苗字
神奈川魔法第一学校。
神奈川県に三校ある魔法学校の一つで、今回俺が受験する学校だ。
基本的に魔法学校は一つの県に一校しかないが、神奈川と東京だけは特別に複数校ある。
理由としては、人口の多さだ。
神奈川の人口は、日本で二位を誇っている。
その為、相対的に魔法使いの人口が他県よりも多くなる。
東京にも同じ理由で、四高も魔法学校が存在する。
その高校を受験するまであと一日の所まで来ていたが、俺には一つ問題があった。
それは、俺自身の苗字を知らないという事だ。
受験するにおいて、苗字は必須入力項目だ。
その為、知らないというのは受験資格を放棄すると同義である。
だから俺は苗字を親に聞いた。
「俺の苗字って何て言うの?」
「えーとね⋯⋯今度教えるね」
しかし、俺は何らおかしい質問をしていない筈なのに、親からはいつもはぐらかされてしまう。
さらに、受験一日前までになっても、教えてくれる気配が無いのだ。
(これは何か裏があるな⋯⋯)
俺は自分の家系に何かしらの裏があると、確信を持った。
(言えるわけがない⋯⋯)
息子の深夜に「俺の苗字って何て言うの?」と聞かれたが、素直に如月だよ何て言えるわけがない。
なぜなら、紅夜の兄の子供が魔法学校に在籍しているからだ。
それに加えて、その子供の妹が、今年魔法学校に入学するという話も聞いた。
いくら他県と言えど、如月という特徴的で、尚且つ名門である苗字の子供が魔法学校に三人居ては、関係を疑われてしまう。
私と紅夜は、ここ数日ずっとこの話し合いをしているが、名案が全く思い浮かばなかった。
他にも苗字を白露にするという案もあったが、それだと名門の子供だという事が皆に知られてしまう。
名門だと知られれば、メリットもあるがデメリットの方が遥かに多い。
例えば学校で行われる魔法祭では、裏の人間に目をつけられたりだとか、お偉いさんに注目されたりだとかだ。
だが、今日ふと思い付いた。
本来の如月という苗字も知られずに、尚且つ白露という苗字を使わない方法を。
それは、苗字を偽装する事だ。
それが正しい事かは分からない。いや、実際にこれは犯罪行為だ。
だけど私にはそれ以外の手が思い付かなかった。
「紅夜⋯⋯」
「何だ?何か思い付いたのか?」
「苗字を偽装するのはどうかな?」
私は紅夜に提案した。
決定権は、如月家の紅夜にあると思ったからだ。
「⋯⋯その手があったか!よし、今すぐ苗字を考えよう」
紅夜は私の提案を受け入れてくれた。
だけど、これだけは言わなくてはいけない。
「紅夜⋯⋯偽装するのは良いけど、いずれは言わないとね」
「そうだな、それは分かっている」
私に言われるまでもなく、紅夜は分かっていたようだ。
「あと、苗字を偽装するには学校側と国への対応が必要ね⋯⋯その辺は大丈夫なの?」
「それなら大丈夫だ、考えはある⋯⋯それにあの学校に入学させるなら、俺よりもお前の方が権力を上手く使えそうなんだがな・・・・・・よし、さっさと苗字を決めて深夜に教えてやるぞ」
私は紅夜の一言の意味が分からなかったが、少し考えたらすぐに分かった。正確には、考えたというより、思い出したと言う方が正しい。
こうして私と紅夜は、さっさとと言いながらも、数時間の間偽装苗字を考え続けた。
(やっと教えてもらえたか⋯⋯)
明日は受験があるから早く寝ようと思い、ベッドに向かおうとした。
すると、突然母親に呼び止められて、苗字は月如だよと伝えられた。
(これで晴れて受験を受けれる訳だが、この苗字はおそらく偽装だな)
だが、俺はこの苗字が偽装だと思った。
なぜなら、これだけはぐらかされ続けたのに、今になって教えるというのは、明らかにおかしいからだ。
受験があるから教えたと考えれば、今になって教えたのも自然かもしれない。
しかし、苗字程度でここまではぐらかし続ける事は普通はしないと思う。
ならばいっその事はぐらかし続けて、親が学校側に苗字を伝えておく方が、どう考えても合理的だ。
(まぁいいか⋯⋯いずれ教えてくれるだろうし)
俺は偽装だと分かりつつも、いずれ教えてくれるだろうと思い、眠りに着いた。




