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15話「3500系3513F ~お互いに正体がバレた時って気まずくない?~」

図らずも正体はバレたけど、同時に激V被写体を見つけた日のお話。

土曜日の朝。今日は晴れてちょうど良いくらいの陽気。こんな日はどこか良いショバで撮るに限る…と、言いたいところだけど、今日は麗香とお出かけ。どうやらコスプレイベントに推しが出るらしく、それを見たいらしい。確かに、有料撮影会で良ショバ作るよってところに、2204Fが充当されたらウチだって見に行きたい。多分同じような心境だろうな。


(7:27(ななじにじゅうななふん)…。まあいいレートか。)


集合時間は7:40。10分程度の待ち時間ならちょうどいいくらいだろう。


(…やることねぇな。)


二十軒駅は対面式ホームで、上り方面と下り方面にそれぞれ改札があって、どっちも改札前には券売機とちょっとしたスペースがある。改札前通路の壁に体を任せ、どこを見るでもなく腕を組んでボーっと待つ。


(出かけるときは極力セーブしとかんと、バッテリーとモバイルデータ勿体ねぇからな…。)


沿線に撮影に出ると、こういう時はTwitterを見ているけど、今日はそういうわけじゃないので、スマホのバッテリーとモバイルデータは極力セーブしておきたい。なんか考え事でもすっか。


(あー、そういや5752とレリーフ昨日使おうと思ったらなかったんだよな…。帰りに大須寄ってくかなぁ…。)


昨日の帰りにポポンに寄って、日車夢工房の出してた2201Fを衝動買いしちゃったのは良いんだけど、いかんせん旧動力。替えようにも部品のストックがないので、せっかく名古屋方面に出るんなら帰りに寄り道して大須に寄ってこうかと思った。ただ…。


(今日は麗香居るんだよな…。帰りに寄り道許してくれるかな…てかその前に金ある?)


麗香は居るし、その前に金がないかもな…。んー。今日のところは諦めて、素直に帰って来るかなぁ。撮りに行くわけでもない、模型屋にも行かないのに出かけるの、すごい久しぶりだな。前はいつだ?その時も麗香と一緒にいたような…?確か年始に飯食いに行ったときだっけ?


(ん?)


車番こそ見えないけど、9500系の犬山行きが来た。ウチ一人ならこれ乗ってくんだけどな…。生憎今日は一人じゃないので、泣く泣く逃すことにする。


(くそぅ…。)


各務原線はこの間の3月のダイヤ改正から、ワンマン運転が始まった。そしたら9500系の運用は増えたんだけど、同時に3500系(サンゴー)のワンマン対応車もかなり増えた。3500系ワンマン車は正直好きじゃない。あれは90年代に製造された、鋼製車体のGTO-VVVF車だからカッコ良いのであって、それをやれ方向幕がフルカラーLEDに変わるだの、IGBT-VVVFに交換してモーターの駆動音が変わっちゃうだのしたら、それはもうただのゲテモノなんよ。まだ1200系(パノスパ)とか三河線の6000系(ボロクセン)ほどではないけど、内装更新されたやつなんて最悪だよ。"最近の電車"の皮を被った古い電車だもん。普通の人らが内装で車両の新しさを判断するってわかったら内装ばっか更新しやがって。車輛(クルマ)自体を更新してくれよ。


(にしても遅いな…。ウチが早いのか?)


3500系ワンマン車の事を考えていたら時間が過ぎたかな?と思って腕時計を見る。7:35。集合時間は5分後って言ったけどなぁ。


「お?」


目線を岐阜方面に向けると見慣れた人影が。あのゆらゆらと揺れるロリは…麗香だ。すっげぇ眠そうだ。


「麗香ー?こっちこっちー!」

「結奈ー。おはよー。」

「おはよー麗香!」


やっと話し相手が来たぜ!これで暇せずに済む!


