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6話「E531系K423」

特急型みたいな通勤型、良いよね。

高校1年生の夏休み。学校のクラスメートは初めての彼氏と~とか最高の友達と~とか言って、各々予定があるらしい。ウチは生憎お一人様なので、今年の夏休みも撮り鉄をする。でも今年は去年とは違うんだよな…!


「結奈、今年の夏は泊りで遠征行くか?」


夏休みの初日、早朝のダイニングで朝食を摂っていたら、キッチンでスマホを見ながらトーストを焼いてたお父さんが声をかけて来た。我が家のお母さんは朝が弱いので、早い時間はお父さんと二人になることが多い。


「特に決めてないけど。関東は行きたいなって思ってるよ。」


お父さんが焼いてくれたトーストを齧りながら答えた。


「そうかぁ。もう高校生だし、今年からは一人か?」

「え!?いいの!?」


驚きのあまり立ち上がった。


「高校生は親の同意書があれば外泊はできるからな。父さんが書いてやるよ。」

「い、いいの!?本当に!?」


正直一人で動く方が、気分でどこへでも行けるので都合が良いのは確か。でもこうもあっさり一人旅を認めてくれるとは思ってなかったから拍子抜け。


「まぁ泊りの一人旅の一つや二つ、経験しておいた方が将来のためだからな。母さんはとやかく言うかもしれんが、父さんは大歓迎だ。」

「本当に、ありがとうございます。」


敬語で頭を下げることしかできなかった。


「いいんだいいんだ。顔を上げてくれ。去年まで日帰りでも一人で出かけてたんだ。少なくとも、家には帰って来れるだろう。どこに行くにしろ、旅費と同意書は父さんが出してやる。その気になったら、遠慮せずに言ってくれ。」

「わかった。ありがとう。」


ありがとう。その言葉しか出てこない自分の語彙力に腹が立った。お父さん、やっぱりあなたは越えれません…。



その1週間後。


(さぁて、着いたぞ。)


案の定お母さんにはぶつくさ言われたが、お父さんの説得で何とか家を出てこれたウチは18キッパーして愛知県、横長の静岡県、神奈川県を超えて上野東京ラインの分岐点、上野駅にやってきた。


(だいたい13:30か。どこ行こうかなぁ~!!)


昼飯は沼津の乗り換え時間で駅前のコンビニに寄ったのでグリーン車に乗ってる時に済ませた。遠出のお供はやっぱりコンビニだよ。


(でもその前に、地平ホーム寄ってこう!)


ウチは上野駅に来たら必ずやることを決めている。それは上野駅の地平ホーム、特に13番線に寄ること。なんでかって?簡単な話でさ。"上野駅発着の寝台特急"を感じたいだけ。別にここに来たから、それが見れるわけじゃないってのは知ってる。ただ、それらが発着していたのは紛れもないこのホームなわけで、ウチはそんな神聖な場所の空気を味わいたいだけ。正直言っちゃうと、13番線は四季島用に13.5番線に名前を変えて、今はあんまり原型残ってない、廃墟みたいな印象を受けるんだけど、ウチは廃墟でもそこに確かに存在した、それを味わいたいがために毎回ここにきている。


「すーっ…。は~…。」


地平ホームで深呼吸をする。傍から見れば変な奴だってのはよーくわかってる。でもウチはオタクだから。電車オタクなんて変な奴ばっかだし、今日のウチはいかにもオタクって恰好だから大丈夫っしょ。


(…。)


やっぱり無心になる。これも寝台特急への憧れなのかなぁ。ウチはかすりもしない世代だったけど、5~6歳年上の人らの話を聞くと大人になってから乗れって言われて、大人になったころには全部廃止されてて悔しい思いをしたって聞くから、可哀そうだなって思う。知る前に無くなってるより、知ってて乗れずじまい見れずじまいの方がダメージ大きいよね。


(さて、今日はどこに行こうかな。)


とりあえず空気は満喫したので、次はどこに行こうか考える。


(去年は西武を攻めたけど、今年はどうしようかな…。)


考え事をしながら上野東京ラインのホームに上がる。


(おぉ。E531系(ごーさんいち)だ。あれもカッコいいんだよなぁ…。)


東海道線直通のE531系が入線してくる。こうやって見るとコイツカッコいいんだよな…。


(…決めた。E531系撮りに行こう。緩行線乗って馬橋にでも行くか!)


