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3話「311系G13」

葬式鉄してたら、学校に趣味の違う友達ができた件。

「今日は転校生を紹介するぞー。」


4月。中学2年生になった。ウチはココの所、去年の12月に運用開始した9500系を追い回したり、余命宣告された311系(さんいちいちけい)を木曽川とか岐阜駅まで撮りに行ったりしてたらいつの間にか進級してた。それと同時に転校生が来たらしい。ウチは興味ないのでとあるノートにまとめた"メモ"を見ながら聞き流してた。


(んー、G5が撮れてなくて、G2、G3、G11、G14が雲配給されちゃってるのかぁ…。)


去年よりは少し腕を上げたので、コンデジ鉄と言えど光とか構図は気にするようになった。今にして思えば9500系撮影会の写真ちょっとひどいもんなぁ…。


「く、九条麗香(くじょう れいか)です…。よ、よろしく、お願いします…。」


教室で拍手が上がる。やべぇ。ほぼ聞いてないせいでワンテンポ遅れた。


「じゃあ九条は木山の後ろなー。みんな、仲良くするように。」


先公がなんか言ってるのをほぼ聞かずにウチはネットから拾ってきた311系の運用情報と、Twitterで辛うじて収集した充当実績を基に、週末どの編成が撮れそうかノートのメモ、もとい運用表と睨めっこする。ホントは順光が良いんだけど、地元で知ってる撮影地は冬光線じゃないと上手く撮れないんよね。光は気になるんだけど、とりあえず構図を上手く組むことに今は専念してる。


(んー、今週末の充当はG4かぁ。天気どうなんだろなぁ。でも快晴って言っときながら雲配給は気象庁の得意技だし…。)


シャーペン片手に頭を捻る。


「ねえねえ!九条さんってどこから転校してきたの!?」

「髪の毛さらさらー!すごい丁寧に洗ってるんだね!」

(うるさいのが始まったなぁ。)


"九条さん"の席はウチの2つ右になったらしい。あっちの方ではさっそくクラスのうるさそうな女子が九条さんを質問攻めにしてた。こっちとしてはやかましいからもう少し静かにしてほしい。猿かよってくらいキーキー騒ぐの。ウチは節度あるオタクなので、推しの2204F見たり撮ったりできてもあんな風に喜ばないよ。


「あの…えと…。」

(ん?)


横でうるさいのが鬱陶しいので顔を上げてみた。あー…あれは困ってるなぁ。一応こんなでもTwitterでいろんな人と交流して、何人かで撮影に行くこともあったので人の顔色を伺うのは割と自信がある。


(うるさいし、助けてあげようかな…。)


ちょうどうるさくて集中できなかったので、九条さんに助け舟を出すことにした。


「おーい。田中ー?加藤ー?九条さん困ってるぞー?」

「平野さんには関係ないじゃん!」


気が強い加藤。すぐに口ごたえしてきた。


「九条さん見てみなって。困ってるじゃん?とりあえず、そっとしといてあげなよ。」

「そんなことないよね!?九条さん!?」

「え、えと…。」


あーあー加藤。それは逆効果だぞ。


「水を差すわけじゃないんだけど、アンタらうるさいわよ…読書の邪魔なのよ…。」


お。ナイスー。九条さんと席が近い綾乃が水を差してきた。そうか、名字が大村だから席近くなるのか。ちなみに大村綾乃(おおむら あやの)はウチの幼馴染。でも中学になってからあんまり喋らなくなっちゃったんだよね。


「はぁー?マジあり得んし。行こ?」

「う、うん…。」


加藤が田中を連れてどこかへ行った。マジあり得んのはお前らだろ。困ってるのくらい察しろよ。


「ふぅ。」


やっと静かになったのでウチは運用整理を再開する。


(この調子だと、G5撮れるのは3週間後かぁ。この日晴れてくれればいいけどなぁ…。)


んー。撮りたいモノほど本番で雲配給されるのが相場だからなぁ。今からすごい怖い。


「平野さん…?あの…、ありがとう…。」

「お?」


九条さんがわざわざ席を立ってお礼を言いに来た。


「いいよあのくらい。丁度アイツらがうるさかったところだし。」


ウチはウチで、九条さんには興味がないので、運用表を見ながらテキトーに返す。


「これは…何を書いてるの?」


九条さんが聞いて来た。


「趣味だよ。」


こちらも詳しく答える気は無いので、一言だけ返す。


「趣味?」


食いついて来た時は追い払うのも含めて、オタク全開で話す。


「JR東海も、315系(さんいちごけい)なる新車を出すってプレス出してきたもんでね。311系も余命宣告されちゃったからさ。G1~G15までうまく撮り収めたいんだけど、中々うまく行かないんだよねぇ。」