「…なんか、オフの結奈ってかなりダサいカッコしてるね。」


ウチをじっと見た麗香が言う。そういや私服で出かけるの、地味に初めてだっけ?てか言ってくれるなぁ…。


「そういう麗香は…地雷系?」


小牧線300系の帯みたいなピンク色の服とか、厚底の靴とか。てか普段の麗香ってもう少しチビだったよな…?靴だけでこんな身長かさ増しできるもんなんだな…。


「うっさい。私はこういうのが好きなの!」

「じゃあウチは着る服には興味ないからそれぞれ好み、ってことで良いね。」

「一緒にすんなし。」


不機嫌そうな麗香と一緒に改札を通る。


「まーあれよ。変な帽子かぶって、ストライプのTシャツにジーンズくらいなら、こんなデカいカメラ下げて、レンズとゲバ詰めたリュック背負ってても違和感ないでしょ?」


傍から見て如何にも"ヤバいヤツ"であれば、他のヤバいヤツも寄ってこなくなるっていう人間の心理を突いた戦法…とでも言っておこうか。カッコつけてるけど、実際のところは着るものに頓着が無いから、着れればなんでも良いと思ってるまである。


「結奈、ちょっとオシャレすれば普通に可愛いと思うんだけどなぁ。」

「ウチは可愛さ求めてないからさ。」


軽率に尊厳破壊するの、個人的には勘弁してほしい。女子だけど、可愛くなりたいって心理は全くないんだよね。むしろ逆で、ウチは可愛くなったらそれは多分ウチじゃないんよ…。普通の娘らが可愛くなりたいって思ってあれやこれややってるのは知ってるけど、ウチはそれができる時間があるなら、もっと写真を上手く撮れるようになりたい。お金が無くても技術は磨ける。たまに貧機材ですごい写真撮ってる人も居るわけだし。機材が良くなれば良い写真が撮れるのはそうかもしれんけど、いつか良い機材を持った時。その時に良い写真を撮れるようにするために、今の機材で腕を磨いておきたい。ウチは少なくともそう思う。


「本当に趣味一筋だよねぇ。」


麗香がスマホを触りながら言う。


「やっぱ電車撮ってるほうが楽しいからさ。」

「可愛くなりたいとか思わないの?」

「ないね。」


きっぱりと即答する。そもそも客観視したときの見てくれを気にしてるなら、撮り鉄はやらない。


「返事が早い…。」


麗香がまた呆れてる。まぁこのやりとりも日常だな。


「ん?乗車電3513F(さんごーいちさんえふ)とかマジか。最悪だな。」


さっき好きじゃないって言ってた3500系ワンマン車来やがった…。乗車記録で側車番だけスマホで撮っとくよ。


「本当に興味なさそうだね。」

「今は電車(これ)にしか興味ないからねぇ。」


3500系の扉が開いたので麗香と乗り込む。


「結奈、もう少しオタク抑えれば彼氏くらいできると思うんだけどなぁ。」

「足手まといになるし、興味ないからさー。」


他愛もない会話をしながら鞄をおろしてロングシートに座る。ロングシートに座る時は必ず角を取るよね。麗香も隣に座ってきた。


「とりあえず、この3500系で新鵜沼行って、新鵜沼から急行に乗り換えるから。始発だし、座れるだろうからそれまで耐えようぜ。」


耐えるってのは、3500系が来たって忌々しさに耐えるって意味ね。


「はーい。」


麗香は座った瞬間スマホ触りだした。ホントに生粋のスマホ大好きっ娘だな…。


「麗香は今日は何目的?」

「よくぞ聞いてくれました。ほら。」

「んー?」


麗香が何かのアニメと思われる画像をスマホで見せて来た。


「この娘が見たいの?」

「そう!Reゼロのレムりん!この娘、胸は大きいから見ごたえは良いよ!」


あー…。ウチの知ってる九条麗香という女は、軽率に女性にセクハラしようとするんだよな…。


「すーぐ隙あらばセクハラしようとするんだから…。」

「でも、可愛い女の子にはセクハラしたくならない!?」

「ないない。」


可愛い女の子にセクハラしたくなる心理は、今のウチには理解できないので、真顔で首を横に振っておく。


「ほら、ロズワール邸のメイドにはレムとラムが居るんだけどね、私はレムりん派なの。」

「へー。青か赤か…。2000系と2200系みたいな感じか?」


青髪の娘と赤髪の娘が並んだ画像を見せられた。こうやって見ると2000系と2200系みたいだな。


「へ?」

「あれだって、青を基調としたデザインか、伝統の名鉄スカーレットをあしらっているかじゃん。」

「電車わかんないよぉ…。」

「ウチは断然2200系派だから赤だな。」

「あっ、そう…。」


あ!今のは分かるぞ!さては引いたなー!?


