



 デイジーは、にっこり笑った。



「おはよう、どこか痛いところはない?」

「……」

「ご飯にするから、そこに座ってくれる?」



 少年は、鼻を動かして匂いをかいだ。

 我慢できないといった風に寝室から出てくると、席に座る。


 デイジーは、湯気の立つスープをテーブルの上に置いた。



「どうぞ。熱いから気を付けてね」



 少年は慎重に匂いを嗅ぐと、ぱくりと食べた。

 お腹が空いていたらしく、はふはふと夢中で食べ始める。


 デイジーはその正面に座ると、ニコニコしながらスープを食べ始めた。

 なかなか美味しくできたわね、と思いながら、少年の顔をそっと見る。



(この子、すごく綺麗な子ね)



 6歳くらいだとは思うが、肌も髪も美しく、人間にはない端正さがある。



(小さい頃でこれなんだから、大人になったら、ざぞカッコいいでしょうね)



 魔王って実はイケメンだったのかな、など考えながらスプーンを動かす。




 しばらくして、少年は満ち足りた顔でスプーンを置いた。

 おかわりは要るかと尋ねると、「おなかいっぱい」というように首を横に振る。


 そして、警戒するようにデイジーを見た。



「あんた……何者だ? ここに?」



 そう言われて、デイジーは思わず目を見開いた。



(まあ! わたしったら、自己紹介していなかったわ!)



 この時代に飛ばされてきて以来、魔王が子どもになっていたり、騒がしい黄色い鳥がやってきたりと忙しすぎて、当たり前のことを忘れていた。


 彼女は慌てて座り直すと、ぺこりと頭を下げた。



「名乗りもせずに、勝手にお邪魔してごめんなさい。わたしの名前は、デイジー。昨日、倒れていたあなたを、ここまで運んできて、そのままここにいる感じよ」



 少年は考え込むように黙り込んだ。

 何か思い出したのか、雰囲気は少し柔らかくなるが、警戒は解けない。



(せめて名前くらい先に名乗るべきだった……)



 デイジーは、反省しながら席を立った。

 とりあえず、食事の片づけをしようと台所に向かうと、少年に声を掛ける。



「食べたお皿、持ってきてくれる?」



 少年が戸惑うように身じろぎした。

 少し考えた後、黙ってお皿を持ってきてくれる。


 デイジーは「ありがとう」とそれを受け取ると、腕をまくった。

 古びた流し台に向かうと、水の入った水差しを傾けようとする。


 後ろに立っていた少年が、訝しげな顔をした。



「……何してるの?」

「水でお皿を洗うのよ」



 少年が眉をひそめた。

 少しの間黙った後、手を軽く上げると、静かに詠唱する。



「<水よ>」



 次の瞬間、洗い場の上に水色の輝く魔法陣が浮かびあがった。

 そこから水が、ジャーっと流れる。


 デイジーは目を見張った。



(これは、水魔法!)



 デイジーは「ありがとう」と言うと、洗い物を始めた。

 洗い終わると、少年が手を下ろして水を止める。


 デイジーは感心した。

 こんな小さな子が魔法を使っているところなんて、見たことがない。



「あなた、すごいわね!」

「別に……、ただの水魔法だ」



 少年がぷいと横を向いた。

 どこか照れた様子に、子どもらしさのようなものを感じる。


 頼むなら今な気がして、デイジーは、少年の前にしゃがみ込んだ。

 目の高さを揃えると、口を開く。



「実は、1つお願いがあるんだけど、――わたし、ここに住まわせてもらえないかしら」



 少年が「は?」という風に目を瞬かせた。



「……なんで?」

「ええっと……わたし、家がないの」



 デイジーが正直に答えると、少年は面食らった顔をした。

 しばらく黙り込んだ後、どうでもいいと言わんばかりに、口の端を歪めて仄暗く笑う。



「……別にいいよ。どうせ俺には、殺す価値もないし」



 デイジーは、内心苦笑した。

 たぶん、この子は自分のことがどうでもいいんだろうな、と思う。



(まあでも、住まわせてもらえるのだもの。ありがたいことよね)



 デイジーが笑顔で言った。



「ありがとうね。改めまして、わたしの名前は、デイジーよ。あなたは?」

「……カイヴァルミオン」

「じゃあ、これからよろしくね、カイヴァルミオン」



 少年はデイジーの顔をチラリと見ると、無言で横を向いた。






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