14話「3500系3502F ~学校終わりにポポンなんか行くもんじゃない~」
俗にいう"衝動買い"ってやつ。反省はします。後悔はしていません。
「お疲れー!」
放課後。バイトが無いか、ネタまで時間がある・何もネタがない時のウチは、決まって図書室に行く。
「お疲れー。」
理由は簡単で、図書委員の仕事という大義名分で、放課後も図書室に居座っている麗香が居るからだ。
「見てよこれ!買っちゃった!」
麗香が得意げに1台のスマホを掲げてきた。特徴的な赤いスマホ、カメラ周りがゴツいな。
「へー。何これ?カメラ変わってるね。」
「ふふーん。中華系のカメラフラッグシップモデルの一つだよ。下手なコンデジで撮る位なら、こっちの方が綺麗に撮れるんだ!」
麗香が興奮気味に解説する。カメラフラッグシップ…そんな言葉は初めて聞いた。
「なるほどね。ちょっと触らしてくれる?」
撮り鉄という職業柄、カメラにはやはり興味が湧く。麗香に触らせてもらえるかを聞いてみた。
「いーよー。なんならカメラは結奈に見てもらった方がいいかもだし。」
麗香は相手がウチってこともあってか快諾してくれた。腐っても撮り鉄、設定をどんなふうに弄るとどんな写真が撮れるのか、基礎がわかっているのでとりあえずその知識で触ることにする。
「どれどれ。カメラは…おー、起動早いね。」
まず驚いたのは、カメラアプリの起動の速さ。ウチのスマホはこれの倍くらい時間がかかる。
「そりゃあ結奈のスマホと比べたらメモリは3倍、しかもSoCはSnapdragon 480と8 Gen2だし…比較対象としては天と地の差だよ。」
「んーっと、お?テキトーに撮ってもこの画質…すごいねこれ。ホントにスマホカメラ?」
テキトーに一番近くの本棚を撮ってみる。といっても麗香の居るカウンターからは少し距離があるし、ウチの立ち位置もカウンター前なので、やはり少し距離がある。びっくりしたのはその画質。だいたいスマホカメラで拡大して撮ると、本のタイトルはドロついて読めたもんじゃないんだけど、これは比較的まともに写ってる。
「露出とかシャッタースピードとか弄ると化けると思わない?」
「確かに。これなら駅で編成撮るくらいならできそうかもね。望遠はやっぱ拡大するとドロ付くから、面縦とかには向かないかも。」
駅セン構図だったら、これでも十分撮れそうって思った。面縦はやっぱり遠いところを狙うから、これだと良い写真は撮れないかなぁ。拡大するとドロつくやーつ。でも素直にすごいと思うよ。一眼には負けるけど、コンデジのことを考えればよっぽど良さそう。
「で!結奈、週末!覚えてるよね!」
麗香にすごい勢いで言われた。今日は金曜日。週末出かけるってのに打合せしてないから、そりゃあ…ねぇ?
