その9 エピローグ
「スコット団長!」
団員の1人がロビーに飛び込んできた。ソフィーは顔を上げ、涙を拭った。
「どうした?」
「ロバート・ビレット氏が、意識を取り戻しました」
◇ ◇ ◇
──ソフィーとスコットは、ロバートが治療を受けているグレイストン病院へと駆け付けた。病室に入ると、父はベッドの上で体を起こしていた。
「お父さま!」
ソフィーが叫ぶと、父はぼんやりとした表情で娘に目を向けた。
「……ソフィー。わしは……。思い出した。そうか、わしは、あの女に……」
「もうすべて終わりましたわ。お父さま。安心してください」
「どういうことだ? ソフィー……。うっ」
体を動かそうとして、ロバート・ビレットは顔をしかめた。
「まだ無理なさってはいけませんわ。ゆっくり休んでください。また来ますわ、お父さま」
◇ ◇ ◇
──その後、ロバート・ビレットは快復に向かい、2週間後には退院し、ソフィーとスコットからこれまでのいきさつを聞いた。
アンナ・ガルウッドは、書類の偽造と、ビレット氏に対する暴行、窃盗の罪で有罪になった。領内の司法は厳格で、その刑罰は厳しいものであった。
──数日後、スコットはロバートの退院祝いのためにビレット邸を訪ねた。
「退院おめでとうございます、ビレットさん」
「ありがとうございます、スコット様。すっかり元通りですよ」
「本当によかったわ、お父さま」
「それにしても、スコット様、娘が色々と助けていただいたそうで」
「とんでもない、逆ですよ。ソフィーのおかげで犯人を捕まえられたようなものです」
「なんと、そうだったのか、ソフィー」
「それに、ソフィーはビレットさんの命を救ったんですよ」
スコットはロバートの入院中の話をした。
「ソフィー……もともとはわしの甘さが招いたことなのに。それを、お前は……本当によくやってくれた。ありがとう」
ロバートは目に涙を浮かべ、ソフィーの肩を抱いた。ソフィーも目を潤ませている。スコットは鼻の下をこすった。
「ところで……実は、ビレットさんとソフィーに折り入ってお話が……」
スコットが背筋を伸ばして2人に向き直った。
「私たちに? なんでしょうか」
「ぜひ、ソフィーに自警団の顧問になって欲しいのです」
「顧問? スコット様、顧問って何ですか?」
「相談役ですよ。難しい事件があったとき、相談に乗ってほしいんです」
「そんな……私にできるでしょうか……」
「ソフィーにそんなことが出来るでしょうか? スコット様」
「ビレットさん、ソフィーの鋭い観察と推理で、事件を解決できたのですよ。この才能を埋もれさせておくのは、あまりにもったいない」
「まあ、スコット様……」
ソフィーは照れたように両手を頬に当てた。今まで理屈っぽいと言われたことはあるが、こんなに褒められたのは初めてだった。
「ソフィー、お願いできますか?」
スコットの言葉に、ソフィーは父に目を向けた。
ロバートはソフィーの肩にそっと手を置くと、ゆっくりと頷いた。
「ええ……かまいませんわ。スコット様」
「それはよかった。これで、いつもそばにいられますね、ソフィー」
「え? なんとおっしゃいました? スコット様」
「いえ、なんでもありません」
「もう一度おっしゃってください!」
「なんでもありませんよ……」
◇ ◇ ◇
──こうして、ソフィーは自警団の顧問になった。とはいえ、現場の調査や聞き込みは、スコット率いる自警団が行い、ソフィーは、安楽椅子に座ったまま報告を聞き、適切なアドバイスをした。
それだけで事件が解決できた。
──しばらくして、スコットがとある事件の相談をソフィーに持ち込んだ。
「……ですから、ソフィー、犯人は見境のない男なのでしょう。なんせ、竜の絵が描かれた皿をかたっぱしから割って回っているのですから」
「……いいえ、スコット様。その男は狂人などではありませんわ。今まで割った4枚には、法則があります。おそらく、次の狙いも予想できるでしょう」
「なんですって!?」
「おそらく犯人は、今夜、ある場所に現れます。こうしてはいられません、私も行きます! 張り込みをしましょう」
「いえいえ、そういう仕事はわれわれに任せてください」
「私は自分の目で確かめたいのです! スコット様。それに……」
ソフィーが言葉を切る。スコットはきょとんとした。
「いつもそばにいるとおっしゃったではありませんか!」
「え、ええ? あのときの……? やっぱり聞こえてたんじゃないですか、ソフィー」
(おわり)
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