予選を〇す
六日後。
覇王祭の予選当日。
中央大闘技場の周囲にある八つの試合場は、早朝から観客で埋め尽くされていた。
予選に参加する闘士は、百二十八名。
十六名ずつ八組に分けられ、同時に戦う。
武器の使用は自由。
相手を殺しても罪には問われない。
気絶、降参、場外のいずれかで失格。
最後まで残った二名が、本戦へ進む。
レンは大闘技場の職員用通路ではなく、参加者用の地下通路を歩いていた。
灰色の作業着は着ていない。
身体を包むのは、何の印もない黒い服。
顔の上半分は、ドルグに用意させた革製の仮面で隠している。
胸元には、四百十二と刻まれた黒鉄の札が下がっていた。
受付にいた男が、レンの身体を調べる。
袖。
腰。
靴の内側。
仮面も一度外され、魔法や武器が仕込まれていないことを確認された。
「武器は?」
「ない」
「素手で出るのか?」
「ああ」
受付の男が顔を上げる。
「死んでも知らんぞ」
「そのための同意書だろ」
レンが署名した紙を示す。
男は肩をすくめ、通路の先を指差した。
「第七試合場。四組目だ」
レンは仮面をつけ直し、地下通路を進んだ。
途中にある控え場所には、すでに十数人の闘士が集まっている。
鎧を着込んだ者。
魔法杖を握る者。
毒を塗った短剣を確認する者。
その中で、武器も防具も持たないレンは明らかに浮いていた。
「おい」
壁際にいた男が声をかけてくる。
銅級闘士の札を腰へ下げている。
「その格好で出るのか?」
レンは答えなかった。
「聞こえてねぇのか、仮面野郎」
男が肩へ手を伸ばす。
レンは身体を半歩ずらした。
男の手が空をつかむ。
「試合前の喧嘩は禁止されている」
「あ?」
「ここで失格になりたいなら、続けろ」
近くに立つ係員が、こちらを見ている。
男は舌打ちし、手を引いた。
「試合が始まったら、最初に殺してやる」
レンは返事をしなかった。
通路の奥から歓声が響く。
先に行われていた第三組の予選が終わったらしい。
血まみれの闘士たちが、担架で運ばれてくる。
自分の足で戻ってきたのは二人だけだった。
その一人が、ドルグだった。
額から血を流している。
左肩の革鎧は裂け、腰に下げていた剣も失っていた。
それでも、黒鉄の札は残っている。
本戦進出者であることを示す、赤い紐が結ばれていた。
ドルグはレンに気づいた。
視線が一瞬だけ止まる。
だが、声をかけることなく横を通り過ぎていった。
人前では他人として振る舞え。
命じたとおりだった。
「四組目! 入場しろ!」
係員の声が飛ぶ。
レンを含む十六人が、鉄格子の前へ並んだ。
格子が上がる。
眩しい日差しと、観客たちの歓声が地下通路へ流れ込んできた。
第七試合場は、中央大闘技場よりも小さい。
それでも、数千人分の観客席が円形の試合場を取り囲んでいた。
地面は固い土で覆われている。
ところどころに、前の試合で落とされた武器や折れた矢が残っていた。
試合場の中央へ、十六人が広がる。
レンは最も外側に立った。
観客席から笑い声が上がる。
「何だ、あの仮面!」
「武器も持ってねぇぞ!」
「逃げる場所を間違えたんじゃねぇか!」
レンは観客席を見なかった。
十六人の立ち位置を確認する。
正面に、先ほど控え場所で絡んできた銅級闘士。
右側には、二本の短剣を持った女。
左側には、鎖付きの鉄球を持つ男。
中央には、ほかの闘士より頭二つ分大きな大男が立っていた。
背中には巨大な斧。
腰に下げた札は銀色だった。
「銀級闘士、剛斧のガウル!」
解説役の声が、拡声魔法で試合場へ響く。
観客席から、ひときわ大きな歓声が上がった。
ガウルは斧を肩へ担ぎ、周囲を見回す。
その視線がレンで止まる。