「へぇ…?」


大抵はここまで話すと「うわ…ヤバいヤツ…」みたいな顔してどっか行くんだよね。


「言ってることはよくわからないけど、楽しそうなことやってるんだね。」

「へぇ?」


引き下がると思ってたら少し食いついて来たので変な声が出た。


「…興味あんの?」


モノは試しってことで、九条さんに聞いてみた。


「…うん。」


うんと来たかぁ…。


「…放課後、ウチは図書室に居るから。」

「へ?」

「一応図書委員だもんでさ。来たかったら来な。」


とりあえず、言うだけ言ってみといた。教室でこんな濃い話するのもヤだし。まぁ来ないだろう。



放課後、いつも通り図書室のカウンターで図書委員の仕事をする。とはいっても、この学校の図書室にほぼ人は来ない。綾乃が月に1回くらい小説を借りたり返したりするくらいなもんかな。すぐに家には帰りたくないんだけど、やることがないので図書室って場所を合法的に使って、趣味を楽しんでる感じかな。写真部もないし、特に運動にも興味がないから部活には入ってないのだ。


「んー…。」


今しがた運用情報を調べて書いた直近3週間くらいの充当予測を眺める。うーん。まだ猶予はあるけど、やっぱりうまくいかんのよなぁ…。


「し、失礼します…。」

「ん?」


聞きなれない声がしたので顔をあげた。


「九条さん。ホントに来たんだ?」


扉の方を見るとそこには九条さんが居た。


「だって、放課後はココに居るって…。」

「まぁそうだけどさ。」


確かに放課後はココに居るって言ったのはウチだ。でもホントに来るとは思わんじゃん…。


「…それ、昼間見てたやつ?」


九条さんがカウンター前まで来て質問してくる。改めてまじまじ見ると、九条さんって可愛いんだな。青い目と赤い四角淵の眼鏡。俗にいう眼鏡っ娘ってやつだね。それに黒くてサラサラのロングヘア。結構入念に手入れしてるんだなぁ。まるでお嬢様って感じ。運用表とかカメラ、模型は手入れするけど、自分の髪は手入れしないウチとは大違いだ。


「今ちょうど運用情報全部調べたから、直近3週間くらいの予測を立てたところ。ダイヤ乱れとか、名工入場(めいこうにゅうじょう)が無ければ多分こうかなー。」


理解してもらう気はさらさらないので、思ったことを口にする。


「これ、何の表なの?」

「311系の運用表。」

「さんいちいちけい?」

「JR東海の近郊型電車だよ。余命宣告されちゃったから撮らなきゃ。」


ここまで口にすればもうわかるよね?ウチはそもそもこの趣味隠す気ないし。


「へー。平野さんって、電車オタクなの?」


来たぞ定番の質問。


「そうだよ。悪い?」


大抵みんなここで引くので、敢えて意地悪な返しをしてみたりとか。


「ううん。結構ディープなオタクかなぁとは思ったけど、電車オタクだったんだぁ。」

「何が好きでもいいじゃん?ウチはこの趣味のおかげで今すっごい楽しいよ。」


これ、マジでそうだから。趣味すら無さそうな田中や加藤よりは私生活が充実している自信がある。


「良かった。平野さんとは友達になれそう。」

「えぇ?どういうこと?」


ちょっと困惑した。この醜態見た後で友達…?ちょっと理解が追い付かなかった。


「平野さん…下の名前、なんて読むの?」


下の名前聞かれた…。そうか、まだまともに自己紹介してねぇや。


「えっ。結奈(ゆいな)だけど…。」

「結奈って言うんだ。改めまして、九条麗香です。よろしく。」

「くじょうれいか…そんな名前だったんだ。」


名前を初めて聞いたような気がしたので、素でそんなことを呟く。


「朝自己紹介したよね…!?」

「いや、ウチ聞いてなかったし…。」


話を聞いてないのがバレるのはいつもの事だね…。


「で、友達になれそうって、どういう意味?」


気になっていたことを質問した。


「んー…。実はね。内緒にしてほしいんだけど…。」


九条さんが周りを見渡して、こっそりと呟きながら鞄からスマホを出す。


「スマホがどうかしたの?」

「えーっとね…。」


九条さんの鞄からスマホが…もう1台、2台、え?待って?どんだけ出てくんの?


「え?待って、どんだけスマホ持ってんの?」


ウチはココまでの流れで当然の質問をした。え?スマホ3台持ち?