「あ!電車で例えるのかって思ったなー?」

「ふふ。さてどうだろね?」


誤魔化すようにスマホ見たって無駄だぞー!


「そんな顔してるじゃーん!」

「可愛い女の子はいじめたくなるじゃん?」

「あぁ。そんなこと言うんだー??」


これは墓穴を掘ったな。この場合、麗香を可愛い女の子としたら、ウチが麗香をいじめたくなるって心理は成立するわけだ。


「ウチ、麗香なんて置いていける自信あるから、途中で置き去りにしてもいいんだよー??」


というわけでちょっといじめてみた。


「すいませんでした。許してください。」


麗香がスマホを膝に置いて両手を合わせて切実に頭を下げた。


「よろしい。」


こんな他愛もない会話が、日常が楽しいって感じるから、麗香はやっぱり良い友人だな。そう思うよ。趣味が合うってわけじゃないんだけど、良い友達を持ったと思う。ウチは群れるのは好きじゃない、一匹狼の電車オタクだけど、こんな変わった奴と友達でいてくれる麗香にはホントに感謝してるよ。



そこからだいたい2時間。コスプレイベントの会場に来た。綺麗な花畑があちこちに広がってるので、密かにウチの第3か第4の楽しみになりつつある、花の撮影をしたいところなんだけど…。


「お。コスプレしてる人いるよー?」


今日の目的はコスプレイヤーさんの撮影。ウチは普段、無機物か人間以外の生き物にカメラを向けてるので、人間を上手く撮れる自信は正直ない。


「んー?何のアニメだったか…あ!去年放送されてたリコリコのたきなちゃんかー。可愛いよねーあの娘も。」

「せっかく撮影者で入場したんだし、写真撮らせてもらわない?」

「え…でも…。」

「はぁー。外に出ると途端にこうなんだから…。」


なんでそこで迷うんだよ。コミュ障だからか?中学の時知ったんだけど、麗香はコミュ障らしい。いや、転校初日にウチに話しかけれてる時点でそれはないだろ。って思うけど、こういうところで初対面の人間と普通に話すのって、意外と難しいのかもな…。でもウチはそうじゃないので、代わりにウチが声かけてあげるか。


「まぁいいや。麗香にウチが鉄ヲタでよかったって思わせてあげる。」


ウチは麗香にそう言って、麗香が目を付けてたコスプレイヤーさんに声をかけた。


「すいませーん。写真撮らせてもらっても良いですかー?」


こういう時は無難に用件だけを伝える。必要以上のコミュニケーションを取る理由が無いからね。


「ええ。いいですよ。どこで撮ります?」

「ここでパパっと構図組んじゃいますねー。」


許可が取れたら被写体に対して構図を組む。


(光が当たる向きはそっち。後ろの花畑がちょうど良さそうだな。)


自然光で撮る時は太陽の位置を確認して、影が伸びてる向きを確認する。やはり鉄オタなので、順光の方がテンション上がるんだよね。ほんでこの場合は背景が欲しいね。編成写真だったら車両そのものが主役で、それ以外のところはどうでもいいところだから、不自然にならない程度に最低限の余白を残して、被写体を輝かせるように撮るけど、この場合は主役である被写体以外にも情報が欲しい。そうすると背景はかなり大事になって来る。今回は後ろに花畑があるから、これをうまく背景にしよう。


「立ち位置ここらへんで、こっちの方向いて、ポーズ撮ってもらえますかー?」


コスプレイヤーさんにだいたいの構図を指示する。


「こ、こうですか?」


コスプレイヤーさんがちょうどいい感じのポーズをとってくれたので、あとはカメラの設定を弄って、シャッターを切るだけ。


「はーい。大丈夫でーす。」


麗香はまだもじもじしてる。情けないなぁ…。


「ほら!麗香!」


小声で麗香に声をかける。


「あ、あの!わわ、私も…!」

「良いですよ。」


コスプレイヤーさんは快諾してくれた。良かったぜ…。


「露出、ちょっと下げた方が良いよ。」


太陽光は強力に照らしてくれる反面、オートでカメラの設定に任せると、光を拾いすぎて画像が白くなってしまう"白飛び"が発生する。今回は白飛びを抑える目的で、露出をちょっと低めに設定した。


