学食
食堂は、総席数三百程あった。
そして、その席は既に殆ど埋まっていた。
「席空いてないな」
「そうだね⋯⋯」
俺とまりんはこの事実に、呆然とするしかなかった。
空いている事には空いているのだが、四人席の内一つ空いているだとかの、とてもではないが、割り込める様な雰囲気を出していない席しか空いていなかった。
「どうする?」
「私は待ちたいけど⋯⋯あっ!深夜あの席空いてるけど⋯⋯」
どうやらまりんが空いている席を見つけたようだ。
その席は三人席だった。
しかし、その席には既に一人座っていて、二席空いているという状況だった。
これで俺達がそこに座るとなると、相席になってしまう。
「まりんが相席でもいいなら、俺はあの席でもいいよ」
「私は全然大丈夫だよ」
まりんから相席の許可を得たので、先客に相席をしても良いか聞きに行く事にした。
「相席してもいいかな?」
俺は先客に、相席をしてもいいか質問した。
「ん?⋯⋯」
しかし、その先客は「ん?」と発したきり、俺を見て固まってしまった。正確には、俺とまりんを見てと言った方が正しい。
「いいんだけどさ、逆に俺が相席していいのか?」
しばらくすると、先客はそう言った。
⋯⋯なるほど、年頃の男女が一緒にご飯を食べに来るとなると、カップルに見られてもおかしくはない。
「あぁ問題無い⋯⋯勘違いしないように言っておくけど、俺とまりん⋯⋯隣に居る女の子はカップルではないぞ」
「⋯⋯了解」
俺は了承の意思を伝えた。
「まりん、何食べるか決めた?」
「私はまだ決まってないよ⋯⋯先に頼んでていいよ」
まりんは、食堂のメニューを見て、何を食べるか迷っていた。
俺の知っている食堂は、十品程しか無かったが、この学校の食堂はファミレスと比べても、差異がないと言えるほど量が多かった。
それが食堂と言うまりんにとっては初めての場所なのだ。それならば何を食べるか迷っても無理のない話だ。
「決まったよー」
どうやらまりんも決まったようだ。
俺は注文をする為に、手作りのボタンを押した。
まりんは、全自動のボタンを押していた。
今の日本での注文の仕方は、メニューの下にある、手作りか全自動のボタンを押すだけで注文が完了する。
手作りというのは、名前の通り厨房に居る料理人の人が料理を作り、全自動は既に完成してある料理が、僅か数秒でテーブから出て来るというものだ。
ボタンを押すだけで、なぜ料理が届くかと言うと、機械がボタンを押したタイミングで注文者の魔核を記録し、食堂に居る人の中で、記録した魔核と一致する人に届けるという仕組みらしい。
魔核が同じ人間は存在しないので、間違う事はまず無いのだそうだ。
余談になるが、今の日本は魔核がお金になる。
生まれた瞬間に、国に魔核をデータとして登録をし、その登録した魔核データに給料等が振り込まれるそうだ。
魔核が無い人も居るが、その人達は指紋で払っている。
これでは簡単に詐欺等が出来てしまうと思うかもしれないが、指紋の他にもその人の臓器やらもデータとして登録しているので、詐欺られる事は殆ど無いらしい。
あくまでも殆どらしいが。
「わぁ〜凄く美味しそう!」
届いた料理を見たまりんは、顔をほころばせながらそう言った。
実際に、匂いも見た目もかなり良い。
見た目こそうどんの様な物だったが、匂いに関しては、前世で全く嗅いだことの無い匂いだった。
数分後、俺の料理も届いた。
「深夜のも凄く美味しそう⋯⋯」
まりんは俺の頼んだ料理に、釘付けになっていた。
別段まりんが食い意地を張っているわけでは無い。
本当に料理が美味しそうなのだ。
「食うか?」
「うん!」
試しに「食うか?」と質問してみたら、顔を激しく上下に振りながら、「うん」と言った。
さながら親に玩具をねだる子供の様だった。
「美味しい〜」
料理を食べたまりんは、またしても顔をほころばせていた。
この幸せそうな顔を見ると、俺も釣られて顔がニヤケてしまいそうだ。
いや、ニヤケてしまいそうではなく、ニヤケていただろう。
こんな微笑むを見せられてニヤケない男が居たら、それは男として何かが欠落しているだろう。
「ゴホン」
俺とまりんがそんなやり取りをしていると、相席している人に小さく咳払いされた。
「お前ら本当に付き合ってないの?マジでどんな関係だよ」
相席している人は、我慢の限界だとでも言いたそうな顔でそう言った。
確かに、俺が相席している人の立場だったら、小声で爆ぜろリア充とでも言っていたであろう。
だが、申し訳ないがこれは俺とまりんにとっては、普通の事なのだ。
俺の前世は高校生で、その感覚は未だに抜けていない。
その為、まりんの事は妹の様に扱っている。
「いや、ただの幼馴染みだ」
「⋯⋯幼馴染みってそんなもんなのか?」
相席している人は、納得いかなかった様だが、事実幼馴染みなのだから仕方が無い。
「まぁいいや、俺は食べ終わったから帰るな」
そして、相席している人はそう一言言いこの場を去って行った。
「まりん、俺達も食べ終わったら帰るとするか」
「わかったー」
俺達も料理を食べ終わったら帰る事にした。
数分後、俺とまりんは料理を食べ終わった。
「じゃー帰るとするか」
「うん!今日は楽しかったよ」
まりんにとっては、ご飯を食べた事が楽しかったようだ。
もちろん俺も楽しかったが。
俺とまりんはお金を払い、外に出ようとした⋯⋯その時だった。
ガシャーン
テーブルが倒れる様な音がした。
(おかしいな⋯⋯ここのテーブルは魔法で地面と接合されている筈だが)
俺は疑問に思いつつ、音の発信源に目を向けた。
そこに居たのは、身体に炎を纏っている赤髪の男と、赤髪の男を嘲笑うかの様に見ている、漆黒の黒髪を持つ男だった。