「今日はそれの相談に来たんだけど…。」
「実は現地に10時には着きたいんだよね。」
「現地に10時?んー、最寄りどこ?」
とりあえず行程を考えるために、最寄り駅がどこかを確認しとく。
「もより?」
「最寄り駅。」
「二十軒駅。」
なんだ、一緒か。ちなみに、ウチの本来の最寄りは三柿野なんだけど、こっちの方が同級生とかに出くわして面倒なことになる確率が高いので、二十軒を常用してる。三柿野を使う時は、岐阜方面に急いでる時だけ。
「同じだ。じゃあ7:40(ななじよんじっぷん)頃に駅集合で良いかな。」
時間にして2時間強ってのは調べてあったので、それっぽい時間を提案する。ちなみにこれはウチの癖なんだけど、数字を読むとき、必ず七は"なな"と読む。"しち"と読むことは絶対にない。理由は簡単で"いち"と間違えると困るから。ななじよんじっぷんと読めば7:40とわかるが、しちじよんじっぷんと読むと、1:40と聞き間違えられる可能性がある。これを防ぐために絶対に7はななと読む。あとは時間を読むときも、24時間制にして午後2時は必ず14時と読むようにしてる。
「駅に7時40分!?朝早くない!?」
「オタクの朝は早いんだぜ?」
麗香が驚いた。そんなに早いか?って思いつつ、始発で出かける時によくツイする常套句を言ってみた。
「うえぇ…確かに私はオタクだけど、朝は苦手なんだよぉ…。」
「撮り鉄やってると、始発でどっか行くとか普通なもんでね。朝強くて、夜も粘れないとこの趣味はできないよ。」
なお、実際の所は朝に弱い撮り鉄も居るし、ウチよりもタフな撮り鉄も居る。総じてどうこうは言えないけど、ウチは比較的狂ってる側だって自覚はあるよ。
「体力あるねぇ…。」
「機材担いだまま全力ダッシュとかよくやるし、地元ならチャリで走り回ってるから…。」
麗香が呆れ半分、って感じで言ってきた。まぁ、ちょっと異常ってのは認めるよ。
「そうだよねぇ。だって結奈、筋トレとかやってる?」
「特にやってないよ。」
「ちょっと腕まくって筋肉見せてよ。」
「んー。ほれ。」
これで力入れると筋肉出てくるの、マジで草なんだよな。女子で筋肉ここまで付いてるの、多分あんま居ないと思う。日常行動自体がトレーニングみたいなもんよな。あくまで鍛えてるのは写真の腕で、体ではないんだけども。
「ほらー。ウホッ、いい男…!」
それはホモだろ。
「ウチ女だし、阿部さんやめい。」
「通じるの嬉しい。」
「やかましい。」
そもそもそのネタっていつの時代のネタだよ。ていうかウチはホモじゃねぇ。あれ?この場合ウチは女だから、これは正常な感情か?わけわからんくなってきた…。
「でも本当に良い体だよね。惚れちゃいそう。」
「うっ。恥ずかしくなるから、そういうこと言わないでよ。」
恥ずかしくなってきたので袖を元に戻す。
「とりあえず、明日は二十軒駅に7時半に集合?」
「それでよろ~。あとの行程は考えとく。」
こういう時、ウチはだいたい行程を考える役兼当日の案内役になる。
「りょうかーい。じゃ、今日は早めに閉めようかな。」
「もう帰るの?まだ16時だよ?」
まだ16時。いつもなら17時くらいまでは居座るのに、今日は珍しく早く閉めるんだな。
「早く寝ないと明日起きれなさそうだし…。」
「あー、そういうこと。じゃ、ウチは市役所前でちょっと撮ってこ。」
今日はやる気がないのでエキセンをやってこうかなぁって。別に大したもの撮れるわけじゃないんよ。ただ、何か撮りたいから大したものは撮れないけど、撮れないことはない構図で撮る。それだけ。
「本当に元気だねぇ…。」
麗香にまた呆れられた。
「なんやかんや撮り鉄がストレス発散まであるからね。ドラッグみたいなモンだよ。」
「じゃ、閉めるから出てってねー。また明日。」
「はーい。お疲れー。」
荷物を持って、図書室を出る。撮って行っても良いんだけどなぁ。ちょっと時間あるんだよなぁ。
「あ、どうしよ。時間的に余裕でポポン寄れるな。んー…。」
市役所前から少し足を延ばすと各務原イオンの最寄り、新加納に行ける。幸いなことにお金と時間があるんだよな…。
「9100系、気になるから見てこうかな。」
2204Fのお供にって、ちょっと気になってた9100系の実物を見たいので、ポポンに行こう。というわけでウチはこの日の放課後、各務原イオンを目指した。