「…。」


本番行く前に、設定が良さそうか"捨てカット"を1枚撮る。


(これなら大丈夫そうか…。スマホに移した時にどう映るかわからんの怖いけど…。)


いつもなら練習電を何本か撮ってからの本番だから、捨てが無いのはちょっと怖い。でも電車と違って、動いてるものを撮るわけじゃないのは気楽でいいね。


「はい、チーズ!」


設定も構図も良さげなので、撮るとコスプレイヤーさんに合図する。電車撮る時は無言なんだけど、相手が人だからね。声掛けするよ。


「はい!ありがとうございましたー。今写真そっちに送りますね。Twitter教えてもらっても良いですか?」


即座に今撮った写真をスマホにWi-Fiで転送しながら、相手方の連絡先を聞く。


「はい。私のはこれです。」

「ウチ、ゆーと申します~。よろしくお願いします~。」


写真を転送し終わったので、事前に開いておいたTwitterのプロフ画面を相手に見せる。初対面の人に自己紹介する時はこれが一番早い。


「おー!綺麗ですね。ありがとうございます。ゆーさんは電車がお好きなんですか?」


お互いTwitterを見せて、写真をDMで送る。こういうところで電車オタクバレるのは、まあしゃあないよね…。


「はい。おかげさまで電車オタクやらせてもらってます~。限られた場所とタイミングで写真撮ってるので、構図組むのは得意なんですよ~。」


一つ驚いたのが、ウチは意外と人撮るのが下手じゃないってこと。じっくりとは見てないけど、そんなに悪い出来じゃなかった。ウチって意外と人撮れたんだな。


「そうなんですね。またお会いしたらよろしくお願いします。」

「ありがとうございましたー。」


コスプレイヤーさんと別れた後、後ろの方で麗香がなぜかこっちをすごいと言わんばかりの顔で見てた。なんでだ?


「すごい…こんな喋れるものなの?」

「んー。有名ショバでネタとか撮るとね、ひな壇組むとか普通にあるからさ。その場を仕切ってくれる人とは仲良くしとかないと、後が怖いし。」


ちょっと前に知ったが、ウチは撮り鉄の中でも比較的喋れるほうらしい。関東の撮り鉄はマジで話通じない奴とか喋れない奴とか多いらしいからな…。


「うーん…右の余白が気になるけど…もう遅いし許容範囲かなぁ…?」


今しがた撮った写真を、もう一度まじまじと見てみる。ちょっと被写体を左に寄せすぎたかなぁ…?右の余白が多いのが気になる。他は大体良いんだけどな…。ピン甘なウチにしては珍しく、ピントは被写体に合ってるし、色も悪くない。やっぱこれも、回数重ねて練習あるのみだなぁ…。


「結奈!」

「んー?」


麗香が興奮気味に声をかけて来た。


「あ!あれ!」

「何?」


そういや誰か人探してるって言ってたっけ。


「あぁ。あの娘が"レムりん"?」


麗香がうんうんと言わんばかりに首を縦に振る。いや、ウチ相手なんだから首肯じゃなくて声で言ってくれてもええやん…。


「行こっか。」

「え…。」


まぁーたもじもじし出した。


「せっかくここまで来たんだよ?コミュ障で目的達成できませんでした。なんて情けないだろー?」


そう。ここまで来るのに多少なりとも金を使ったんだよ。せっかく来たのに目標達成できませんでしたーが一番萎えるんだよな。ネタが運転取り止め(ウヤ)になっただとか、遅延で本命に定期が被ったとか。でも、今の目標は目と鼻の先なんだから、達成するしかないでしょ?


「やーめーてーよー!服がー、のーびーるー。」


服を引っ張ったら麗香が情けない声で騒ぐ。いや、それだったら素直について来てや…。


「すいません!写真、撮らせてもらっても良いですか!?」

「え?…ひぇ!?」

「あ、すいませ、ん?」


やべ!驚かしちゃったかな…と思って、咄嗟に頭下げて謝ったけど、ん?