ウチは何を撮りに行くか決めたので、その方向へ向けて再び電車に乗り込んだ。



(しかしカッコいいもんだ…。常磐快速線ってこんなに楽しい路線だったのか…。)


時刻は19時過ぎ。お父さんが神田にホテルを予約してくれたので、上野駅コンコースのご飯屋でカレーを食べ、ホテルに行った。今日撮った写真を見ながら一日を振り返る。


(構図も日当たりも、何もかもが改めて見ると納得できないけど、撮ってて楽しかったし、このK423カッコいいなぁ…。)


昼間撮ったE531系に惚れ惚れする。おそらくJR型の中では一番好きな形式まである。見た目通勤型なのにE657系(ムゴナナ)みたいな特急型にも思える風格してるのがそそるんだよなぁ…。地元で撮ると2200系や383系(さんぱーさん)、西武はLaview、小田急はGSEと、ことごとく特急型を追いかけるのに常磐線に関してはこの通勤型を追いかけてしまう。E531系にはそれだけの魅力があるんだろうな。うまく言葉にできないけど。


(よし、風呂入って明日の午前中と、帰りの行程考えるかぁ。)


写真を見るのを中断し、一度風呂に入るために立ち上がる。そっか。一人部屋だし…。


(風呂入るのにわざわざ服着ていく必要ないよな…。どうせ脱ぐんだし…。)


そう考えたので、服だけ脱いで替えの下着と今着ている下着を入れるためのビニール袋を片手に、下着だけで風呂場に向かった。多分こういうところがお母さんとかの言う"女の子らしくしろ"だよね。どうせ誰も見てないんだしいーじゃんとは思うけど…。


(とりあえず風呂だ風呂。)


野暮なことを考えるのはやめ。風呂入ってリセットしよう。風呂あがったら布団に潜って明日のこと考えるか。



(いい湯だった…。)


風呂を上がり、これまた下着で風呂から出てくる。一人部屋なんだ。16歳の女子が下着でウロウロしてても誰も文句言わんだろってか、言わせるもんか。髪が乾くまでは迂闊に寝れないけど、布団に入り込む。どうせ寝るときも下着なので多分そのうち寝落ちするだろう。風呂上りすぐに潜り込むホテルの布団は良いなぁ。この冷たい肌触りと綺麗な体で綺麗な布団に潜るこの感覚。結構落ち着く。さて、どうでもいいこと考える前に明日のこと考えないと…。


(うーん…。今日は撮りに専念したし、明日はE531系に乗りに行くか…?)


泊まってるホテルは神田なので東京ど真ん中、なんなら上野は10分もかからない。


(よし。明日のハラは決まったな。E531系に乗りに行こう。帰りは…二十軒に着く時間から逆算するか。この間のこと考えて二十軒には19時に着きたいよなぁ…。)


考え事をしながら、スマホで時刻表を見ながら行程を組み上げていく。普通なら乗り換え案内とかを使うんだろうけど、ウチは今のところお世話になったことがない。なぜなら自分で組めちゃうから。なんならこの組んでる時間も楽しいまである。


前に一度、お父さんと関東に来た時、突然のダイヤ乱れでスワローあかぎに乗れるか怪しくなったことがあったが、お父さんがポケットから紙の時刻表を出してパラパラ見てたのを思い出した。お父さんの話だと「スマホで見ても良いんだけど、それだと通信状態によっては知りたい情報にたどり着くのが遅くなるし、変なところを触るとそれだけでロスタイムになる。紙ならどこのページにどの路線が乗っていたかをだいたい把握しておけば、すぐに時間だけ調べて行程を組みなおせる。」って教えてもらった。これがお父さん流の"リカバリー術"らしい。メリットはレスポンスに左右されないってところなんだけど、デメリットは記憶力がかなり必要とのこと。時刻表眺めて時間調べながら覚えてく必要があるそうな。実践したことはないけど、名鉄のポケット時刻表なんかは持ってるので、たまに授業中暇なときに眺めてることがある。時計を見て今この時間2204Fがどこを走っているか想像したり、普通列車(ダラ)に乗った気になってどこの駅に居るかを想像したりするのはめっちゃ楽しい。時刻表鉄ってこういうこと言うんだろうな。多分素質はあるから次人身事故(グモ)ったり運転取り止め(ウヤ)ったりしたらこの方法でリカバリーやってみようかな。練習がかなり必要そうだし。


(よし。こんな感じかな…。)


考え事をしながらベッドに座ってスマホ触ってたら行程が組めてた。無理なところはないか、矛盾はないかを検証してく。


(良さそうか。じゃー明日はこの通りに動こうかなぁ。)


組んだ行程はメモ帳に書き留め、明日の準備をする。っていっても、荷物はリュック一つだし、服着て帽子かぶってリュック背負って首からカメラかければもう完成だし、そんなに準備するものもないか。やることも無さそうだからスマホで動画でも見てるか。


(んー…。どうせソロだしなぁ。)


ソロなのでYoutubeで良さげな動画を探す。


(地元は明日の楽しみにしたいし、E531系もお腹いっぱいだよな…。なぁんか胡散臭い心霊動画見たいなぁ…。)


趣味、というわけではないが、たまに胡散臭い心霊動画が見たくなる。Youtubeでそういう類の動画を探すとたくさん出てくるので、鉄道以外の検索履歴はそういう動画が結構残ってる。怖いモノ見たさというより、単純に興味あるんだよね。そういうこの世のモノじゃないものに。


(寝るまでこのシリーズ見てるかぁ。)


寝るまで退屈しなさそうな動画を見つけた。これ見ながら寝落ちするかぁ。



夕べは寝落ちした後、前日の夕方に買い込んでいたおにぎりとお茶を朝飯にして、E531系に乗ってきた。


(まだ時間あるし、もうちょっと撮ってくか。)


帰りの電車まで時間があるので、御徒町で上野東京ラインを撮っていた。


(ん…?)