武器を持たない相手には興味がないらしく、すぐに逸らされた。
試合場を見下ろす貴賓席には、ザグナが座っていた。
右腕には、まだ薄い固定具が巻かれている。
ほかの参加者には目も向けず、レンだけを見ていた。
鐘が鳴る。
十六人が一斉に動いた。
正面にいた銅級闘士が、宣言どおりレンへ向かってくる。
手にしているのは長槍だった。
「仮面ごと貫いてやる!」
顔を狙った突き。
レンは横へ動き、穂先を避けた。
反撃はしない。
背中を向け、試合場の中央へ逃げる。
「待ちやがれ!」
男が追う。
二度目の突き。
レンは振り返ることなく、身体を低くした。
槍の穂先が、頭の上を通り過ぎる。
その先には、斧を振り上げたガウルがいた。
「邪魔だ!」
巨大な斧が振り下ろされる。
槍の柄が中央から砕けた。
勢いを止められなかった男の肩へ、斧の側面が直撃する。
骨の砕ける音。
男の身体が宙を舞い、試合場の外へ落ちた。
一人目の失格。
ガウルがレンを見る。
「てめぇ、狙ったな?」
レンは答えず、別の闘士の陰へ入った。
ガウルが追おうとする。
その横から、戦槌を持った男が襲いかかった。
「銀級を倒せば、俺の名が上がる!」
「面白ぇ!」
ガウルの興味が、そちらへ移る。
斧と戦槌が激突した。
土煙が上がる。
レンはその場を離れた。
試合場の各所で、すでに戦いが始まっている。
炎が走る。
矢が飛ぶ。
剣同士がぶつかる。
レンは誰とも正面から戦わなかった。
狙われれば逃げる。
別の闘士が近くにいれば、その背後へ回る。
追ってきた者が相手を変えれば、すぐに距離を取る。
観客席から罵声が上がった。
「戦え!」
「逃げてるだけじゃねぇか!」
「仮面を剥がせ!」
レンは気にしなかった。
三人。
五人。
八人。
倒れる者が増えていく。
誰がどの武器を使うのか。
誰が負傷しているのか。
誰と誰が互いを警戒しているのか。
逃げながら、すべて記憶していた。
残りが七人になったところで、鎖付きの鉄球がレンへ飛んできた。
避けた先を狙うように、鎖が横へ曲がる。
レンは地面に落ちていた折れた槍を拾った。
鉄球ではなく、伸びている鎖へ柄を差し込む。
槍を地面へ立てる。
鎖が柄へ巻きついた。
「捕まえたぞ!」
鎖使いが両腕で引く。
レンは抵抗しなかった。
槍から手を離す。
巻きついた鎖と折れた槍が、鎖使いのほうへ飛んでいく。
その途中にいた魔法使いの足へ絡みついた。
「なっ――」
体勢を崩した魔法使いの杖から、炎が誤った方向へ放たれる。
鎖使いの全身が火に包まれた。
男が絶叫し、鎖を手放す。
その背中へ、別の闘士の剣が突き刺さった。
二人が倒れる。
残り五人。
レンは地面へ落ちた鎖を拾った。
右側から足音が迫る。
二本の短剣を持った女だった。
レンが鎖を拾う瞬間を待っていたらしい。
一歩目から、首を狙っている。
レンは鎖を捨て、後方へ下がった。
短剣が喉の前を通り過ぎる。
二本目が腹へ向かう。
身体をひねる。
刃が衣服を裂き、左腕の外側を浅く切った。
血が流れる。
女は止まらない。
三度目の斬撃。
レンは避けきれない。
落ちていた小型の盾を拾い、刃を受けた。
短剣が盾へ突き刺さる。
女が引き抜こうとした瞬間、レンは盾を手放した。
武器ごと重さを増した右腕が下がる。
空いた脇腹へ、レンが蹴りを入れた。
女の身体が横へよろめく。
追撃はしない。
レンは再び距離を取った。
「逃がすか!」
女が盾から短剣を抜き、あとを追う。
残り四人。
レン。
双剣使いの女。
ガウル。
そして、片手剣を持った男。
ガウルの斧が、片手剣の男を捉えた。
胸当てごと身体が切り裂かれる。
男が倒れた。
残り三人。