(今の声…どっかで聞き覚えが…。)


顔を隠したし、今の声どっかで聞き覚えあんなぁ…。直近で会話した人、麗香、母さん、綾乃…、綾乃?


(ん?綾乃?)


綾乃の声に似てる?ていうか綾乃って身長このくらいで胸も…。まさか…?


「もしかして、人違いだったら申し訳」

「ごめんなさーい!!」

「あ!ちょっと!!」


今の声で確信を持った!綾乃だ!


「ねぇー!貴女、大村綾乃じゃない!?ウチだよウチ!平野結奈ー!」


走りながらコスプレイヤーさんの正体を確認してみる。


「ひ、人違いですぅー!!」

「じゃあなんで逃げるのさー!!」

「そ、それは…いやぁー!!」

「綾乃ー!!」


もう確定だ!あれはウチの幼馴染、大村綾乃!まさかコスプレイヤーだったなんて…。


「捕まえた!」

「ひぃ!!」

「ほれ!」

「きゃ!!」


両肩を掴んでこっちを向いてもらう。間違いない!この身長でこの胸の大きさ、ちょっと釣り目でこの声は綾乃しか居ない!


「ほーらやっぱり綾乃じゃん!!」

「うぅ…バレたくなかったのにぃ…。」

「ごめんごめん。そんな泣かせるつもりは無かったんよ。でもコスプレイヤーって意外と身近に居るんだねぇ。綾乃がコスプレイヤーやってるなんて初めて知ったよ。」


綾乃の事は昔から知ってる。でも中学入った位からあんまり喋らなくなって、高校に入ってからウチは陰キャで、綾乃は2軍くらいの陽キャだから関わる機会が減っちゃったんだよね。だから綾乃がコスプレイヤーやってるって、この時初めて知った。


「そういう結奈こそ、そんな大きいカメラ振り回して何してるのよ?」


うっ。痛いところを突いてくるなぁ…。そういや綾乃の前でこの装備は初めてだったかもなぁ…。


「あー…これはねぇ…。」

「結奈ー…。ぜぇー…はぁー…ぜぇー…。」


言い訳を考え始めたところで麗香が合流した。すっげぇ息切れしてるじゃん。


「麗香まで…なんで…?」


あ!これは話を逸らすチャーンス!


「麗香がどうしても見たいって言うからさ。」

「何を?」

「"レムりん"のコスプレイヤーさんを!」


よし!このまま忘れてくれ!


「あぁ…。え?そうなの?」


綾乃が困惑してる。良いぞぉ。そのままウチの事は忘れろぉ…。


「麗香の推しなんだってさ。」

「やっと…会えました…。私の推しレイヤーさん…。」

「推し、レイヤー!?」


おぉ。綾乃は麗香の推しだったのか。世間って意外と狭いな。


「ゆっこさん!!」


「ふぅー…。」

「おーっとぉ!!危ないじゃん綾乃!」


ちょっとの沈黙の後、綾乃が倒れそうになったので咄嗟に手が出てしまった。ん?でもこの体勢って…?