「実はね…。僕はスマホオタクなんだ…!」

「スマホオタクって…そんなジャンルがあるのか…。」


ちょっとびっくりした。スマホなんて興味がないから、親に買ってもらった安物AQUOSを使ってるけど、九条さんは高そうなスマホを3台も持っていたから尚更だ。というか一人称僕なんだ!?そこもびっくりだよ…。


「ちなみに、それらはいくらくらいの代物なの…?」


恐る恐る聞いてみた。


「ふぅ…。平野さん相手ならどれだけでも語れそうだし、安心したよ。」

「えぇ、それまたどういう?」


答えとは言えない答えが返ってきたので再び困惑した。


「僕も、スマホオタクってだけで迫害されてきたからさ…。」

「あぁ。九条さんは"こっち側"の人間だったんだ?」


"こっち側"とは俗にいうオタクってやつね。結構普通の人から理解がないんだよねぇこれが。


「そう。だから、安心して自分の好きなことやってても否定されない友達ができて、嬉しいの。」


もう友達かい。まあいいけどさ。


「知り合ってまだ1日だよ?お互い知らないことあるじゃん?」

「じゃあ、親睦を深める意味で、お互いの趣味紹介でも…!」


お互いの趣味紹介…、いいね。


「…乗った。」

「やった!じゃあこれ、メイン機はGalaxy S10(えすてん)って言ってね、去年のGalaxyの夏モデルなの。」


あー始まったぞー。オタクの話はこういう風に始まると長いんだ…。そして興味ないジャンルだとマジで何を喋ってるのかわからん…。


「でさ、サブ機のiPhone X(てん)はiPhone初のホームボタン廃止&顔認証対応端末なんだ…」


でも、熱意は伝わってきた。何を言ってるのかさっぱりわからないけど、ウチと同じ匂いがする。これだけでウチは確信したよ。「あぁ、この娘は本気でこの趣味やってるんだな。オタクなんだな。」って。


「僕のやってることはこんな感じかな。次は平野さんの番だよ。」

「えぇ、わ、わかった。」


あんまりよく話を聞いてなかったので、突然振られたみたいで驚いた。とりあえず、ここんところ撮ってる311系見せるかな。


「ほら。ウチの本業はこんな感じ。」

「ん?SHARPのAQUOS(あくおす) sense2(せんすつー)、auキャリア版のSHV43か。動作重くない?」


スマホの画面を見せたつもりなのに機種を当てられた…。すごい。"ホンモノ"だ。


「いやいや、画面見て。」

「ん?電車?」

「そう。今んとこ一番うまく撮れた311系。G13編成。」


これは確か冬休みだったかな。木曽川で比較的うまく撮れたG13。5100F狙ったから特別快速の黄幕がマジでカッコいいんよね…。


「へー。こういう写真撮ってるんだ!」


意外と興味津々だ。じゃあ…。


「九条さん、名鉄って乗ったことある?」

「めいてつ…?聞いたことがあるくらいだね。」

「これ、ウチの推し。2204F(にーにーぜろよんえふ)。」


九条さんにウチの最推し、名鉄2200系2204Fを見せた。


「特急列車?」

「そう。ウチがこの世で一番好きな車両。憎いよねぇ。このカッコよさ。」

「へぇ…。どこが良いのかはわからないけど、その電車が大好きなのはわかったよ。」


九条さんも多分ウチと同じこと考えてる。意外と、似た者同士なのかな?


「同じこと考えてる。」


思わず声に出して笑っちゃった。


「趣味は違うけど、気が合うね。」

「これからよろしく。」


ウチはそう言って右手を差し出した。察しの良い九条さんは握手だってわかったみたい。


「ところで九条さん。さっきの質問、もう一回していい?」

「何?」


ウチはここで、気になっていたことをもう一度聞くことにした。


「スマホって、安い買い物じゃないよね?」

「うっ…。」

「なんでそんなにいっぱい持ってるの?」

「えっと…。」


九条さんが顔を赤くして恥ずかしがる。そこそんなに恥ずかしがるところか?


「恥ずかしいから…あんまり、言いたくないんだけど…。僕、親がお金持ちでさ…。」

「え?じゃあ正真正銘お嬢様なん?」


さっきここで、初めてまじまじ見た時に感じた"お嬢様"の印象は合ってたってことか…?


「うっ…。そ、そうだよ。」


九条さんがすごい恥ずかしそうにしてる。ちょっとからかってみようかな。


「へー!どうりで可愛いわけだ!」

「かっ、かわ!?」


ちょっとやり過ぎたかな。なんとなく九条さんの頭から煙が上がり始めた気がする。


「まあとにかく、これからよろしく。」

「ふっ、不束者ですが…よ、よろしく。」


九条さんが恥ずかしそうに頭を下げた。学校生活って、いつもかなり退屈だったんだけど、明日からは楽しくなりそう。そう感じた中2の春先だった。


2020/4/8 平野結奈

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