次に一人倒れれば、試合は終わる。
ガウルが斧を引き抜き、レンへ顔を向けた。
「さっきから、ちょこまか逃げやがって」
双剣使いの女も、レンを見ていた。
このままガウルと戦うより、先にレンを倒して二人で勝ち抜く。
考えることは同じらしい。
二人が左右から近づいてくる。
レンは試合場の端へ下がった。
背後には、場外を示す白い線。
逃げ道はない。
観客席が沸く。
「終わった!」
「仮面野郎を殺せ!」
「ガウル! 叩き潰せ!」
女が先に動いた。
低い姿勢で距離を詰める。
左の短剣で逃げ道を塞ぎ、右の短剣で胸を狙う。
レンは白線に沿って横へ走った。
女が追う。
その先から、ガウルが斧を横薙ぎに振るった。
レンと女を、まとめて吹き飛ばすつもりだった。
女の顔が強張る。
ガウルが自分まで狙うとは思っていなかったらしい。
レンは走る速度を落とした。
女との距離が詰まる。
振り返り、短剣を持つ右手首へ自分の左腕を絡めた。
力で止めることはできない。
女の踏み込む勢いを利用し、身体の向きだけを変える。
レンと女の位置が入れ替わる。
直後。
ガウルの斧が女の背中へ直撃した。
革鎧が裂ける。
女の身体がレンの頭上を越え、場外へ飛んでいった。
レンは地面へ伏せる。
斧の刃が、仮面の上を通り過ぎた。
終了を告げる鐘が鳴った。
『決着!』
解説役の声が響く。
『第四組、本戦進出者――銀級闘士、剛斧のガウル!』
観客席から歓声が上がる。
『そして――四百十二番!』
歓声よりも、罵声のほうが大きかった。
「ふざけるな!」
「一人も倒してねぇだろ!」
「逃げてただけじゃねぇか!」
レンは立ち上がった。
実際には、一人も自分の手で倒していない。
だが、最後まで試合場に残った。
予選を通過する条件は、それだけだった。
ガウルが斧を持ち上げる。
「こんな奴と一緒に勝ち上がりだと?」
試合は終わっている。
それでも、レンへ近づいてくる。
係員たちが止めようとするが、ガウルは聞かない。
「次に会ったら、真っ先に殺してやる」
「次があればな」
レンが初めて答える。
ガウルの眉が動いた。
斧を振り上げる。
その瞬間、貴賓席から大きな笑い声が響いた。
「はははははっ!」
ザグナだった。
腹を抱え、心底楽しそうに笑っている。
「いいじゃねぇか! 誰が何人倒したかなんて関係ねぇ!」
観客たちの罵声が止まる。
ザグナが身を乗り出した。
「最後に立ってた奴が勝ちだ! それが気に入らねぇなら、次はお前が殺せばいい!」
ガウルは斧を下ろした。
「……本戦で会おうぜ、四百十二番」
レンは何も答えず、試合場を出た。
地下通路へ戻る。
左腕の傷から、まだ血が流れている。
治療師が近づいてきた。
「傷を見せろ」
「必要ない」
「化膿して腕を失っても知らんぞ」
「自分で処置する」
治療師を避け、そのまま参加者用出口へ向かった。
控え場所には、ほかの組の参加者が大勢いる。
ここで仮面を外すことはできない。
外へ出ても、試合を見ていた観客がいる。
職員寮へ戻れば、四百十二番とレンが同じ傷を負っていることを誰かに見られる可能性があった。
レンは大闘技場の裏手へ回った。
職人区へつながる細い路地を進む。
向かった先は、ガルド工房だった。
前日、ミレアは商工連合の馬車で西側の炉場へ行くと言っていた。
戻るのは夜になるはずだった。
正面には回らない。
建物の横へ入り、預けられた鍵を裏口へ差し込む。
扉を開け、中へ入った。
誰もいない。
レンは扉を閉め、仮面を外した。
背筋を伸ばす。
作業台にあった清潔な布を手に取り、左腕の傷へ巻く。
深くはない。
血さえ止まれば、仕事に支障は出ない。
