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(なんだいなんだい。急に帰ってきたかと思ったらそんな重そうな本読みだして)
いいの!今、あたしは忙しいの!後にして!
(何をそんな熱心に読んでるんだい?……なになに。ちょこれーとのつくりかた?なんだ
い、ちょこれーとってのは?)
あたしにもよくわからない。でも、これをもらうと嬉しい日があるんだって、マコト君
が教えてくれたの。だから、あたしも作ってみようかと思って。
(あんたが?人間に?ちょこれーとを?ぷっはははは!まさか、そこまで本気だとはね)
なんとでもいって!今はこれを完成させて、マコト君の笑顔を見るんだから!
あたしは今までこんなに本気になって取り組んだことはあったかな。泣き虫と言われ、不吉と忌み嫌われてきた。だいたい、あたしを見ると驚くのが当たり前だったのにマコト君は違った。あたしをみても驚くどころか笑ってくれた。その笑顔にあたしはきっと恋をしたんだ。とってもまぶしいお日様みたいなぬくもりのあの笑顔。絶対に守りたい。あたしが泣いたらっていうこと、嘘だって言わせてやるんだから。だから、だから……っ!
(なぁに泣いてるんだい。ちょっとからかっただけじゃないか)
……ううん。そうじゃない……そうじゃないの……。
(あたしも手伝ってあげっから。泣くなって)
……ありがと。ありがと。
(んで、なにをしたらいいんだい)
えっと……この本によると……。
あたしは本に書いてるものをすぐにそろえて、友達と一緒に読んで試して失敗してを繰
り返した。
(ありゃ。また失敗か)
次は間違えないように気を付ける。えっと、これをこうして……こうかな。
(そこで間違えたんだ。しっかりおし)
……できた!次は……こうかな。
(そうそう。落ち着いて……できたじゃないか)
あとは、これを固める?冷やすって書いてあるのかな。冷やすもの?冷やすもの……。
(寒いところに置いておけばいいなじゃいないかい?)
そうか。思い当たるところがあるから、持って行ってみる。
(こぼすんじゃないよ)
あたしが初めて、本気で作ったちょこれーと。マコト君……受け取ってくれるかな。
これが固まったら包んで持っていくんだ。
次の日。固まったちょこれーとを隠してマコト君がいる白い建物へ行ってみた。すると、昨日までのきらきらした表情はどこにいっちゃったのかな……ずんと重たい表情になってた。
「やぁ、バンシー。来てくれたんだ」
(マコト君……どうしたの?元気がないよ……)
「うん……手術の日が決まってね。怖くなってきたんだ」
(……)
あたしはなにも言えなかった。なんて声をかけていいかわからなかった。
「でも、バンシーがきてくれたから怖くないよ。来てくれてありがとう」
(ううん。あたしも、マコト君に会いたかったし……)
「僕に?」
(うん。あたしを見ても驚かなかった人、マコト君が初めてだったの。あたしの事を可愛
いって言ってくれたのマコト君が初めてなの。あたし、本気で何かに取り組んだの初め
てだったの。だから……)
背中に隠しておいた包みをマコト君に向けた。初めて作った贈り物。届いて……!
「バンシーが作ってくれたの?このチョコレート」
(うん。昨日、帰ってから作ったの。うまくできたかわからないけど……一生懸命作っ
たの。受け取って……くれますか……?)
しばらく風の吹く音が長く感じるくらい時間が経った気がする。どうしよう……受け取ってもらえなかったら……。その時、手から重みが消えた。えっ……もしかして……。
「ありがとう、バンシー。喜んで受け取るよ。僕の為につくってくれて本当にありがとう」
(ま……マコト君……っ)
嬉しくて……嬉しくて目の前が急にぼやけだした。いつもぼやけるのには慣れてる筈な
のに……。この時はどうしても止まらなかった。
「バンシーったら大げさだなぁ。そんなに泣くことないじゃないか」
(だって……だって……嬉しくて泣いたのも……初めてなんだもん……受け取ってくれて
ありがとう……マコト君……ありがとう)
「僕からもありがとう。包み、開けてもいいかな?」
(……うん)
がさがさと包みを開けて、中身を見たマコト君の顔はぱっと明るくなった。ずんと重か
った表情が晴れたようにも見えた。
「……これ、本当に作ったの初めてなの?」
(そう……だけど。なにかおかしかった?)
「いや……初めてにしてはすごく上手だなぁって……いただきます」
パキッ
どろどろだったものが乾くとあんな心地よい音になるんだって知った時だった。口に含んだちょこはポリポリと音を変えて次第に消えていった。
「……美味しいよ。バンシー。ありがとう」
ちくちくっ
あの痛みがあたしの胸を容赦なくいじめてきた。もう……我慢できないよ……。
(あっ!あのっ!マコト君!あたし……マコト君の事が……好き……です)
「バンシー……」
自分でも何を言ってるんだろう。急に顔が火照ってきて、なんだか落ち着かない……。
「バンシー。僕のこと、好きといってくれてありがと。僕も、ここまで僕の事を心配して
くれるバンシーの事が好きだよ」
ドクンッ
……もう、マコト君……ずるいよ……そんな笑顔で言われたら……あたし……。
ピー ピー ピー
突然、マコト君のそばにあった機械から大きな音が出た。何が起きたの?
「マコト君?マコト君?大変、急変してるっ。ちょっと誰かいない?今すぐオペよ!」
この前話してた女の人がすごく慌ててた。……もしかして……っ!
しばらくしたら数人が集まってマコト君をどこかに運んでいっちゃった……。
(マコト君……どうか……)
あたしは必死に祈った。またマコト君の笑顔が見たい、またマコト君の声が聞きたい、
まだまだマコト君とお話したいことたくさんあるのに……どうか……無事で帰ってきて。




