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5話「3150系3151F」

初めて"学校の友達"と出かけた高1の夏。

「テスト終わったー!」

「ちょっと…。図書室なんだけど…。」


テスト終わり。放課後の溜まり場になった図書室に入って、開口一番テスト終わりの喜びを表現すると、図書委員の九条さんに注意された。


「ごめんごめん。」

「しかし、高校のテスト終わりってこんなに清々しいんだねぇ。」


カウンターでスマホを3台くらい並べて触ってる九条さんが口を開いた。確かにそうだ。


「午前終わりなのに、わざわざ図書室でスマホいじりしてる九条さんも暇人だね。」

「ひ、否定はしないけどさ…。」


実はウチも午前終わりになるとは思ってなかったので、弁当を持ってきている上に、この時間で家に帰るとお母さんにサボりと勘違いされて面倒なことになりかねない。


「んー。」


ウチはスマホを見た。今日は金曜日。帰りに撮り鉄してこうかと思って、カメラは持ってきた。時間はある。財布にお金もある。よし。


「九条さん。」

「へっ!?何?」


ウチが突然九条さんに声をかけたので、九条さんが驚いた。


「この後時間ある?」

「あるよ。なんで?ご飯でも行く?」


九条さんの方から飯の誘いが来た。でもウチが誘いたいのはそっちじゃないんだよねぇ。


「九条さん、お昼ご飯持ってきてる…よね?」

「そう。お弁当持ってきちゃったんだよね。」


あ。好都合だ。じゃあ遊びに誘ってみようかな。


「今からモンキーパーク行かない?」


同じ趣味のオタクと遊んだことはあるけど、普通の友達と遊ぶのは初めてかも。


「えっ?」


九条さんが困惑してる。そりゃそうか。唐突すぎたもんな。


「犬山遊園から歩いて20分くらいだからさ。行かない?」

「…!!い、行く…!絶対に…!」


九条さんがすごい驚いてて、でも嬉しそうに準備を始めた。そんなに嬉しかったんかな?


「九条さんって学校まで何で来てる?」

「親に送迎してもらってる。」

「じゃあ、駅まで歩きかなぁ。先に昇降口行ってるね。」

「はーい。」


ウチはチャリ通だから、二十軒まで歩きでゆっくり行こうかな。そう考えながら昇降口に向かった。



「お。今日の乗車電は3151F(さんいちごーいちえふ)か。トプナンいいね。」

「とぷなん?」


九条さんと二十軒駅からダラを捕ます。乗車電は3151Fなので転クロが付いてる3150系の1次車。しかもトップナンバー。


「トップナンバーの略だよ。ここ、座ろう。」


九条さんと一緒に転クロ座席に座る。


「うん。」


九条さんの反応が毎回初々しい。


「九条さんって、あんまり電車乗らない?」

「電車乗らないっていうか、友達とこうやって出かけるのも実は初めてで…。」


そうなんだ。実はウチも友達と出かけるのは初めてって言うと、不安にさせそうだから黙ってよう。


「そういえば結奈、さっき駅に入る時に切符買わないで、カードみたいなの使ってなかった?アレ何?」


九条さんから質問が飛んできた。TOICAの事かな?


「これ?」


九条さんにTOICAを見せる。ウチは新参者だからひよこちゃんが付いてるけど、東海鉄の集まりで旧デザインのひよこなしTOICAを見せてもらったことがある。個人的にはひよこ無しの方が好きかな。


「そう。クレカじゃなさそうだけど…。」


九条さん、ちょくちょく思ってたけど箱入り娘なのかな?普通に知ってそうなことをあんまり知らない?


「これはTOICA。名鉄とか名市交(めいしこう)はmanaca、JR東日本はSuicaっての出してるね。俗にいう交通系ICカード。」

「交通系IC…。あっ。FeliCaで登録できるやつ?」


んん?知らない単語が出て来た…。


「あっ。FeliCaってのはね、要はおサイフケータイのことで…。」

「んー。スマホの事はよくわからんけど…。」


スマホが交通系ICになるって話はチラッと聞いたことがあるけど、ウチは使ってないのでよくわからない…。


「これこれ。一昨年変えたiPhone 12 miniなんだけどね。」


九条さんがiPhoneの画面を見せてくる。


「ほら。ウォレットから交通系ICカードって追加できるの。」

「へー。こうやって追加できるんだ。これでSuicaとか作っておくと、ウチみたいに楽できるよ。今日みたいに切符買わないで済む。」


PASMOもあったけど、ウチはペンギン社長にお世話になってる節があるのでSuicaを推しといた。


「ほえー。」

「これ、結構便利でさ。コンビニで買い物する時なんかにも使えるんよ。駅近の自販機ならこれでジュースも買えるし。」

「おー!それは便利そうだね!教えてくれてありがとう!さっそく作ってみるよ!」


凄い喜ばれた。そんなに喜ぶことかな?