黒い服を脱ぎ、持ち込んだ作業着へ着替えようとしたときだった。
裏口の鍵が回る。
レンの手が止まった。
扉が開く。
炭の入った小袋を抱えたミレアが立っていた。
視線が、レンへ向く。
次に、作業台に置かれた革の仮面。
血のついた黒い服。
四百十二と刻まれた黒鉄の札へ移る。
袋が床へ落ちた。
「……誰?」
ミレアは反射的に腰の金槌を抜いていた。
レンは答えなかった。
隠し通すことはできない。
「ミレアさん」
聞き慣れた声に、ミレアの目が見開かれる。
「レン……?」
レンは仮面を作業台へ置いた。
「すみません。戻るのは夜だと聞いていたので」
「炉場の責任者が来なかったから、予定がなくなったの」
ミレアは金槌を下ろさない。
「何で、あんたがそんな格好してるの」
レンは黒鉄の札を手に取った。
「覇王祭の予選に出ていました」
「四百十二番として?」
「はい」
返事をした瞬間、ミレアの表情が変わった。
声が震えていない。
言葉にも詰まっていない。
「その喋り方……」
ミレアが呟く。
「いつものは何なの?」
レンは答えなかった。
「何で黙ってるのよ」
「戦えることを、隠していた」
「それは見れば分かる!」
ミレアの声が工房へ響く。
「聞いてるのは、どこまでが嘘だったのかってことよ!」
レンは作業台から離れた。
ミレアへ近づかない。
金槌が届かない位置で立ち止まる。
「全部ではない」
「じゃあ、何が本当なの?」
「俺が強くないことだ」
ミレアが黒い服を見る。
「大会へ出ておいて?」
「力では、銅級闘士にも勝てない。正面からガウルと戦っていれば、数秒で負けていた」
「それでも、本戦に残ったんでしょ」
「戦い方を知っているだけだ」
「同じじゃない」
「違う」
レンの声は静かだった。
「殴られるのが怖いことも、争いを避けたいことも嘘ではない。勝てない相手へ正面から逆らわないのも本当だ」
「じゃあ、何で大会なんかに出たのよ」
「金が必要だから」
「賞金?」
「ああ」
レンは視線を落とした。
「この街では、一人で自分を守れないなら、集団の力を借りる。それもできないなら、せめて金を持つしかない」
以前、ミレアが話した言葉だった。
「俺には、頼れる人間がいない」
「……私は?」
ミレアが言った。
レンが顔を上げる。
「ここへ逃げてくればいいって言ったでしょ。鍵だって渡した」
「…これ以上迷惑をかけたくなかった」
ミレアが口を閉ざす。
怒りが消えたわけではない。
それでも、握っていた金槌が少しだけ下がった。
ミレアは、普段とは違うレンの顔を見つめた。
怯えた表情もない。
視線を落とすこともない。
それでも、逃げることなく自分の答えを待っている。
「……今の話を、全部信じたわけじゃないから」
「それで構わない」
「嘘をつかれてたことも、まだ怒ってる」
「ああ」
「正直に返事をすればいいってものじゃないのよ」
「じゃあ、どう答えればいい?」
「それを私に聞かないで」
ミレアは小さく息を吐いた。
金槌を腰へ戻す。
「座って」
「何を――」
「腕、血が出てるでしょ」
ミレアは床へ落とした袋を拾い、作業台へ置く。
戸棚から薬と新しい布を取り出した。
「自分でできる」
「さっき巻いた布、緩すぎる。あんた、怪我の手当ては下手ね」
「動かせれば十分だ」
「よくない」
ミレアは椅子を蹴り、レンの前へ出した。
「早く座って。まだ許したわけじゃないんだから」
レンは言われたとおり腰を下ろした。
左腕を差し出す。
ミレアは血のついた布を外し、傷を洗った。
薬が触れ、鋭い痛みが走る。
レンの腕がわずかに動く。
「痛い?」
「問題ない」
「それも嘘?」
「これは本当だ」