「結奈!?ていうかこれ…。」


綾乃が体勢を気にしたとき、ウチのではないカメラのシャッター音が聞こえた。


「へへっ…ありがとうございます!」


麗香が撮ったのか。ウチが綾乃をお姫様抱っこしてるみたいな体勢になってる写真を。


「麗香ー、ウチは消しとけよー?」

「いやいや、結奈がレムりんをお姫様抱っこしてる図、かなり良いよ!」

「んー?どれどれ?」


写真を撮られること自体は嫌いなんだけど、そう言われると気になるじゃん。ちょっと見せてよ。


「ちょ!結奈!恥ずかしいから降ろしてー!!」

「あぁごめんごめん。どれどれ。」


綾乃を地面に降ろして、麗香のスマホをのぞき込む。


「おー。露出ちょっと低めだね。でも構図は悪くないかも。それあとでウチのとこにも送っといてー。」


悪くない写真だね。言うてウチもあんま写ってないし。普通に構図の勉強に使えそうだから送っといてもらおう。


「おっけー。」

「シェアすんなー!!第一、なんなのよ…麗香の推しがあたしって…。」

「ゆっこさんの正体が綾乃だって知らなくてさー。しかも、今日は推しレイヤーが推しのコスするって聞いたから来たんだー。」

「推し推し言わないでよ!恥ずかしいから…。」


綾乃が恥ずかしがってる。てかそこ二人、結構接点あったんだな。それすら初めて知った。


「なんだ綾乃ー?恥ずかしいのかー?」


綾乃は昔から弄られキャラなので、こういう時は積極的に弄る。


「そういう結奈の、その大きいカメラは何よ!?まさか、あたしを撮りに来たの!?」


ぐうぇ!話を蒸し返すんじゃねぇ。


「そうだねー。レムりんはお胸がよく見えてるからこの辺を集中的にー。」

「こっち来るな変態!!」

「ぐはぁ!!推しからの罵倒!!たまらん…!」

「麗香はMか…。」


つくづく麗香の性癖ってよくわからんよな…。可愛い女の子にはセクハラしたくなるって言うわ、綾乃の罵倒はご褒美っぽいし、だからって男に興味ないわけじゃなさそうだし…。色んな癖を持ってそう。


「で!結奈!答えなさいよ!」

「あ!いや、これはね。そのー、なんだ。あれだよ。ほら。」

「何よ。」


言い訳がマジで思いつかねぇー。こういう時、他の人らはなんて言い訳してんだ…?くっそぉ…言い訳の一つや二つ用意しとけば良かったなぁ…。


「結奈、普段は撮り鉄してるのに、今日は私に付き添ってくれて、やさしーよね?」

「ゲッ!なんで言うのさ!?」


横で何事もなかったかのようにスマホを触ってる麗香が口を開いたと思ったら言いやがった!ちょ、マジでさぁ!


「撮り鉄ー??あぁ。どうりで。」

「な、何が?」

「とぼけなくてもいいわよ。昨日、各務原のイオンに居たでしょ?」

「あーそういえば会ったねー。」


そういや昨日ポポンの帰りに、たまたま綾乃に出くわしたんだよな…。ん…?嫌な予感が…。


「あたし、見ちゃったんだー。結奈が"ぽぽんでった"っていう電車グッズ売ってる店から出てくるの。」

「あれ見られてた!?」

「ええ。しっかりと目撃したわ。」

「じゃあ、ウチが2201Fのカッコよさに打ちひしがれてる姿も…?」


末恐ろしいことを一応確認しとくか…。


「ええ。ばっちりよ。」

「嗚呼…。」


終わった…。これが終わりってやつなんだな…。いやぁ…同じ学校の陽キャに身バレかぁ…。すぅー…。終了のお知らせです…。


「でも、結奈は綾乃がコスプレしてるのを知っちゃったし、逆に綾乃は結奈が電車オタクだって知っちゃったわけだから、お互い様じゃないー?」


おい麗香、しれっと綾乃のスカートの中覗き込めそうなところからカメラ構えてんじゃねぇよ。ウチまで変な奴に思われるじゃねぇか。


「ちょ!隙あらばスカートの中撮ろうとすんな!」

「まぁ、でもそっか。ごめんね綾乃。邪魔しちゃって。」


そうだな。ウチは綾乃がコスプレイヤーってこと知っちゃったわけだし、ウチが撮り鉄ってバレるくらいならフェアな身バレか。許容…はできるかわからんけど、多分ウチが知らなかったってことは、綾乃にもコスプレイヤーってことを秘密にする理由があるんだろうし、ウチの正体位なら晒しても良いのかもな。