同業が一人。ウチの後にやってきた。この狭いショバで二人かよ…。てか今日ネタあったっけ…?


(三脚禁止(ゲバ禁)なのに三脚(ゲバ)立ててるし、足当たりそうで邪魔だなコイツ…。)


マジで常識無いのかよってくらい、攻めた三脚の置き方してる。てかすぐそこに三脚禁止の貼り紙あるのに普通に立ててるの、ある意味見習いたいな。


「…すんません。」


横に立った男が声をかけて来た。ん?中学生?結構幼く見えるし声も高い。


「なんスか?」


不満そうな声で言われたのでこっちも不愛想に反応した。マジ中学生?なんか、うわぁ…。


「そこ、邪魔だから退いて?」


衝撃なんだけど。ウチの方が先にこのショバに居たんだが?


「いや、先に来たのこっちですし、ここ三脚禁止って知らないんスか?」

「三脚禁止なんて言われてませんよ??」


舐めた口調で三脚禁止知らんが返ってきた。そこに貼り紙してあるやんけ…。


「そこに三脚禁止って書いてありますし、ショバは早い者勝ちだと思いますけど?」


ウチはまっとうなことを言ってるつもりである。間違ってるというのならぜひとも間違ってるところを教えて欲しい。


「ショバは皆のモノだし。それに、三脚禁止なんてどこに書いてあるんですか??言いがかりですか??僕に撮らせまいとするいやがらせですか??警察呼びますよ??」

「…。」


話にならなそうなのでもう無視して撮ることに集中しよう。怠いヤツに絡んでるほど時間の無駄になることはない。


「ねえ??聞いてます??ビッチのくせに、撮り鉄なんかやってオタサーの姫なんですかぁ??」

「あぁん?」


聞き捨てならねぇ悪口言われたから思わず反応した。誰がビッチだ。ウチは彼氏居ない歴=年齢の処女だっつーの。てかオタサーの姫はこの世で最も嫌いな人種なんだが??


「あのねえ。自分勝手だと思わないの?皆のモノなら、譲り合おうとか思わないわけ?」

「お前が退けば済む話だろ。さっさと退けよクソ女。」

「チッ。」


ムカついて思わず舌打ちした。誰がどんな趣味やってようが関係ねーだろうが。さてはコイツあれだな?マスゴミ精神で撮り鉄やってるだけのコレクターだな?


「そうかい。じゃあ勝手にすれば。」


キレそうなのでもう退くことにした。こんなクソガキの相手してたら時間がもったいない。


「最初からそうしろよ。」


クソガキがそう言いながら三脚を動かす。そしたら運悪くウチの方にゲバが倒れて来た。


「痛った!」

「おい!壊すなよ!」


クソガキに腹パンされる。


「三脚立てる方が悪ぃだろが!」


カッとなって言い返した。


「うるせぇ!オタサーの姫が僕のショバで撮り鉄すんな!」

「誰がオタサーの姫だクソガキ!」

「お客さん!トラブルですか!?」


いよいよ駅員まで出てきやがった…。


「この女が僕の三脚を、」

「また君か!三脚(さんきゃく)はダメだし、この間出入り禁止と言ったばかりだろう!?」


駅員がクソガキに注意する。てか出禁くらってこれなのかよ。ある意味尊敬するわ。


「ちっ。」


クソガキが不満げにゲバを片付けだした。


「お客さんすいません。」

「いえ、ウチは大丈夫です。それよりこのクソガキ、三脚(ゲバ)を倒してきたうえに腹パンまでしてきたんで。あとお願いします。」

「暴力までやったとあっちゃ、看過できないな。君、駅員室に来なさい。親も呼ぶ。」


駅員が静かに怒りを表した。


「僕はただ、」

「言い訳は後で聞くから。こっちのお姉さんにごめんなさいしなさい。」

「…。」


クソガキは不貞腐れて何も言わなかった。


「すいません。ウチはこの後予定があるんで、失礼させてもらいます。」

「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。」


駅員がぺこっと頭を下げたのでウチも会釈してその場を去った。まぁ初対面の人にビッチとかオタサーの姫とか言うんだから、ろくでもない教育されてるんだろうな。というかモロに腹パンを食らったのでちょっとお腹が痛い。ショバで口論は何回かしたことあるけど、暴力振るわれたのは初めてだな。これも経験か?どっちにしろ興醒めしちゃったからさっさと帰ろうかな。名鉄、特に2200系が妙に恋しく感じる。よし。ちょっと早いけど、帰って名鉄を撮ろう。2200系に乗ろう。そう思って、帰路に就いた。


2022/8/2 平野結奈

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