「こんな素人知識が役に立ったんなら、とても光栄だよ。」

「鉄道オタク様々だね。アプリをインストールして…。これで申請出すのか…。」


そんなにすごいことか?まぁいいや。すごい新鮮だなぁ。電車オタクじゃない、ただの友達とこうやって出かけるの。制服デートしてるみたいだね。生憎ウチはお一人様志望だから、彼氏はノーセンキューだけど。


「できた…!モバイルSuica…!クレカチャージもできるじゃん…!」


早!ちょっと景色見てたらもう九条さんはモバイルSuicaを作ったらしい…?スマホオタクってこんなもんなのか?それとも九条さんだから?九条さんってすごい人だなって思ってたけど、こうもすごいとは思わなかったので素直に驚いた。


「ところでさ、結奈。一つ聞いていい?」

「何かな?」


九条さんがまた質問してきた。


「いつになったら私を下の名前で呼んでくれるの…?」

「あぁ…。」


そういや知り合ってもう2年とちょっと。未だに苗字で呼んでる。


「まぁ。そのうち慣れたらさ…。」


ウチは外の景色を見ながら返した。なぜ九条さんはウチを下の名前で呼ぶのに、ウチが九条さんを下の名前で呼ばないか。答えは単純で、いかにも"お嬢様"って感じの娘をそんな気やすく名前で呼んでいいのか。まだ迷いがあったから…だね。


「じゃ、期待して待ってるね。」


九条さん…笑顔でそんなこと言わないでよ…。ウチはプレッシャーには強い方だけど、そのプレッシャーには押しつぶされちゃいそうだよ…。



とりあえず流れで、ウチらは犬山遊園から日本モンキーセンター、動物園の方に来た。今日はカメラも持ってきたし、サルはもちろんだけど、九条さんにも被写体になってもらおうかな。この日の気温は30度越え。流石に6月の外はヤバいかぁ。


「…?九条さん?」


九条さんはあんまり元気がなさそう。


「暑いし、陽の気がすごいぃ…。」


陰キャだから陽の気漂う動物園とかに来ると、デバフでもかかるのか?ウチも生粋の陰キャだけど、そんなのは聞いたことがない。


「せっかく来たんだし、楽しもうよ。」


ウチは九条さんを気遣いながら鞄から一眼を出す。


「あ!一眼レフ!結奈のやつ!?」

「そう。本業は撮り鉄だけど、今日は電車以外を撮ろうかなって。」

「カッコいいね!」


九条さんにカメラ持ってる姿を褒められた。んー、実はあんまり嬉しくないんだよねぇ。


「はは。ありがとね。」


とりあえず苦笑いしといた。せっかくだし、ここらで1枚…!


「…あれ?」


なんか調子がおかしい。日当たりは良好。被写体、九条さんも良い感じの所に居る。でもこれじゃないというか…。


「ちょっと…。勝手に撮らないでよ…。」


九条さんが恥ずかしがった。


「ごめん。というか、うーん…。」

「どんな感じ?」


九条さんがウチの一眼の画面をのぞき込む。


「んー。心霊写真?」

「わぁー!敢えて言うなよぉ!」


露出シクったかなぁ?とりあえず、電車を撮るのと人を撮るのじゃ全く勝手が違うってのがわかったから、これから腕を磨いてくか…。電車は上手く撮れるだけにすごく悔しい。クソぅ…。練習あるのみだな…。



楽しい時間が過ぎていくのは本当に早い。閉館時間になったので九条さんと帰路に就いた。


「今日は楽しかった。ありがとね。」


九条さんがお礼を言ってきた。


「ウチの方こそ楽しかったよ。付き合ってくれてありがとう。」

「またどこか、一緒に行ってくれる…かな?」


九条さんが恥ずかしそうにもじもじしながら言った。なんか可愛いな。


「また来よう。麗香。」


初めて九条さんを下の名前で呼んだ。


「…!!うん!!」


下の名前で読んだら九条さんが驚きながらも嬉しそうにしてる。こんな嬉しそうな表情見るの初めてだな。これからもよろしくね。麗香。


2022/6/3 平野結奈

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