「お詫びに、良い写真撮ってあげるよ。ウチの本気。」


そういや、綾乃にはウチが今どんな写真撮ってるか見せたことなかったっけ。裏を返せば、写真撮るくらいしか能がないからね。せっかくだからちゃんと撮ってあげようかな。


「…本当に?あたしなんかで良いの?」

「え?」


なんでそんな驚いてるんだ?綾乃位のビジュがあれば、いろんな人に撮ってもらえると思うんだけど…。


「あたし、今までコスプレしても麗香みたいなのにしか絡まれなかったのに…やっと一眼でしっかりとした写真撮ってくれる人が…!」

「ちょ!綾乃!嬉しいのはわかったから泣かないの!」


頼むんで公衆の面前で泣くのは勘弁してください。マジで。泣かせたわけじゃないんで。


「私みたいなのって…ちょっと屈辱。」


麗香…それは日頃の行いだぞ…。



「どれどれー?太陽の位置はあそこ、影はあっちに伸びてる。バリ順だとこの向きだけど、背景にできるモノが少ない。んー…。」


綾乃を連れて撮影できそうなところを探す。どうもショバ探しを始めるのは、野生の撮り鉄の習性らしい。


「そこまで気にするの?」

「なーに言ってんだ。まだ自由に構図組めるだけ良いだろ。電車撮るのに比べたら簡単だって。」


鉄道における、いわゆる撮影スポットっていうのはかなり限られてくる。


「そうなの?」


綾乃が食いついて来たので、解説を食らわせておこう。


「編成写真撮るのだけでも、バリ順で撮れる直線(ストレート)探して、そこが対向被らないか時刻表検証して、いざ現地入りしたらカメラの設定を見直して、日の丸にならないか、串パンにならないか、邪魔な信号はないか、時間によって面落ちしないか、いろいろ考える。で、ピン電でうまくいったら次は本番。練習でうまくいっても本番ミスることはよくあるから、その一瞬に全身の神経を集中させる。こういう血のにじむ努力で生み出される写真がこれ。」


概要はだいたいこんな感じだな。ウチはこの中でもピントを合わせるのが特に苦手。バリ順で撮れそうなストレート探すのは得意なんだけどね。日の丸はたまーにやるし、313系1300番台(B500)8両編成(ブツ8)みたいなパンタの多さになると、串パンは普通にやる。だからウチがここで解説したのはあくまで一例で、ウチだって全部できてるわけじゃない。だから正統派の編成写真は上手く撮れた試しがないってことを一応付け加えておくよ。


「んー、それだけやってこういう写真なんだ…?」


ウチが見せた御油で撮ったバリ順の2204Fの写真を見た綾乃が困惑する。そりゃそうだよな。編成写真ってそういうもんだよ。


「私らには理解できない領域なんよ本当に。」


麗香も同じ意見みたいだ。


「そう。でも鉄道写真なんてそんなもんなんだよ。他にもスナップとかね。これは新鵜沼でたまたま居た立ち番が列車見送ったところ。」


新鵜沼でたまたま立ち番が居た時にそれっぽく撮ったスナップ写真。撮り鉄的視点から見ると、これはどういう評価をしたらいいん?って写真なんだけど…。


「あ!これはなんかエモいわね!あたし、こういう写真好きよ。」

「おー。こういうのは良いね。背景のぼかし方うまーい。」


普通の人らにはこれくらいの方がウケるんだよな。


「ね。だからウチ、多分綾乃を綺麗に撮れるよ。あ、こことかさ。」


ちょうど良さそうなバラがあった。バラは撮り応えある花だから嫌いじゃない。


「綾乃、ちょっとここに立って。」

「え?」

「なんかポーズとって。できればメイドさんっぽいの。」


綾乃をバラの前に立たせて、ポーズを撮るように指示した。


「じゃあ。」


お。メイドさんっぽいポーズだ。


「お!良いねぇ。日当たりも十分。んー…近いなぁ。望遠でゴリ押すかな。」


18-55mmの標準レンズだと撮りづらいなぁ…。ダブルズームキットに付いてきたもう一つのレンズ、55-250mmっていうちょい望遠レンズを使って遠目から圧縮してみるか…。


「撮るよー!はい、チーズ!」


んー。被写体からはだいぶ離れたので、こっちの声が届いてるかは未知数だけど、良い感じに圧縮できてる。人撮る時はこのくらいのボケ感の方が良いかもしれんな…。


「よっし!多分うまくいったよ!」


とりあえずカメラからスマホに写真転送してみっか。


「どう!?どんな感じ!?」

「あれぇ?ごめん。失敗したかも。」


期待する綾乃を横目に、思ってたのと違う写真が出て来たのでうーんこの、って気分になった。


「えー!でもすごいわよこれ!なんでもっと早く教えてくれなかったのよ!」

「だって本業は撮り鉄だし…。」

「結奈はどこら辺が気に入らないの?」


麗香がウチが撮った写真の気に入らないところを聞いてきた。


「なんか、思ってた色じゃないっていうか、ちょっと違うんだよねぇ。」


ウチが気になったところは色。ピントは綾乃に合ってるし、光の当たり具合的にもう少し青い髪の毛がバシッと決まるかと思ったら、なんて言うんだろう。淡いというか、そこまで濃くないというか。


