その7 確信
──スコットには自警団の詰所に戻ってもらうと、ソフィーは再びアンナ・ガルウッドの屋敷に向かった。
今度も予告なしの訪問だ。アンナは愛想よく迎えたが、顔に浮かぶわずかな不信感は隠し切れなかった。
「あら、ソフィー。2度も来るなんてどうしたの? 雪でも降るんじゃないかしら」
「度々すみません、ガルウッドさん。入ってもよろしいですか?」
「もちろんよ。入って。お茶でも淹れるわ」
アンナは機嫌よく応じる。その表情から不信感はやわらいだようだ。
「その前に、ブラシを貸していただけませんか? 靴に土がついたままじゃ失礼ですから」
「どうぞ」
アンナがブラシを渡すと、ソフィーは丁寧に土を落とし始めた。
「すみません。うちの花壇で花を見ていたら、土がついてしまって」
ソフィーは、土を払いながら続けた。
「花壇……そういえば、そんなのあったわね」
「ところでガルウッドさん、最後にうちにいらしたのはいつでしたっけ?」
「なに言ってるの、今朝、会ったじゃない」
「あ、そうでしたね。庭門から入ったのですか?」
「まさか。玄関からよ」
「庭門の鍵は持っていませんか?」
「……持っていないわ。なんで私がそんなものを持っていると思うの?」
「これです」
ソフィーは鍵の束を見せた。
「父の持っていた鍵束なんですけど、庭門の鍵が2つあるんです」
「それがどうかしたの?」
「だって、同じ鍵を2つ付ける必要はないでしょう?」
「それは……まあ、そうね」
「となると、何か理由があるはずですわ」
「理由? 何かしら? ソフィー」
「私が考えたのは、ガルウッドさんが庭門の鍵を持っていて、それを父に返したのかなと。見てください、このリングの傷を。ごく最近ついたものですから。使用人の全員に聞いても、心当たりがないと言うので、ガルウッドさんに聞いてみたんです」
「……いいえ。鍵は持っていなかったわ」
少し間を置いてから、アンナはかすかに乾いた声を出した。ソフィーは、アンナから目を離さない。ほんの少しの表情の変化も見逃すまいとしているようだった。
「どうにも不思議なんです。なぜ父はこんなことをしたのかと」
「そうね。でも、別にいいんじゃない? 何も不都合はないでしょう」
「そうですよね。私って、細かいことばかり気になるんですよ。理屈っぽいんで」
ソフィーはアンナに言われた言葉を繰り返した。
「ところでガルウッドさん、最近、父から何かを受け取りましたか?」
「何か、って言われてもね。何かしら?」
「例えば、お金とか……あるいは小切手とか」
「……いいえ。何も受け取っていないわ」
「昨日、あるいはその前にでも、花壇に入りましたか?」
「いいえ。花壇には入ったことなんかないわ」
「そのほうがいいですわね。私なんか、花壇に入ったからこんなに靴が汚れてしまって」
「まあ、ソフィーったら」
口ではおどけた調子だが、アンナの表情はこわばっていた。
「それだけじゃなく、服にも花の種が付いてしまっているんですよ。スコット様が、『鳥みたいに種を運んだらどうです』なんて言うんですよ」
「かわいい団長さんね」
「ところで、さっきこちらにお邪魔したとき、玄関のドアマットの近くに何かの種が落ちてたんですよ。それで気になって、その種を拾って調べたんです」
「種を……? いったい何のために?」
「そうしましたらその種、うちの花壇にある花の種と同じ種類なんですよ」
アンナの顔が硬直し、ソフィーから一瞬目をそらした。
「……そ、それがどうかしたの? ソフィー」
「あの花は、父が言うには、輸入品なのでここらでは手に入らない花なんです。それがガルウッドさん、どうしてあなたの家に落ちてるのかな、って思ったんです」
「さ、さあ。どうしてかしらね」
「心当たりはありませんか?」
「ぜんぜんないわね」
「そうですか。お話しはそれだけです。それでは、ガルウッドさん、失礼します……」
「待って、ソフィー」
背を向けたソフィーを、アンナが呼び止めた。
「ソフィー。あなた、まさか、私を……疑っているの?」
「疑う? いったい何を疑うことがありますの?」
ソフィーは不思議そうな顔をしてみせた。
「……とぼけないで、ソフィー。私を疑っているんでしょう?」
「いいえ、ガルウッドさん」
「あら、そう?」
「……確信していますわ」




