クラス
意外としか言いようが無かった。
それは入学式で、新入生代表の答辞を行った新入生が、木原桜華だったという事にだ。
木原桜華とは、実技試験の控え室で一度だけ出会っている。その時は魔法学校で新入生代表を任される雰囲気など、微塵も出していなかったのだが……。
俺はそんな事を考えながら、入学式で発表された教室に向かっている。
魔法学校にはA~D組まであり、クラス人数はAクラスのみ三十人で構成せれていて、他のクラスは五十人で構成されている。
A組が入試の成績が優秀な生徒達が集まっている組で、次にB、C、Dとなっている。
俺とまりんは、幸いにもA組だった。
まりんは、入試が終わった時には浮かない表情をしていたのに、蓋を開けてみたら優秀なA組という結果だ。
「てめぇ」
A組の教室の扉を開けようとしたそんな時だった。突然、「てめぇ」の一言と共に肩を掴まれた。
俺にはこの声の主に覚えがあった。
そう、高宮だ。
しかも、このタイミングで怒気を含んだ「てめぇ」の一言だ。おそらくというか確実に、お前はまりんと何故一緒に居るのかと聞きたいのだろう。
俺は無言で振り向いた。
「お前やっぱり青髪の女と知り合いだったじゃねぇか」
怠い。いずれはこうなると思っていたが、いざ対面してみると、怠い以外の何物でもない。
自分が問題を先延ばしにしたせいでもあるが。
「知り合いだが、何か?」
俺はこれ以上誤魔化す事は出来ないと思い、素直に白状した。
俺のこの発言は、火に油を注ぐような行為でしかない。
今まで知らないと言っていた人が、「知り合いだが、何か?」と開き直るような発言をすれば、誰でも怒りを覚えるだろう。
だが、俺にはとある作戦がある。その為には一度高宮を怒らせる必要がある。その作戦とは、この場を借りて高宮の性格を矯正するという作戦だ。
「てめぇぇえええ」
案の定高宮は、獣が発する雄叫びの様な怒り声を上げた。
ここまで来れば、殆ど作戦は成功に近い。
「いや、落ち着け。あと、耳を貸せ」
「あぁん?これが落ち着い……」
「良いから耳を貸せ。お前に得がある話だぞ」
俺は高宮の言葉に被せる様に、「得がある話だぞ」とその部分を強調し、そう言った。
「おーん.……どんな話か聞かせてもらおうじゃねぇが」
「高宮は短気だろ?それを治さないと、女の子とろくに話する事さえ出来ないぞ」
「そんなのやってみないと分からないだろ?」
「ほら、お前の言う青髪の女の子を見てみろ」
高宮は俺の話に納得がいっていなかったので、現実を見せる事にした。
「見ろって……」
高宮がまりんの事を見ると、高宮の表情は今までの怒りの表情から、納得したと言う表情に変わった。
なぜならまりんの表情は、明らかに怯えきった表情で、尚且つ汚物を見る様な目で高宮を見ているからだ。
「な?今のお前が話し掛けた所で無理そうだろ」
「……そうだな、ありがとうよ。出直して来る」
そう言いながら、高宮はA組の教室の中に入って行った。
高宮は、オラオラ系の代表的な人間だが、物分りは良いようだ。
それと意外な事に、高宮もA組なようだ。
食堂で名門と言われていたので、当たり前と言われれば当たり前なのだが、高宮の振る舞いを見ている俺には、驚きでしかなかった。
「じゃー俺達も教室の中に入るか。行くぞまりん」
「え、うん……」
俺とまりんも高宮に続き、教室の中に入った。
教室の中は、ザワザワと騒がしい雰囲気に包まれていた。
おそらくだが、他の組でも同じような状況だろう。
特に女子は、早くもグループを作って会話をしていた。
席は特に指定されていないので、適当な席に付いた。まりんも俺に続き、隣の席に付いた。
特にやることもないので、まりんと話そうと思った矢先、突然誰かに話し掛けたられた。
「やぁやぁ久しぶりだね?」
声の主は、気さくと言うよりも胡散臭い笑顔で俺に話し掛けてきた、黒葛原だった。
「何の用だ?」
「君と仲良くしたいと思ってね」
黒葛原はそんな事を言っているが、こちらとしては仲良くなんてしたくない。
俺の黒葛原への印象は、最悪でしかないからだ。
「そうかい」
「おっと冷たいな……ところで君の名前は?」
冷たい態度であしらおうとしたが、黒葛原には通用しなかった。
しかも冷たく接したのに、神経が図太いのか名前まで聞いてきた。
「……月如深夜だ」
「へぇ月如深夜ね……」
俺は名前くらいなら答えても良いと思い、黒葛原に名前を答えた。
何故かは知らないが、黒葛原は俺の名前を聞くと、表情を気持ちが悪いくらいに歪ませていた。
俺は、黒葛原とこれ以上会話をしたくないので、無言で立ち上がりトイレに向かった。
さすがの黒葛原も付いてくる気は無いようだ。
(何故俺は黒葛原に、こんなにも嫌悪感を抱いてるのだろうか……)
俺はトイレに向かう途中、ふとこんな事を思った。しかし、俺にはこんなにも黒葛原に嫌悪感を抱く理由が分からなかった。
確かに第一印象は最悪だったが、そこまで嫌悪するまででは無い筈だ。
ただし、一つだけ分かる事がある。
それは、俺が黒葛原と言う人間を恐れているという事だ。
何に恐れているかは分からない。直感というやつだろう。
結局俺は、黒葛原に異常な嫌悪感を抱いている理由が分からないまま、トイレへと着いた。