「もう、何を信じればいいのか分からないわ」
ミレアは不満そうに言いながら、新しい布を巻いていく。
手つきは丁寧だった。
「予選、どんな戦い方したの?」
「ほとんど逃げていた」
「それで勝てるの?」
「最後まで立っていれば」
「……聞かなきゃよかった」
包帯を結び終える。
ミレアは作業台に置かれた仮面を手に取った。
表面には、ガウルの斧が通り過ぎた際についた傷が残っている。
革紐も一部が伸びていた。
「次の試合は?」
「三日後」
「それまで預かる」
「仮面を?」
「この紐じゃ、引っ張られたらすぐ外れる。もう少し丈夫なものへ替えるわ」
「必要ない」
「私が必要なの」
ミレアが睨む。
以前、食事を渡されたときと同じ言葉だった。
「私だけが正体を知ってるのに、試合中に仮面を剥がされたら、黙ってる意味がないでしょ」
「誰にも言わないのか」
「言ってほしいの?」
「いえ」
「だったら言わない」
ミレアは仮面を工具箱の横へ置いた。
「でも、もう私の前でまで気弱なふりをするのはやめて」
「……分かった」
「急に別人みたいになるのも気味が悪いけどね」
「どうすればいいんだ」
「それくらい自分で考えなさいよ」
レンは懐から工房の鍵を取り出した。
机の上へ置く。
「これは返す」
ミレアの手が止まった。
「今日、許可なく工房へ入った。預けておくべきではない」
「怪我を隠すために使ったんでしょ」
「ああ」
「私が帰ってこなかったら、黙って出ていくつもりだった?」
「ああ」
「正直に答えればいいってものじゃないからね」
ミレアは鍵をつまみ上げた。
レンへ差し出す。
「持ってなさい」
「いいのか」
「よくない」
「どっちだ」
「勝手に使ったことは許してない。でも、怪我したときに逃げ込む場所が必要だったのも本当でしょ」
ミレアはレンの掌へ鍵を押しつけた。
「次からは、せめて先に言って」
「追われている場合は?」
「そのときは勝手に入っていい。床を血だらけにしないなら」
「分かった」
「本当に分かってる?」
「たぶん」
「そこは、わかったって言いなさいよ」
レンは鍵を握った。
「ありがとう」
今度は、声を震わせなかった。
ミレアは少しだけ不満そうな顔をしたあと、作業台の黒い服を指差した。
「それ、裏で洗ってきなさい。血が残ったまま持ち歩いたら、誰かに怪しまれるわよ」
「ああ」
「あと、今日は表から帰らないで。裏道を使って」
「ああ」
「それから――」
「まだあるのか」
「あるわよ。こっちは急に秘密を押しつけられたんだから、少しくらい言うことを聞きなさい」
ミレアは頬を膨らませた。
レンは黒い服を手に取り、工房の奥へ向かう。
背後から、ミレアの声が飛んできた。
「レン」
足を止める。
「次の試合も、ちゃんと戻ってきなさいよ」
レンは振り返らなかった。
「努力する」
「そこも、【ああ】でしょ!」
工房を出たのは、日が沈んだあとだった。
洗った黒い服は袋へ入れている。
左腕には、ミレアが巻いた包帯。
懐には、再び預けられた鍵。
第一印象というものは大きい、ミレアの前でわざわざ子供を助けたのが功を奏した。
まだ任務を遂行するためにはミレアの協力が必要であった
レンは職人区を抜け、大闘技場の前へ向かった。
予選を通過した十六人の組み合わせが、掲示板へ張り出されている。
一回戦。
第一試合。
銀級闘士ガウル対、槍使いヴァン。
第二試合。
魔法闘士セラ対、斧使いドラン。
名前と番号が並ぶ中、レンは自分の対戦相手を見つけた。
四百十二番。
その向かいに記されていたのは、銅級闘士ハイゼ
三日後。
木札の雑用係レンではなく、四百十二番として。
本戦へと足を進める