(新加納。久しぶりに降りたなぁ。)
3502Fに揺られ、新加納で降りた後、各務原イオンにやってきた。新加納なんて各務原線のショバではないし、高山本線を撮りたい時位じゃないと降りないので、滅多に来ない。
(ちょっと見るだけだし、同級生と鉢合わせたくないから早めに撤収しようかな。)
これでも一応学校帰りのJK。同級生と鉢合わせると、ウチの人権に関わるので見たい物だけ見て早めに撤収しよう。
「お。」
流石に9100系はまだ新製品棚にあるね。しかしカッコいいんだよなぁ…。流石に無動力を新品で買うとちょっと値が張るので、もう少し安く中古で出たらそっちを買おうかな。2200系の増結にはもってこいの代物だよ。
「ん。」
ひな壇ケースに反射する自分を見て思い出した。ウチ、制服のままじゃん。これ、傍から見たら不審者だよなぁ…。でも電車オタクって、ちょっとキモいくらいじゃないとできない趣味だし、エキセンでデカいカメラ持ってるわけじゃないからいっかなぁ。
「あ、そうだ。」
今日は中古コーナーを一切見ていない。ポポンの中古コーナーには稀に出物があるので、何か面白いモノは無いか探しに行く。
「お。」
これはこの間撮ってきた、お隣JR東海のHC85系だ。試験走行車しか製品化されてないけど、これはかなりカッコ良い車輛だと思う。まだ撮ったことないけど、雪の日とか激V待ったなしだよなぁ…。
「はっ…。」
フィルムに映る自分の顔を見て正気に戻った。これが俗にいう"オタクスマイル"ってやつだな…。気を付けんとな…。HCを元に戻して、なんか他のモン探すか。
「あっ!」
これは珍しい出物だ!日車夢工房がGMと共同で出したエンブレムプレート付きの2200系!だいたいこういう出物はキズあったりパーツ欠品だったりするけど、これはそうでもないな…。むしろ状態がかなり良い。お値段が…。
「2万5千円!?や、安い…。」
これ確か定価3万円超えてんだよな…。この時代の製品の中古って、そもそも玉数が少ないからお高くなりそうなんだけど、これはその逆でむしろ安い…。いや2万5千円って金額自体は安くないんだけど、これは相場考えたらかなり安いぞ…。さて、こういう時はお財布さんと相談するのがマナーだよねぇ。お財布さん、今の所持金いくらですか!
(3万円)
んっ!?か、買えちまうじゃねぇか…。家の貯金箱には2万円入ってたから、ここで2万5千円使うと総資産残りが2万5千円になる…。週末は出かけるし…。でもこの状態の2201Fがこの値段だったら…!
「すいませーん。これくださーい。」
「はーい。こちら中古品になりますので返品できませんが…」
多分こういうのを"衝動買い"って言うんだろうね。でもね、模型鉄界隈では有名な座右の銘があってさ。買って反省買わずに後悔って言われるんだよね。中古品との出会いって一期一会だから、次に遭遇できるかはマジでわかんないんだよね。だから見かけた時に買っておくのがある意味鉄則なんだよな。
「中身確認お願いしまーす。」
「はーい。」
中古品は一度中身を確認させてくれるので、テスト用の線路にモ2201を出してみる。いやカッコよすぎんだろこれ。こんなカッコいい車輛がこの世に存在してていいんか?2204Fすまねぇ…。今は2201Fに浮気させてくれ…。
「あ、これ動力は…。」
サ2401をレールオンして気づく。そういや旧モーターの2200系ってサ2400に動力入ってんだよな…。現行製品もサ2250に動力入ってるし…。サハ動力って正直キモいんだけど、床下パーツの厚みが移植を許してくれなさそうなので仕方ない我慢するか。てかコイツ旧モーターか。コアレス換装は必須だな。
「ライトは?」
サ2401をケースに戻してモ2301をレールオンして、パワーユニットのグリップを最大まで捻る。両先頭車ヘッド・テール共に快調かな。追加購入は動力とレリーフだな…。GMストア行かないとないし、これは来月以降の課題にすっか…。
「大丈夫です。お会計お願いしまーす。」
こうして、2200系を買っちまったってわけだ…。いやぁ。学校終わりにポポンなんて行くもんじゃないな…。そう考えながらウチは帰路に就いた。
2023/4/21 平野結奈