「それ、スマホの問題じゃない?」

「ウソ!?そんなに変わるの!?」


そうなの!?それだとウチが今までコレジャナイ感を感じてた写真たちは、全部このスマホのせいだった可能性ある?


「あー。そういえば麗香って…。」

「そう。私は自他ともに認める生粋のスマホオタク。綾乃のそれはiPhone 11だから、そっちで見ると発色若干変わると思うよ。」


マジか。とりあえず綾乃に写真送ってみよう…。


「来た。わぁー!すごい綺麗よ!」


綾乃がすごい喜んでる。どれどれ…。


「おー、これよりもマシに見えるね。」

「むっふー。」


やっぱり写真自体に問題あったっぽいんだけど、ウチのスマホよりはだいぶマシな見え方してた。うん。これくらいなら許容範囲だな。てかスマホに問題あるんじゃないかって視点で話し出す麗香、やっぱすげぇわ…。


「結奈!ありがとう!」

「え、ウチそんな感謝されるほどのことした?」


屈託のない笑顔で綾乃がお礼を言ってきた。ウチそんな感謝されることしたか?


「こんな綺麗な写真撮ってもらったの初めてだもん!この写真、大切にするね!」

「喜んでくれたなら、それでいいかな。」


まあ感謝は素直に受け取っておこう。こっちもこれでこんなに喜んでくれるなら嬉しい限りだし。


「ねぇ!思い出に、3人でここで写真撮らない!?」

「え、私は良いけど。」


げっ。綾乃からイヤーな提案されたぞ…。ほんで麗香は同意しちゃったぞ!?


「あー、ウチは撮る専門で撮られるのは…。」

「まぁまぁ固いこと言わずに。」


さっき袖引っ張った腹いせか!?麗香!ウチの袖を引っ張るんじゃねぇ!


「うわぁ!」


恐らくウチが綾乃のスマホの自撮りで写る画角内に入ったところで、シャッター音がする。


「ふふ。結奈、すごい顔。」

「ほらー。」


綾乃に笑われた。そもそもウチは映るの好きじゃねぇし、なんだこの顔。拒絶と驚きと色んな感情を混ぜたような酷い表情だ。


「いい思い出になったんじゃない?」

「まぁ、それもそうかなぁ。仕方ねぇなぁ。」


まぁ麗香の言うとおりだ。ここで酷い写真を綾乃に撮られた。これも一つの思い出だな…。それが良いことか悪いことかは置いといて…。


「二人はこれからどうするの?」


綾乃に聞かれた。って言っても…。


「どうするも何も、」

「ウチらの目的は綾乃だから、もうこれ以上やることないんよ。」


麗香も同じ意見だったみたいだ。


「あら?そうなの?」

「暇だし、綾乃が良ければあちこちで写真撮ってあげるけど…。」

「…!!本当に!?」


綾乃に撮影の提案をしたらすごい嬉しそうな顔になった。


「麗香も、良いよね?」


麗香に同意を求めるが…。


「胸はしっかり収めたから次はパンチラを…。」

「あーダメだこの女、完ッ全に自分の世界に入ってやがる。」

「ぜひ!いろいろ撮ってください!カメラマン結奈さん!」


すっげぇワクワクしてんなぁ。言い出しっぺはウチだし、もう断れないな…。


「…わかった。次行くか。」

「やったー!!」


結局この日はイベントが終わるまで、綾乃を撮ったり話したりしてた。ウチの正体が綾乃にバレたのは誤算だったけど、図らずも電車以外に良い被写体を見つけた。美人で撮り応えのある幼馴染。麗香には感謝しとかないとね。ありがとう。


2023/4/22 平野結奈

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